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「はぁ、行きたくない」
大聖堂へと続く廊下で私は大きくため息をついた。
本日は太陽の神官として大聖堂で行われるミサに参加するために来たのだがどうしても大聖堂の中に入るのをためらってしまう。
偉い人が沢山いるだろうし、なんせみんなが私を期待した目で見るのが恐ろしいのだ。
それも今朝エウラから聞いた情報が良くなかった。
町の占い師たちが同じ予言をしたと「太陽の神官アイリ様がこのクール騒動を治めてくださる。太陽と月が交わるその時、その命と引き換えに。」と言っているらしい。
勝手に私の命と引き換えになど言ってほしくないものだ。
私の命でみんなが喜ぶのならそれもいいかもしれないが、どうやってクールを封じ込めるのかもわからないのに無理にきまっている。
きっとその予言のことも大聖堂に居る人たちは私に期待していろいろ言ってくるに違いない。
そう思うと気が重い。
「アイリ様、気持ちはわかりますが・・・・皆様お待ちなので早く行きましょう」
キハルさんが困ったように私を振り返った。
「わかっていますとも。でも行きたくないんです~。あの町の占い師の人たちが予言した言葉さえ聞かなければなぁ・・・」
「所詮占いです。気にになされませんように。・・・まぁ、でも外れはしないというお墨付きの占い師たちも同じ予言をされたそうですが・・。」
キハルさんの言葉にまた胃がキリキリと痛み出した。
「そんなこと言われても困るんですけど!命をさしだすのとか・・・怖いんですけど」
「貴方の命でクールがどうにかできるとは僕は思ってないし、月の神官である僕が協力を一切しないからその予言は絶対に当たらないと思うよ。気にする必要は無いんじゃない」
すぐ後ろから低く心地よい声。
驚いて振り向くと、カイト様が無表情に立っていた。
ミサは式典扱いのため、いつもの制服よりも少しだけ煌びやかでよりいっそうカイト様を美しくさせている。
「は、はぁ」
カイト様のあまりの美しさに、まともに返事すら出来ない自分が情けないが今日はよりいっそう美しいので仕方ない。
廊下の窓から差し込む太陽の光具合で、綺麗に三つ網にされた長い金色の髪がキラキラ輝いて見えるし、白い肌もキラキラ見えるし。
これが、恋する乙女というヤツかしら。
穴が開くほどカイト様を見つめていると、ふっと彼が表情を緩めた。
「多分だけど、気が重いのは取れたんじゃない?」
カイト様に言われてあんなに気分が重かったのに、今は嫌な気分一つ無いのに気が付いた。
「あ、本当だ。まったく普通になりました」
カイト様効果だわ。
私の心の中が判ったのかキハルさんがこっそりと笑っているのが見えた。
キハルさんからしたら自分の娘と同じ思考をしている私がおかしくて仕方ないのだろう。
カイト様は一つため息をついて歩き出した。
「貴女らしい」
貴女らしい?まるで私を知っているかのような言い方に首をかしげつつ、カイト様の後に続いて大聖堂へと私も入った。
大聖堂の中にすでに人が集まっており、一番奥には神殿の中では一番偉いパウロ司祭が満面の笑みで私たちを迎えてくれた。
「おぉ、やっとおでましですな。伝説のお二人様」
そういって笑みをたたえながら大きな声で大聖堂に集まった人たちに祈りを捧げるように促した。
私も、習ったとおり祈り両手を胸の前で組んで頭を下げて祈りの言葉を捧げる。
隣に立っているカイト様は祈りの言葉も口にしなければ頭すら下げることもせず腕を組んで司祭をみつめているだけだ。
ここに集まった人たちは皆頭を下げて長い祈りの言葉を捧げているというのに、驚いて見ている私にカイト様は軽く肩をすくめて見せた。
みんなが言っているとおり、本当に形だけの月の神官だ。
やりたくてやっているわけではないというのは良くわかった。
祈りが終わり、司祭様のありがたいお言葉が始まる。
「皆様、人が突然クールになってしまう現象が各地でおきております。私たちが毎日神に祈り、それでも人はクールという化け物になってしまう。友人、恋人、家族。ある日突然化け物になり無残にも殺され、殺す、悲しいことが続いていました。それももう、終わりです。ここにいる、太陽の神官であるアイリ様が治めてくれる。そう占い師たちが予言しました。なんと喜ばしいことでしょう」
そういって私を一歩前へと押しやる。パウロ司祭は笑みをたたえて話を続ける。
「300年前、伝説の太陽と月の神官はその命を捧げました。太陽の神官であるアイリーン様はクールを操っているといわれる悪いものを体に入れ、月の神官に体ごと刺されクールを滅したといわれます。
きっと、アイリ様も同じようにクールを封じてくれることでしょう」
そいういうと、大聖堂に集まった人たちからパラパラと拍手が起こる。
私が死ねばいいとそういうこと?
出来るかどうかもわからないのに。
覚悟はしていたが、実際に口に出して言われると怒りがわいてくる。
私の命で人々が救われるのならそれもいいかもしれないとは頭を掠めることはあったが、こんなおじさんに笑いながら言われれば腹もたつのが当たり前だろう。
しかし、ここで何かを言えるほど私は度胸があるわけでもなくため息をそっとついて怒りを逃がす。
「300年と同じ事をしてもクールが封じられると本当に思っておられるのですか?」
今まで興味なさそうに黙ってたっていたカイト様が冷たい声を出した。
「も、もちろんだとも」
冷たい雰囲気のカイト様に司祭が引きつった笑みを浮かべながら頷く。
普段は優しげな雰囲気を出しているだけに冷たい雰囲気のカイト様は少し怖い。
「馬鹿馬鹿しい。300年も以前のことを繰り返してそのとおりにいくわけがないでしょう。
それに、僕は無抵抗の女性を殺すようなことはしませんので、ご期待に沿えず申し訳ない」
薄く笑う冷たいカイト様に大聖堂に居た女性達のため息が聞こえる気がした。
今までにない美しさと色気がダダ漏れに見えるのは私だけではないようだ。
「大勢の人の命やクールになるかもしれない恐怖と太陽の神官一人の命とどっちが大事なんだ!」
誰かが声をあげると、他の人も野次のように声をあげる。
「そうだ、こっちはいつクールになるか毎日不安にすごしているんだぞ」
後ろのほうから聞こえる野次に城の騎士達が動き出すとピタリと野次が止まったが今度は女性達がざわざわと話し出す。
「カイト様が女性を殺したくないとかステキだわ。それでこそ騎士よね」
「本当、野次を飛ばしている男達は最低ね」
「あぁ、カイト様本当にすてきだわぁ。お姿を見ているだけで幸せだわ」
女性達は全面的にカイト様の味方のようだ。
野次を飛ばしていた男性達も、女性を敵に回せば分が悪いとおもったのかそれ以降声は聞こえてこない。
再び大聖堂に静寂が訪れた。
「太陽の神官と大勢の人の命どちらが大切かってどなたか言われましたね」
物音一つしない大聖堂の中でカイト様の声が静かに響く。
「大勢の命より、太陽の神官であるアイリ一人の命が僕にとっては大切なんですよ。もうずっと」
最後の一言は、小さく呟いたためにきっと私ぐらいにしか聞こえなかっただろう。
一瞬後、女性達の悲鳴のような声に大聖堂が大騒ぎになり、ミサどころではなくなったために終了になった。
「なんであんな事を言ったんですか?」
太陽の神殿へと戻る途中、廊下に私とカイト様、そしてキハルさん以外居ないのを確認して前を歩くカイト様に私は言った。
女性達は、300年前と同じ、アイリ様とカイト様はやっぱり愛し合っているのね、なんて口々に言っているのが聞こえたが申し訳ないほどに私たちの間に恋愛要素は無いはずだ。
一方的に私がお慕いしているだけで彼が私に対してどうのこうのは無かったはず。
私の頭の中は大混乱していたが、冷静に私は言った。
彼は少し考えるように立ち止まって、また冷たく微笑んだ。
「なぜだと思う? アイリは僕を許さなくていいんだよ」
許す?何を言っているのだろうか。
意味不明なカイト様の言葉に私は首をかしげる。
そんな私にカイト様は微笑んだまま目を細めて私を眩しそうに見つめてくる。
「僕は、アイリが太陽の神官になるのは反対なんだ。でも、キミを嫌っているわけではないんだよ。
誰の命よりもアイリの命が一番大切だ」
「えっ?」
嫌っているわけではないということは、もしかして期待してもいいということ?
思わず笑みになる私の顔をみてカイト様が面白そうに笑った。
「本当にわかりやすいね、君は。すべてを知ったら絶対にキミは僕を嫌うとおもうよ」
そういって軽く手を振って歩いていく後姿に私は思わず両手を合わせて拝んでしまった。
だって、カイト様の笑顔は神々しいぐらいにステキだったから。
「す、ステキでしたわね。カイト様に興味のない私ですらクラクラしましたわ」
少し離れていたキハルさんも顔を赤くして胸を抑えている。
「キハルさんもそう思います?もう、私今の笑顔と私の命が一番大事だって言ってもらったことで十分です。太陽の神官として命捧げられます」
私の決意の言葉にキハルさんも思わず頷いている。
「わかりますわ。そのお気持ち」
こうして私は真っ赤な顔をしながら太陽の神殿に行き、巫女さんたちに嫉妬されて大変なめに合った。




