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ワンダー・クロニクル  作者: Erde
第一部【出会いと別れ、そして旅立ちと】
34/76

Episode 034【当たり前のファイブ・カードとありえないファイブ・カードと】

 〈ヴォルケファーデン〉にTrashとDの声が響き渡った。その声を目の当たりにしても、きょとんとしているフェル。


「フェー、マジで今まで一回も負けた事無いんこ?」


 物凄い物を見ているような眼差しでフェルを見るTrash。


「うん。無いんだって」

「マジこっ!?」


 フェルの話を聞いて、腕を組むTrash。そして何やら考え始めた。その様子を嫌な顔をしながら、隣でDが眺めている。フェルもそんなTrashを眺めていたが、Trashが何を考えているかは想像出来ていなかった。すると熟考に熟考を重ねたTrashがフェルに話し掛けてきた。


「とりあえず、フェー。現実世界に戻ったら、一緒に競馬行かへんこ?」


 Trashの声を聞いて、「やっぱりか…」と呟くD。その隣でTrashが続ける。


「いやいや! ここは、やっぱりスロットか!? いや、やっぱでっかく競馬か!?」


 考えがまとまらないでいるTrash。その顔は嬉しそうに笑っていた。


「ごめん、トラ。面倒くさいから、やだ」

「そうやろ、そうやろ。フェルも想像するだけで堪らんやろ。……って、え?」

「人多そうだし、何か面倒くさいから。僕はやめておくよ」


 フェルの言葉に時間が止まるTrash。そして呆然とフェルの方を向いていた。


「残念やったの、トラ。ってか、そう言う思たわ。」


 隣で固まるTrashに声を掛けるD。我に返ったTrashが再び、フェルに話し掛けだした。


「待て待て、フェー! フェルが居ったら、一攫千金やぞ!? お金持ちやぞ!?」


 Trashの言葉にフェルは少し考えたが、やっぱりTrashの誘いを断るのであった。



「マジかぁ……。」

「人は楽して、金稼げへんって事やな。」


 隣でヘコむTrashに、Dが声を掛けた。そんな二人を余所にフェルは、再びダビドの所に向かって行った。そして、ダビドはずっとデッキの中にあるサイコロを見つめていた。


「じゃあ、3回戦目といこうか。ダビダビ」


 声を掛けられ、フェルが来た事に気付くダビド。


「嬢ちゃんの、それは素なのか? それともワザとなのか?」

「ん? 何が?」

「まあ、良いか。それじゃあ、最後の勝負といくか!」



 サイコロを一つ手に取り、デッキに転がすダビド。そしてフェルもサイコロを一つ転がした。デッキの中を二つのサイコロが転がる、その様子を少し離れた所からDとTrashが見守っていた。そして二つのサイコロが止まり、最後の勝負の幕が上がった。


「今度は俺からだな」


 サイコロを手に取る、ダビド。そして右手を軽く振ってから、デッキにサイコロを転がした。デッキの中を何度か跳ねるサイコロ。



「1回も負けた事ないって凄いな」


 フェルを見るD。


「あいつの言う事がほんまやったら、この勝負もろたな」


 Dと同じようにTrashもフェルを見ていた。

 そしてデッキに転がるダビドのサイコロが止まった。そのサイコロが出した目は "3・6・2・6・6" だった。


「6のスリーカードか。まあ、良いか。」


 デッキにあるサイコロを見るダビド。その表情は先程、フェルに負けた時とは別人の様に余裕があった。



「おい、トラ。6が3個出たぞ。フェル、大丈夫かな?」

「大丈夫じゃいや。今まで1回も負けた事無いんやぞ」

「やけどよ……」



 そんな二人を余所に、またしてもフェルはすでにサイコロを振り終わっていた。デッキの中をフェルのサイコロが転がる。その様子を平然と見つめるフェル。そして相変わらず余裕の表情でいるダビドも、それを見ていた。するとデッキに転がっているフェルのサイコロの一つが、デッキから溢れ落ちていった。



「えっ!? マジで!?」

「トラ、やばいんちゃうこ? これ?」


 サイコロがデッキから落ちるのを見て、焦るTrashとD。


「いや。まだ4個残っとるんやから、大丈夫やろ」

「かなぁ?」



 二人が見守る中、サイコロが止まった。フェルが振ったサイコロが出した目は "6・4・2・6" だった。



「6のワン・ペアか……」


 それを見ていたTrashが呟いた。そして、それを無言のまま見つめるダビド。


「次、ダビダビの番だよ」


 ダビドに声を掛けるフェル。フェルに声を掛けられ、6以外の目を出したサイコロを手にするダビド。


「これで、いよいよ勝負が決まるな」


 そう言って、サイコロを振るダビド。その仕草は今までと同じように右手を軽く振ってから、デッキに向けてサイコロを転がした。デッキの中を転がるサイコロが止まる、そしてその目は6が二つ表れていた。



「6全部揃たぞ……」

「マジでか……」



「どうだ、嬢ちゃん。さすがに嬢ちゃんでも、これには勝てないだろ?」


 デッキの中にあるサイコロを見るダビド。


「そうだね。これじゃあ勝てないね」


 そう言って、6以外の目を出したサイコロを振るフェル。その様子は今まで通り、何気ないものだった。



「……フェルのやつ、何も思てへんのか?」

「あいつ、どないする気なんや?」


 

 心配そうにフェルの事を見るTrashとD。そんな二人の心配をあっさりと裏切るように、高笑うように。デッキの中に転がるフェルのサイコロは、まるで人が息をするのが当たり前のように。その行為を無意識にしているように、6の目を三つ出した。



「……ありえんやろ」

「……D、俺サブイボ出たわ」


 フェルが先程、二人に話した言葉を目の当たりにして。改めて、その理不尽な凄さに驚くTrashとD。そして、その様子を同じようにダビドも見つめていた。


「まさか、ここまでとはな……」


 ダビドが自分の思いを口にした。


「引き分けだね。この場合は、延長戦みたいな事するんでしょ?」


 フェルの言葉を聞いて。「いや」と軽く、それを否定するダビド。


「何で? このままだったら、勝負が決まらないよ」

「いや。決まっているんだよ、この勝負は。」


 ダビドの言葉を聞いても、ピンとこないフェル。


「一体、どういう事なの?」


 フェルの疑問にダビドが答え出した。


「実は、嬢ちゃんがあの二人の所に戻っていった時に。俺と嬢ちゃんのサイコロを違う物とすり替えていたのさ」

「違う物? 同じサイコロでしょ、これ?」

「サイコロはサイコロだが。これには細工がされているんだよ」

「細工?」


 フェルの言葉を聞いて。デッキにあるサイコロを5つ、手に取るダビド。そしてサイコロを振った。


「あれ? 右手は振らなくて良かったの?」


 ダビドを見るフェル。


「良いのさ」


 そしてダビドの振ったサイコロが止まる。そのサイコロが出した目は全て6であった。それを見ていたTrashがダビドの元へ来た。


「おっさん、イカサマしとったんやな!?」


 その言葉にダビドが答える。


「その通りだ。そして……」


 そして今度はフェルが振ったサイコロを手に取り、デッキにサイコロを転がすダビド。そのサイコロが示した目は一つも数字が揃う訳でもなく、ストレートでもなく。ただのブタだった。


「どういう事や?」


 そこに遠くで見ていたDが近寄ってきた。そのDに対してダビドがサイコロを渡してきた。


「試しに振ってみろよ」


 ダビドに言われるままに、サイコロを振るD。すると、そのサイコロの出した目はまたもブタであった。それを見て、Trashが気が付く。


「もしかして、こっちのサイコロって……」


 そしてDが振ったサイコロを取り、デッキにサイコロを振るTrash。すると、またサイコロが出した目はブタだった。それを見て、ダビドが話した。


「そうだ。そっちのサイコロは、どうやってもブタにしかならないように細工されているんだ。しかし……」


 そしてフェルにダビドが目をやる。


「それなのに、この嬢ちゃんときたら。そんなサイコロで6のファイブ・カードを出しやがった。この勝負、俺の負けだ。」


 ダビドの言葉を聞いて、喜ぶTrash達。


「それじゃあ、僕達に防具を売ってくれるんだね。」


 フェルの話を聞いて、ダビドがニヤリと笑う。


「ああ。それにお前達の様なモンスタースレイヤーにとって、とっておきをプレゼントしてやるよ。」



『とっておき??』






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