Episode 034【当たり前のファイブ・カードとありえないファイブ・カードと】
〈ヴォルケファーデン〉にTrashとDの声が響き渡った。その声を目の当たりにしても、きょとんとしているフェル。
「フェー、マジで今まで一回も負けた事無いんこ?」
物凄い物を見ているような眼差しでフェルを見るTrash。
「うん。無いんだって」
「マジこっ!?」
フェルの話を聞いて、腕を組むTrash。そして何やら考え始めた。その様子を嫌な顔をしながら、隣でDが眺めている。フェルもそんなTrashを眺めていたが、Trashが何を考えているかは想像出来ていなかった。すると熟考に熟考を重ねたTrashがフェルに話し掛けてきた。
「とりあえず、フェー。現実世界に戻ったら、一緒に競馬行かへんこ?」
Trashの声を聞いて、「やっぱりか…」と呟くD。その隣でTrashが続ける。
「いやいや! ここは、やっぱりスロットか!? いや、やっぱでっかく競馬か!?」
考えがまとまらないでいるTrash。その顔は嬉しそうに笑っていた。
「ごめん、トラ。面倒くさいから、やだ」
「そうやろ、そうやろ。フェルも想像するだけで堪らんやろ。……って、え?」
「人多そうだし、何か面倒くさいから。僕はやめておくよ」
フェルの言葉に時間が止まるTrash。そして呆然とフェルの方を向いていた。
「残念やったの、トラ。ってか、そう言う思たわ。」
隣で固まるTrashに声を掛けるD。我に返ったTrashが再び、フェルに話し掛けだした。
「待て待て、フェー! フェルが居ったら、一攫千金やぞ!? お金持ちやぞ!?」
Trashの言葉にフェルは少し考えたが、やっぱりTrashの誘いを断るのであった。
「マジかぁ……。」
「人は楽して、金稼げへんって事やな。」
隣でヘコむTrashに、Dが声を掛けた。そんな二人を余所にフェルは、再びダビドの所に向かって行った。そして、ダビドはずっとデッキの中にあるサイコロを見つめていた。
「じゃあ、3回戦目といこうか。ダビダビ」
声を掛けられ、フェルが来た事に気付くダビド。
「嬢ちゃんの、それは素なのか? それともワザとなのか?」
「ん? 何が?」
「まあ、良いか。それじゃあ、最後の勝負といくか!」
サイコロを一つ手に取り、デッキに転がすダビド。そしてフェルもサイコロを一つ転がした。デッキの中を二つのサイコロが転がる、その様子を少し離れた所からDとTrashが見守っていた。そして二つのサイコロが止まり、最後の勝負の幕が上がった。
「今度は俺からだな」
サイコロを手に取る、ダビド。そして右手を軽く振ってから、デッキにサイコロを転がした。デッキの中を何度か跳ねるサイコロ。
「1回も負けた事ないって凄いな」
フェルを見るD。
「あいつの言う事がほんまやったら、この勝負もろたな」
Dと同じようにTrashもフェルを見ていた。
そしてデッキに転がるダビドのサイコロが止まった。そのサイコロが出した目は "3・6・2・6・6" だった。
「6のスリーカードか。まあ、良いか。」
デッキにあるサイコロを見るダビド。その表情は先程、フェルに負けた時とは別人の様に余裕があった。
「おい、トラ。6が3個出たぞ。フェル、大丈夫かな?」
「大丈夫じゃいや。今まで1回も負けた事無いんやぞ」
「やけどよ……」
そんな二人を余所に、またしてもフェルはすでにサイコロを振り終わっていた。デッキの中をフェルのサイコロが転がる。その様子を平然と見つめるフェル。そして相変わらず余裕の表情でいるダビドも、それを見ていた。するとデッキに転がっているフェルのサイコロの一つが、デッキから溢れ落ちていった。
「えっ!? マジで!?」
「トラ、やばいんちゃうこ? これ?」
サイコロがデッキから落ちるのを見て、焦るTrashとD。
「いや。まだ4個残っとるんやから、大丈夫やろ」
「かなぁ?」
二人が見守る中、サイコロが止まった。フェルが振ったサイコロが出した目は "6・4・2・6" だった。
「6のワン・ペアか……」
それを見ていたTrashが呟いた。そして、それを無言のまま見つめるダビド。
「次、ダビダビの番だよ」
ダビドに声を掛けるフェル。フェルに声を掛けられ、6以外の目を出したサイコロを手にするダビド。
「これで、いよいよ勝負が決まるな」
そう言って、サイコロを振るダビド。その仕草は今までと同じように右手を軽く振ってから、デッキに向けてサイコロを転がした。デッキの中を転がるサイコロが止まる、そしてその目は6が二つ表れていた。
「6全部揃たぞ……」
「マジでか……」
「どうだ、嬢ちゃん。さすがに嬢ちゃんでも、これには勝てないだろ?」
デッキの中にあるサイコロを見るダビド。
「そうだね。これじゃあ勝てないね」
そう言って、6以外の目を出したサイコロを振るフェル。その様子は今まで通り、何気ないものだった。
「……フェルのやつ、何も思てへんのか?」
「あいつ、どないする気なんや?」
心配そうにフェルの事を見るTrashとD。そんな二人の心配をあっさりと裏切るように、高笑うように。デッキの中に転がるフェルのサイコロは、まるで人が息をするのが当たり前のように。その行為を無意識にしているように、6の目を三つ出した。
「……ありえんやろ」
「……D、俺サブイボ出たわ」
フェルが先程、二人に話した言葉を目の当たりにして。改めて、その理不尽な凄さに驚くTrashとD。そして、その様子を同じようにダビドも見つめていた。
「まさか、ここまでとはな……」
ダビドが自分の思いを口にした。
「引き分けだね。この場合は、延長戦みたいな事するんでしょ?」
フェルの言葉を聞いて。「いや」と軽く、それを否定するダビド。
「何で? このままだったら、勝負が決まらないよ」
「いや。決まっているんだよ、この勝負は。」
ダビドの言葉を聞いても、ピンとこないフェル。
「一体、どういう事なの?」
フェルの疑問にダビドが答え出した。
「実は、嬢ちゃんがあの二人の所に戻っていった時に。俺と嬢ちゃんのサイコロを違う物とすり替えていたのさ」
「違う物? 同じサイコロでしょ、これ?」
「サイコロはサイコロだが。これには細工がされているんだよ」
「細工?」
フェルの言葉を聞いて。デッキにあるサイコロを5つ、手に取るダビド。そしてサイコロを振った。
「あれ? 右手は振らなくて良かったの?」
ダビドを見るフェル。
「良いのさ」
そしてダビドの振ったサイコロが止まる。そのサイコロが出した目は全て6であった。それを見ていたTrashがダビドの元へ来た。
「おっさん、イカサマしとったんやな!?」
その言葉にダビドが答える。
「その通りだ。そして……」
そして今度はフェルが振ったサイコロを手に取り、デッキにサイコロを転がすダビド。そのサイコロが示した目は一つも数字が揃う訳でもなく、ストレートでもなく。ただのブタだった。
「どういう事や?」
そこに遠くで見ていたDが近寄ってきた。そのDに対してダビドがサイコロを渡してきた。
「試しに振ってみろよ」
ダビドに言われるままに、サイコロを振るD。すると、そのサイコロの出した目はまたもブタであった。それを見て、Trashが気が付く。
「もしかして、こっちのサイコロって……」
そしてDが振ったサイコロを取り、デッキにサイコロを振るTrash。すると、またサイコロが出した目はブタだった。それを見て、ダビドが話した。
「そうだ。そっちのサイコロは、どうやってもブタにしかならないように細工されているんだ。しかし……」
そしてフェルにダビドが目をやる。
「それなのに、この嬢ちゃんときたら。そんなサイコロで6のファイブ・カードを出しやがった。この勝負、俺の負けだ。」
ダビドの言葉を聞いて、喜ぶTrash達。
「それじゃあ、僕達に防具を売ってくれるんだね。」
フェルの話を聞いて、ダビドがニヤリと笑う。
「ああ。それにお前達の様なモンスタースレイヤーにとって、とっておきをプレゼントしてやるよ。」
『とっておき??』




