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第一部完結編3・進路

 イェルーン達が飛び立ったその日、第二対魔女学校の機能は完全に停止していた。

 多くの仕事を管理していたナミエがいない状況で、責任者でもあるノアは意識不明の重体で入院した。

 教師もモナドは同様にしばらく首の矯正具が外せず絶対安静、またエイノも命を失った。

 先日に引き続き、空気は暗く、重く、悲しみに満ち溢れていた。

 エイノの葬儀のみを静かに執り行われ。

 学校は、しばらく休みとなった。



 リース達五人のみならず、エレノン会も含めた全員がバルタンに集っていた。

 普段も大きな事件が終わる度に皆はここに集まった。

 だがいつもと違い、その敗北感を誰もが受け止めていた。

「……イェルーンか」

 エレノンが呟く。エレノンにとって魔女以上の悪であると、そう感じた。

 ニーデルーネの敵討ちもしたいが、エレノンは自分にそれ以上の使命があると感じた。

「……私は、いずれ彼女を倒しに行く」

 その言葉にリースは同意を示そうとしたが、続く言葉のために閉口した。

「だからネロ、結婚はそれまで待って欲しい」

 エレノン会とネロのみならず、誰もが愕然と言葉を失う。

「……何か変なこと言った?」

「いえ……って逆でしょう! 大会で私が勝ったんですから、エレノンが私の子供を産むんですよ!」

 ネロの反論にエレノンは頬を膨らませて異論を呈する。普段のエレノンらしからぬあどけなく可憐な振舞いにネロとエレノン会は思わずときめくが、それより大事な話もある。

「そんなので誤魔化されませんよ! 約束は約束ですから。……それは、エレノンがすべきことを終わらせた後でいいですし」

 一体いつになるかも分からぬことだが、ネロはその意見を尊重し、エレノンを待つと心に決めた。

「の前に! 私認めてないよー、エレノンとネロがそこまでいくこと認めてないよー」

 カナタがわざといじめっ子みたいな言い方をするが、それはエレノン会の総意でもある。

 そんな光景をイツキ達は微笑ましく見て、ようやく口を開いた。

「でもさ、実際みんなはこれからどうするの? 休校、結構長そうだけど」

 ノアはいつ目覚めるか分からず、死ぬ可能性もある状況、校長の役職として責任が取れるほどの人物が今は第二にはいない。

「待つ以外に何かあるのか?」

 とリースが尋ねると、イツキは聞き集めた情報の全てを吐き出す。

「まず三年のエリカ先輩とかさ、もう就職決めちゃったらしいよ。ノア校長が復帰するまでの間、何か月休校になるか分からないからね。なんか校長自身万が一あった時のために遺書みたいなの残しててさ、校長の許可もあるらしくって、三年主任のロイ先生が就職先の斡旋してるんだって」

 そこでリースは考えるが、まだ一年であるために様々な選択肢がある。三年なればこそ既にこの学校でのことを学び終わったとして去れるだろうが、リースはまだこの大陸に来て間もないのだ。

「ディペンドンは教師になりたがってるらしいし、ブシン先輩もエレノンみたいにイェルーンを追いかけたいって言ってたそうよ。一番気になるゴリアックは、まだ何も決めてないらしいけど」

「ふむ……そうだな。イェルーンよりも不肖の父と魔女の母を倒したい気持ちはあるが、この大陸に魔女はまだ残っているからな」

 魔女を倒すにしても、奴らは二手に分かれた。この大陸に残るか離れるかの選択を強いられる。

 リースとしては、キルとヴィー以上にスノウとノーベルを倒したい気持ちの方が強いが、この大陸で引き続き仲間と切磋琢磨したい気持ちもある。

「どの道、私は里帰りするけどね。私は産まれはここだけど故郷が戦国の大陸だから」

 そうイツキが締めると、次にシズヤがリースの手を取った。

「私はさ……リースを家族に紹介したいな」

「む」

 少しリースが頬を染める。だがシズヤの方が顔は赤い。

「リースのご家族のことも知れたし……私もね」

「レン殿は屈強な武人であった。他のご家族も?」

 リースの着眼点はまずそれらしいが、シズヤは苦笑いしながら否定する。

「お父さんはただの商人だし、お母さんも普通の人だよ。アカリお姉ちゃんだって魔女の大陸に来ていない、戦う能力のない人だよ」

 リースが気にする情報をある程度伝えた後、シズヤは付け加えた。

「でも、アカリお姉ちゃんは頭がいいから……」

「ふむ、きっと皆本当は戦闘の才能があるだろうに」

 見当違いな言葉は反応に困る。その話は続けず、シズヤはとりあえずの同意を求める。

「それはともかくとして、それでいいかな?」

「ああ。時間は山ほどあるのだろう。私も是非お会いしたい」

 二人の時間と二人の空間、それと別なエレノン空間もあり、イツキは少し孤独な気持ちになった。



 進路指導室ではぐったりとしたロイの前に、相変わらずメイド服を纏ったディペンドンが普段よりおとなしいくらいの雰囲気で座っていた。

「それでそれで私は結局のところ教師になれるんでしょうかなれないんでしょうかなれるとしたら何年生の担任とかになるんでしょうかそれとも学校防衛の警備員みたいなことをするんでしょうか、私としては生徒と楽しくお喋りしながら腐らない程度に戦えたらそれでいいんですけど他の人の進路ってどうなってるんでしょうか? やっぱりツィルテンとかスラントとかブシンとかエリカとかの部長もヤリサイとかタラマみたいな副部長も私よりよっぽど優秀ですから同期の教師になられたら心強い反面心苦しいみたいな乙女心も持ち合わせていますので」

「少し静かにしてくれ、音無のディペンドン」

「その異名は不名誉っていうか詐欺ですよロイ先生。私音無でもおとなしくもないですしむしろちゃきちゃきのかしましかまびすし娘ですしうるさいって言われても喋り続けるしか能のない……」

「ヤリサイは魔女キルの攻撃を受けて入院中! ツィルテンはその仇を討ちたいとこの大陸に残ることにしたそうだ」

「葬式の時の戦いですね。私も見てました」

「戦わなかったのか?」

「めぼしい生徒全員に盗聴器しかけてました。優勢なところに助太刀して確実な勝利をもぎ取るのが私の戦法ですし爪の端くれとか髪の毛一本でそれができる便利な秘術でもありますし」

 改造の秘術を持つディペンドンは、戦い以上に隠密としての役割を果たせる。情報収集ならばニッカがいるが、ディペンドンのそれはまたニッカとは別方向の能力。

「人材として君は魅力的だ。だからこそ使命感とかはないのか? 君ならきっと、どんな組織でも上手くやっていけると思うけど」

「私ってやっぱり結構乙女なものでそういう血腥(ちなまぐさ)いのは嫌なんですよ。ね」

 黙れば可愛い、と評判のディペンドンは、やはり屈託のない笑顔もロイが見惚れるほどの美しさである。

「……考慮しよう。ノア校長の許しがない限り決められないからね。でも僕は推挙するつもりだよ」

「ありがとうございます」

 ディペンドンはにっこり笑い、進路指導室から出た。

「スラントは警察、エリカは傭兵団加入か」

 一人呟き、ロイは一人感慨に耽る。

 まだ一年間も教えていない生徒達が立派に就職していくのは、自分の仕事を完全に済ませていない悲しさと、教師としての小さな誇りが疼く。

 だがそれだけじゃない。教師になるならディペンドンのような未熟者を矯正するのも仕事のうちだ。

(ノア校長もナミエ先輩もいない今、僕がしっかりするんだ)

 ニーデルーネ、ナミエ、ノアがいない今、ゴリアックを除けば学校側の最高責任者にして最強の実力者、ロイは自らを奮起した。



 そして病院でゴロロは、入院して首を固定し寝たきりのモナドの元を訪れていた。

 ゴロロ自身、ハッケイと長く戦っていたのだ。この大陸に来た人物としてはゴリアックに次ぐ格闘術の使い手、泥を操る能力は防御に優れているが、炎で乾かし殴りぬけるハッケイの戦法に手も足も出なかったのは事実。彼女も治療されている立場だ。

 何より悔しかったのは、ハッケイに明らかに手加減をされていたということ。

 程よく拳を交え、良い戦いであったとゴロロは戦闘中に自負していた。だが最後ハッケイがシンクレアと共に飛び立った時の攻撃は、自分に放たれていたとしたら、死は逃れようもなかったであろう。

 そこでゴロロは、悲痛な面持ちで切り出した。

「驚かないで聞いでぐれるか?」

「あまり驚かさないでくれたらね。絶対安静らしいから。激しいのは、お姉さん嫌いよ?」

 言いながらモナドは笑いかける。けれどゴロロに笑顔を返す余裕はない。

「……わだす、学校辞めよがど思て」

「っ……! どうして?」

「力が足んね。わだすは、生徒を守るには弱すぎるべ」

「その責任は貴女が背負うものじゃないでしょ? 私も大変なんだから、そんなこと言わないで」

 諭すようにモナドが言うが、ゴロロの意見は変わらない。

「辞めんのは校長が復帰してからだ。……すまね」

「謝るくらいなら辞めないで続けてくれない?」

 モナドの言葉は正論、仕事として教師をしている以上は責任が伴う。それは安易に捨ててはならないものだ

 だが、責任があるというのは実力や権威があってこそ。

「わだすにその力がねえ! ゴリアッグもシズヤも強くて、わだすが何を教えられるって……」

「体を張って守るだけでいいじゃない! ニッカだってアーサーだって強いだけの能力じゃないでしょ! あなたのその優しさが、皆には必要になるの」

 体を動かせないモナドが、視線と言葉でゴロロに強く訴える。

「……優しいだけなんて、誰でもできる」

 言いながらゴロロはお見舞いのリンゴをモナドの口へ運んだ。

「でも……もぐもぐ」

「わだすだって色々考えだんす」

「そんなこと……もぐもぐ」

「今回もいいどごなしだったし……」

「ごくん。喋らせなさい!」

 びくっと驚くゴロロに、モナドは捲し立てる。

「まだモコとかマナフさんも戻ってくるだろうし、ロイだってしっかりやってくれてる。他の学校から援軍っていうか、転勤してくれる人もいるかもよ? サヨさんとか来るかもよ!? 憧れているって言ってたよね!」

 一瞬ゴロロの挙動が止まる、他の学校にいるとはいえ憧れの人と共に働けるなんて羨ましいことだ。

 ちなみにサヨとは第一地域の教師で戦国大陸の出身、秘術と戦国大陸固有の武術でこの大陸最強の教師と名高い、美しくも淑やかな戦士だ。

 だが、その自身の態度を恥じ、ゴロロは怒りと恥で顔を赤くして叫ぶ。

「そんな浮ついた気持ちで言ってるんじゃねえ! 馬鹿にしないでけろ!」

 言ってゴロロはリンゴを放り出して部屋を出て行った。

 残ったモナドはその場から動くこともできない。

 もしゴロロまで離れれば、ロイとアーサーと自分とニッカの四人だけになってしまう。

 ゴロロは体から泥を出現させそれを操る能力、弱そうだが劣化ネイローと言っても差し支えないほど用途は多岐にわたる重要な戦力。

 それがいなくなれば、本当に第二は終わってしまう。

 だが辞める前にはノアと話をする。それならノアに任せてしまえばいい。

 今はもう何もできないのだ。モナドはしかと休んだ。


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