表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛を凍らせて  作者: かなえ
10/24

10

私が目覚めたのは次の日だった。


「体調はいかがですか?昨日は大変だったとうかがっていますが」


エウラが謎の緑色のジュースを差し出しながら心配そう顔で聞いてきた。

起きてすぐにこのくさいジュースは辛すぎる。


「本当に大変だったわ。よくわからないことだらけで。私が何かしたようなんだけど記憶がないのよね」

くさいジュースに顔をしかめて答えると、エウラはニッコリ笑って私にジュースを押し付けてくる。

「元気が出るので飲んでくださいね。昨日は、あのクールを浄化なさってその後疲労でお倒れになったと聞いています」


仕方なく緑のジュースを受け取ると青臭い匂いが鼻を付く。

飲まないとダメなのね。


「クールを浄化したかどうかは覚えていないけど、頭痛と吐き気とすっごい疲労感だった。今日も体が重いのよ・・・」


「あら、覚えていないんですね。凄かったということですよ。青い光がアイリ様の体から出てその光に包まれたクールがうめき声をあげながら倒れたんですって。倒れたクールはそこの神殿の神官長の息子に戻っていて”僕は父さんの希望にそえない。立派人間になんてなれなかったんだ、そして気づいたら僕はこんな風になっていた”って息も絶え絶えに語ったらしいですよ」


まるでその場に居たかようなエウラの言葉に驚く。彼女の情報収集能力は侮れないわ。


「よ、よく知っているのね。その場にいた私すら知らない情報を」

「えぇ、私の情報収集能力を褒めていただきありがとうございます」

満足げに頷くエウラに、ほめてないけどねと心の中で呟く。


「そのままその神官の息子さんはお亡くなりになったそうなんですけど、そのときに”人間に戻してくれてありがとう”そういったそうですわよ。さすが、アイリ様。アイリ様のお力で人が救われのですわ。自信を持ってください!」


力強くいうエウラに私は頷いた。

「あ、ありがとう。でも、本当になにも覚えていないのよ。次にやれっていわれても困るわ」


「そんなに真剣に考えなくても大丈夫ですよ。一回だけでも、太陽の神官の力を証明できただけできっと他の巫女さま達から文句もでないだろうし、それに!あのカイト様がアイリ様を大切に抱えてここまで運んでくださったのですから。それだけでも良かったですわね」


「えっ?カイト様がここまで運んでくれたの?」


驚く私にエウラはうっとりと遠くを見つめている。


「あの美しいカイト様が壊れ物を扱うようにやさーしく、アイリ様を抱いてこのベッドへ寝かせたのです!」


「そ、それ、だいぶ妄想はいっていないかしら?」

物語でも語るようにうっとりと語るエウラに若干引いいていると鼻息も荒くエウラは首をふった。


「いいえ!絶対にカイト様はアイリさまのことが大切なんですわ!さすがの私もそこに恋愛感情があるかどうかはわかりませんけれど、これだけは言わせていただきます。アイリ様の事が大切なのは確かです」

「そうかなぁ・・・」


エウラの妙な言葉に首をかしげているとキハルさんが迎えに来たので部屋から出る。


「本日は図書室ではなく太陽の神殿でお勤めです」

「そうなんですか?太陽の神殿は初めて入ります。月の神殿は以前カイトさまと入りましたけど」

私が言うと、キハルさんは驚いた顔をした。


「カイト様が・・・。あの方、月の神殿を閉鎖されて神殿も廃止にされそして月の神殿へと入る人間も制限されておりますから。私も中に入ったことはありません」


あの私たちに似た300年前のアイリーンとカイト様の肖像画を見せないようになのだろうか。

幸い私が昔のアイリーン様と顔がそっくりだということはキハルさんですら知らないようなのでかなり限られた人間があそこに立ち入りを許されているのだろう。

月の神殿と向かい合わせに建っている太陽の神殿へと向かうものだと思っていたのだが、キハルさんはその前を通り過ぎた。


「あれ、太陽の神殿はここじゃないんですか?」

「その太陽の神殿はかなり前から立ち入り禁止になっているんです。なんでも老朽化が激しいとか・・。

少し離れたところに建っているあの建物が現在私たちが使っている太陽の神殿です」


キハルさんに続いて太陽の神殿へと入ると、月の神殿と色が違うだけで中は同じようなつくりになっていた。

ドーム型の天井の聖堂に巫女の女性たちが数人集まって私をみるなり頭を下げた。

その中に、ミカさんの姿も見えて私は声をかけた。


「ミカさん大丈夫?」


私の言葉にミカさんはますます頭を下げた。

「太陽の神官アイリさまのおかげで、怪我一つございません。ありがとうございます」


かしこまった言い方に思わずむっとする。

明らかに昨日、私は覚えていないが彼女の命を救ってからみんなの態度が変わってしまったのは感じる。

何も出来ない娘として見られていたのも嫌な感じだったが今はそれ以上に壁がある雰囲気だ。

まだ頭を下げ続けているミサさんの顔を覗き込んで彼女の手を取った。


「やめてください。私が何かしたとかじゃないんですよ。やろうとおもってやったわけじゃないし」


「いいえ、アイリ様のおかげで私は今生きております。アイリ様はやはり太陽の神官なのだと、そしてそのお力でクールをすくってくださると、信じております」


「人々を救うとか・・・そんなことできるわけないじゃない・・・」


力なく言う私に巫女さんたちが複雑そうな顔をした。

私がやろうと思って出した力ではない。

それでも私がやったことには事実なのだ。

それでもクールから人を救うなど期待されると困る。


「そういう、特別な目で見るのはやめて欲しいです。私にもどうしてそういうことが出来るのか不思議ですし、私はアイリーン様のように愛にあふれた方ではないので私を太陽の神官として崇められるのは正直困るし怖いです」


私の言葉に巫女さんたちが困惑気味に顔を見あせた。

ミカさんが力強く頷いて私の手を取って力説しだす。


「伝説のアイリーン様はお話だけの伝説の方アイリ様となんて重ねておりません。

私は、アイリ様に命を救っていただいたのです。アイリ様がそう言われるお気持ちもわかります。アイリ様のおかげで救われた命があるのです。それはお忘れにならないでください。アイリさまが困るのでしたら先ほどのようなことは申しません」


「そ、そこまで大げさに言われるとまた困るんですけど、とにかく私は伝説の太陽の神官なんかではないんです!それだけは判っていただければいいです」


ミカさんが私のことを憧れの人を見るような瞳で見つめてくるが先ほどよりは少し砕けた雰囲気だ。

他の巫女さんたちも私の言葉に頷いてくれて優しい言葉もかけてくれる。


「えぇ、大丈夫ですわ。アイリーン様と重ねてみたりなどしませんし。アイリ様が嫌がることは言いません」

「そうですわよね。急にアイリーン様のようにと期待などされても困りますしね」

「そうしたら、アイリ様はクールになる人たちを救うためにその体に魔を封じ命を捧げないといけませんものね。そんなの私だってごめんですわ」


巫女さんたちが口々に言って私に笑顔を向けてくれるのを見てほっとしていると黙って聞いていたユミナちゃんが不服そうに頬を膨らませて棘のある声をだした。


「でも、そんな勝手な事許されるはず無いですよ。アイリ様は太陽の神官になったのならその力をこの世の中の人に使うべきです。ずるいです。アイリ様だけいい思いして、カイト様といちゃいちゃしているし」


ムスッとして言うユミナちゃんにキハルさんが青い顔をして止めに入るがユミナちゃんの文句は止まらない。

「私なんてカイト様とお話すら出来ないんですよ。いまだに一言も!なのにアイリ様はお話してましてや馬車まで運んでもらって。ずるいです」


「ずるいって・・・・」


ユミナちゃんからしたら私は立派な恋敵。

確かに気に食わないことは沢山あるだろう。

なりたかった太陽の神官にもなれなかったし、カイト様にやさしくされているようだし。

反論する言葉が見つからずにもごもごしてしまう私にキハルさんが頭を下げた。


「申し訳ありません。娘はまだ子供なもので。気にしないでください」

「はぁ・・」


気にするなといわれてもユミナちゃんの気持ちはすごくわかる。

私もカイト様に少しでも優しくしている女性がいたら気に食わないもの。

もやもやする気持ちを抱えたまま巫女さま達の集まりは解散した。

結局今日は、私のことを気遣う巫女さんたちと、嫉妬まみれのユミナちゃんの視線を浴びながらの座談会で終わった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ