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魔女とクルイ編20・縦横無尽、レイヴン・ナイトメア

 一足先に逃げたキルは、そのままヴィーがいる塔に辿り着いていた。

 問答無用で扉を開けるとその足で最上階にまで駆け上り、勢いのままヴィーに抱き付いた。

「ころころころころ……」

「ちょ、ちょっとちょっとどうしたのぉ!? いきなり挨拶もなしに」

 尋ねても、なにかに怯えた様子でキルはころころ言うだけで何も理解できない。まともに喋れるということをヴィーは知ってはいるが、それはキルの気分次第なのだ。

 大塔を真似た円卓に座らせて落ち着かせようとするも、キルの子供のような興奮状態はなかなか止まりそうになかった。

 傍らにはスノウが見守っているが、内心は穏やかではないらしく、少しもじもじしている。

「どうやら、何か強大な敵と出会って逃げてきた、って感じかしらん?」

「ころ! ころ!」

 大きく頷く様子を見て、ヴィーはスノウに目をやった。

「ふぅん、じゃスノウ、あんたはとっとと出て行った方がいいんじゃなぁい? 私はキルとそいつを迎え撃つから」

「ころ!?」

 納得いかない表情のキルに、ヴィーは厳しく躾けるように頭をなでる。

「後輩にいいとこ見せなくちゃダメでしょ? そもそもスノウは魔女の道を捨てたわけだしぃ」

 わざわざ大陸を捨てたスノウにまで戦わせるなど、ヴィーの矜持に反する。それは彼女の美学だ。

「ころ……じゃあ私も捨てる」

「ちょ、こんな時だけ冷静になるのやめてよね……」

 キルはとてとてと歩き、スノウの白いドレスを掴んだ。

 一人残されたヴィーは、非常に苦い表情を浮かべていたが、呆れた風に溜息を吐いた。

「じゃ、私はしばらくここで待つわぁ。キルに倒せなくたって、私なら倒せるって敵もいるだろうしー」

 そう肩を鳴らすヴィーの表情は、軽口以上に真剣みを帯びていた。

「無理しないで、手伝う、よ?」

 スノウはたどたどしく伝えるも、ヴィーは諦める風に溜息を吐く。

「正直ぃ、私もトウルみたいな魔女の本道ってのは古臭いと思うのよねぇ。でも、さすがに寝覚めが悪いでしょぉ?」

 常に自分の塔を守ることに固執していたトウル、この大陸で最長寿故に魔女の本道と人との共存を照らし合わせ考え続けてきたバニラは、それぞれが結果は違えど人の存在を最後まで考え、その結論を出した者達。

 それに比べると、ヴィーは美を、キルは娯楽を、それぞれ考えたために魔女のことなど考えなかった。

 だからこそ人を殺すことの執着は薄い。二人は簡単に逃げ出せる。

 それでもヴィーがそうしないのは、仲間意識が多少なりともあるからだ。

「敵の特徴だけ教えてくれるかしらぁ? 私もちょっと嫌な奴がいてね……」

『三人目! 三人目の魔女が死んだ!! 黄色の魔女だ! 双子の妹だ!! あと二人! あと二人でお前も死ぬ!!』

 突然耳元で鳴り響く金切声に、ヴィーは両腕をしかと抱きしめた。

 スノウとキルもそれを感じ取ったらしい、ジーが死んだという事実を。

 ヴィーが不審に思ったのはキルがそれほど狼狽しなかったことである。

「へ、平気そうね、キル。ジーが今、死んだのよ?」

「ジー、私を虐めた。もう知らない。嫌い」

 なるほど、とヴィーは一人で納得した。キルがあっさりと自分の命可愛さに逃げ出す理由は、このさっぱりとした性格のためなのだろう。

「敵、黒い髪、裸、強そう」

 キルの持つゴリアックの印象はそれだけだ。

「あ、うん、分かった」

 分からないということが、という言葉は暗に秘めて。

 既に塔の主になったヴィーは、この塔に三人の人間が近づくのを感じ取っていた。

「じゃ、ちょっと言ってくるわん。もし何かあったら、壁でもぶち抜いてお逃げなさぁい」

 ヴィーは悠々と階段を降りて行った。

 塔の一階、トロールすら存分に暴れ回ることができるそこは、何もない広場というに相応しい。

 天井は三メートル以上、階段と扉以外には何もない、だだっ広いだけの空間。

 そこにシンクレアとハッケイが訪れた。

「あらあら、ノーベルの旦那様だったかしら? 女を連れ込んで浮気ぃ?」

 黒い髪、というのが両方に合致しないためヴィーは余裕をもって答えた。

 怪我をしたシンクレアと体中から血を流しているハッケイ、どちらもキルと戦った後ではない傷であり、何より逃げてきたのが明白だから。

「軽口を叩く場合か。ノーベルの仲間だから助けてくれると踏んだのだが、駄目か?」

 傷ついたハッケイが言う。傷の理由は途中で逃げられたエリカに手痛い反撃を受けたからである。自由自在に動く百を超える銃弾など、魔術と格闘術を合わせたところで躱せるわけもなく、生きているだけで奇跡のようなものだ。

「べっつにぃ、私はあなた達なんてどうでもいいんだけど、まあスノウが上にいるから、一緒にいたらいいわ」

「そりゃいいこと聞いちった」

 ハッケイとシンクレアの後ろから現れたのは、二人より背の高い、威圧感のある、黒い姿。

 肌に密着するような白いラバースーツに黒いマントと髪が映える、どこから調達したのかは知らないが、レイヴンの戦闘服である。

 それを見て、ヴィーは一気に警戒した。

「何者、かしら?」

「誰でもいいだろ、上がらせてもらうよ」

 レイヴンが足を塔に踏み入れた瞬間、ヴィーは体中から肉の槍を作り出し全てをレイヴンに向かわせた。

「あんたは許可しない! ここで肉塊になりなさい!!」

 嫉妬する肉体と美神的肉体の合わせ技、触れただけで敵を吸収するヴィーの最強技と言ってもいい。

「な、おい、こっちはそんなつもりじゃ」

 言い淀むレイヴンもヴィーの顔を見て説得は諦めた。

「魔女……逃げるんじゃない! 戦略的撤退だからな!!」

 レイヴンの背中から黒い翼が生えると、そのままそれで塔の外へ出て行った。

 呆気にとられるヴィーは、入り口から外の様子を伺うが、どんどん南に飛んでいくのを確認して一息ついた。

「く、口ほどにもないやつ……ふぅ」

 焦りを隠すようにヴィーは笑顔で二人を迎え入れた。

 その直後、巨大な銀の塊がそこに落ちた。



 時は数分前にさかのぼる。

 ともに飛行するシズヤとリースは、お互いに語り合っていた。

「まさかこんなことになるとは思わなかったね。でも、ちょっと嬉しい」

「私は不安だ。ゴリアック殿を敵に回すとなると骨が折れる。それにイツキやネロとも戦いたくはないな」

 巨大な銀を纏うリースはさながら男のようだが、それでも中身は全く変わっていなかった、とシズヤはますます笑顔になる。

「何か可笑しなことを言ったか?」

「ううん、別になんでもないよ」

 リースは真面目すぎるだけなのだ。別に魔女であろうと気にする人間はほとんどいない、とシズヤは本気で考えている。

 だが説得にリースは応じないだろうし、何より二人で駆け落ちするという事実が嬉しいために黙っていた。

 今向かっているのは塔。

 リースとてこれ以上魔女と戦おうとはそれほど思わない。

学校の者から身を隠し、ここに向かった父を討つべく、傷つき戻るだろう母を討つべく。

塔こそリースがこの大陸に残した最後の禍根なのだ。

 だがその直前で、目前から黒い塊が飛んできた。

「おはっ、強そう」

 心底楽しそうに笑うレイヴンが、リースには悪魔に見えた。

 互いに飛行能力を持っているが、レイヴンが素早く索敵したためにリース達の上を取り、躱すように見せかけて強靭な尻尾でリースの羽を強く打った。

「リース!」

 シズヤが素早く叫ぶも、激しい一撃に二人の繋がれた手は分かたれた。

「おお、爆乳のお嬢さんは戦えるのかな? うん?」

 そんな軽口を叩くレイヴンは、シズヤを舐め切っていた。

 瞬間にレイヴンの全身が切り刻まれた。

 切断された部分が一部もないのは、そのレオニーやダグラスのような秘術と同じで、かつ二人以上に強靭な肉体を持つことができているからであり、レイヴンの実力の高さが分かる。

 だが全身くまなく深い傷を負わされ落下していく姿から、シズヤの怒りと実力が並々ならぬことは、レイヴンが痛いほどに実感した。

 落ちたリースを、すぐにシズヤは追った。



 

「う、ううむ、背中を強く打ったようだ……」

 ようやく銀を脱ぎ、普段の姿に戻ったリース。

 場所は塔の最上階、円卓にはハッケイ、シンクレア、シズヤ、そして魔女が三人同席している。

 レイヴンの攻撃を受け、怪我をしたリースを介抱したのはハッケイであった。

「なんとも、信じられない光景だな。魔女が攻撃してこない、というのは」

 リースは呟く。目の前のヴィーは、けれど普段のように化粧をしてはいない。

「それなんだけどぉ、私は別にあなたを仲間だと思ってないんだけどぉ?」

 ヴィーがリースの目前の机に手を叩き、威圧する。

「ふむ、シズヤに劣らぬ胸の大きさだ。やはり最近思っていたのだが、胸の大きさと実力は比例するのだろうか? ゴリアック殿も腕に隠し切れないものを持っているし、私もエレノンも多少は成長した方が……」

 全く別の話を一人で始めるリースだが、キルとヴィーのNGネームを出したことで二人が委縮した。

「魔女と格闘家の子供、別に敵ではないと思うんですけど」

 シズヤは魔女に対しても、普段通りの穏やかな笑顔で意見する。

 内心ではシズヤとて緊張している。あれほど恐れた魔女、けれどエレノン達でさえ撃退できた、魔女に対する距離の取り方を測りかねているのだ。

 スノウはそんな様子を奇怪に思いつつも、意見にだけは同意だと首を縦に振った。

 魔女と人間の諍いは、ノーベルの次に若いスノウにとって些細な問題だ。人間が動物のように他愛無い生物であると理解しつつ、その中に生きるべきイェルーンのような命があると知っているから。

「ふむ。私としても娘を傷つけるとあらば、ノーベルとともに戦うことになる。お二方、どうか戦意を沈めてはくれぬか?」

 ハッケイは脅しと妻である魔女の存在を使いつつリースの保護に回る。

 正直に言えばハッケイにとってイェルーンなどどうでもいいのだ。ノーベルすら離れていて平気だった、ただリースが無事に生きていればいいと、そう思っている。

 シンクレアはあまり話に関われないが、別にリースが敵であろうと味方であろうとどうでもよく、ただ待つことに集中した。自分を虐げた者への怒りのみがある。

「ま、私は別に? 敵を増やそうとも思わないし? 優しいし? 見逃すくらいはいいんだけどぉ?」

 ヴィーにとってもシズヤは不気味かもしれないが、リースの魔力は魔女のそれ、そのものと言ってもいい。敵対する必要がないという周りの意見に同調するに十分だった。

 リースは魔女を倒したい気持ちが確かにある。

 だが今は、レイヴンの攻撃を受けてダメージが残っている。魔女と化したリースの銀をも砕く一撃は重い。その上シズヤがいる手前、自分が脚を引っ張るのは情けない。

 悔しいが、リースはその言葉に甘えることにした。

「では、少し休ませてもらう。ありがとう、ヴィー」

 リースは律儀に挨拶をして立ち上がると、四階に部屋を作ってもらえるとのことなので移動を始める。

 だがその前に。

 ハッケイの傍に近寄った。

「どうかしたか、愛娘?」

「父上とは言わん。ハッケイ、私はこの人と固く契りを結ぶ。いいな?」

「は、へ、本当にか!? いや素振りは見せていたが流石にそれはどうかと思うのだが……」

「それともう一つ」

 狼狽するハッケイの隙だらけなところを、リースは銀を纏った拳で思い切り殴りぬけた。

 隣に座っていたシンクレアが素早く身を動かしたため、そのままハッケイは塔の壁にまでぶつかった。

「もう主を父とは思わん、それだけ言っておく」

 ぶつぶつ呟くリースと笑顔のシズヤ、その後ろをスノウだけは冷たい瞳で見ていたが、他のメンバーは茫然と見ていた。




 学校の方では大騒動どころではない緊急事態であった。

「いやいやいやいや本当ですって転校生自身が自分を魔女だって言ったし魔女ノーベルだって父親のハッケイさんだってリースを魔女だって言ったし何よりシズヤと互角以上の戦いをしていたし駆け落ちじみたこと言っていたし、私ちゃんと色々見て色々聞いてたんですからね! 見て聞いて何もしなかったのはほら私ってクラス最強だけど弱いし!!」

 目ざとく耳ざといディペンドンのこの発言のために、職員室では教員とリースの関係者が集まり、それについての話をしている。


「リースさんが魔女なわけありません!! きっと騙されているんですよ! そうに決まっています!!」

 頭にトリックをつけたままのネロがそう強く抗議するも、エレノンとイツキは黙ったままで、ノア達教師は判断に困っている。

「二人はどうなんですか。エレノンさん、イツキさん」

 問われて、ついイツキは目をそらした。

 だがエレノンは仄暗い瞳をまっすぐ、ノアに向けた。

「……知らない、でもリースが魔女でも人でも、私はリースのことを大切にする」

 ネロとイツキは、そのエレノンを見て、表情を変えた。

「そう、ですね。私もエレノンと同じ意見です。もう後悔しないように、そのために強くなったんですから」

「そうね、そもそもリースは嘘がつける人間じゃない。リースがどんな想いだったか、それを考えなかったなんて……」

 イツキの発言だけ毛色が違うことにノアは目の形を変えたが、ふっと小さく息を吐いた。

「ともかく彼女はシズヤさんを連れて北に向かったという情報があります。魔女もいるでしょう、それをどうすればいいか、です」

 既に学校からアリスやコントンに連絡も取り、ハッケイが敵に通じているなどの情報は得ている。

 リースは限りなくクロに近い、だがそれでもノアはこの生徒たちを信じたい。

 しかし放置しておくわけにはいかないのも事実。

 誰を送り出すのが適任か、それが一番の問題である。

 塔の場所を知っているニッカは当然であるが、ニッカは昨日の疲労も抜けきっていないので彼女一人に任せるわけにはいかない。

 しかし実力派のナミエとレイゼが命を落とし、汎用性の高い戦士であるロイも既に戦える状態ではない。

 できることならば自分が行きたいと思うが、いまだに残っている仕事は多すぎる、責任を持てる者でなければできないことが多すぎるのだ。

 何より、ナミエやロイでさえ善戦すらできないのだ。他の教員に任せられるわけがない。

「よおノア、いるか?」

 そんな時、強引に校長室に入ってきた姿を、知っているのはノアのみである。

「あなたは……レイヴン・ナイトメア!?」

 即座にノアは秘術の扇を二つ取り出すが、その間に首を掴まれた。

「あらら、いきなり武器とは酷いじゃないの? 俺だって久しぶりって感覚を大切にしようと思っていたのになぁ」

 ノアが抵抗できないように腕に込める力を強め黙らせる。一瞬の出来事に誰もがノアを守れなかった。

「と、動くな!」

 突如生えたレイヴンの尻尾の、槍のような先端がエレノンの頭に触れる。

「……生徒か? ノアの次に殺気を向けるとは、なっさけない教師陣だな」

 一瞬にしてその場を支配したレイヴンは、見定めるように周りを見渡した。

「ふんふんふふん、強そうなのは、そこの片腕ダルマと、この黒ローブ、で、窓に張り付いている露出狂」

 その言葉が出てから、窓ガラスを割ってゴリアックが入ってきた。

「露出狂じゃない! これはだな、ちょっと事情があってだな……」

「いや知らんし。まあ何でもいい。あれだろ、ノア? 魔女を倒しに行くって話だろ?」

 苦しそうなノアは、ただレイヴンを睨むことしかしない。

 だがレイヴンは勝手に話を進める。

「俺なぁ、さっき魔女みたいなやつに痛い目見させられたんよ。だから、この使える奴らを連れて討伐してやってもいいんだぜ? どうだ、いい考えだろ?」

 ノアの目がより大きく開く、だが、その後には泡を吹いた。

「よし、そういうことだ。ついてきたい奴は来い。嫌なら、ここで思い切り暴れ回る」

 あっさりとノアを失神させ、有無を言わさずレイヴンは体中を秘術で包む。

 黒い獣人の姿は、翼と尻尾、鋭い爪と牙と角、全身これ全てがキョウキ。

「何者だ?」

 ゴリアックが凄むが、レイヴンは堂々と低くなった声を聞かせた。

「レイヴン・ナイトメア。これでも昔はナミエとクラス最強を争ってたんだがな、まさか再会が奴の葬式とはな」

「殺人鬼のレイヴン、『狂獣』レイヴンの噂は聞いている、同級生数人を殺した後、通り魔的に人間を襲い、最後ナミエさんと戦って捕まった、と……」

 ロイが言い、皆の顔色が変わる。

 レイヴンはゴリアックとエレノン、自分が選んだ二人が恐怖ではなく怒りに顔色を変えたことに満足した様子で笑う。

「あれは俺だって本意じゃなかったんだぞ? ナミエと本気で殺し合いたいって言ったのに、必要ないって頑なだからさ、本気にしてやったまでじゃん」

「……最低の下種」

「ちび子、そういうのは言葉を選ぶべきだぞ。お?」

 レイヴンが鋭い爪の生えた黒い腕で、エレノンの小さな頭を鷲掴みにして撫でる。

 そんな命を握られている状態にも関わらず、剛毅にもエレノンは続けた。

「……最低の下種に違いはない。でも、ついていく。リースのため」

「ん、それってつまり?」

「え、エレノン!? 正気ですか!?」

「……リースのため。ナミエ先生と実力伯仲なら、力は信頼できる。その後、捕まえる」

「ははっ、決まりだな。お二人さんはどうするよ!?」

 ロイはアーサーに抱えられたまま目を閉じた。

 ゴリアックは腕を組んで悩んでいる風だが、だるそうに眼を開けた。

「俺もついていこう。放置するわけにもいかないからな」

 そうゴリアックが歩き出したのを確認し、ロイもマスクドノブレスをつけ、白い人に自分を運ばせた。

「なら、僕も行かざるを得ない。アーサー、もう少し待っていてくれ」

 アーサーは涙を流しそうな弱い顔をしたが、それでも止める言葉はかけなかった。

「っしゃ決まりだ! 目指せ魔女討伐のレイヴン隊!」

 

 四人が進む途中、学生寮を通りかかった時に、意味ありげに腕を組んだイェルーンがレイヴンに目を向けた。

「これからどこにお出かけだァ? 仰々しいぜ、レイヴンちゃんよ」

 黒ローブからは、普通の腕と不気味な真白い腕が見えている。

「イェルーン・アダムズ、よく知っているな、その名前を……」

 鎌をかけようとするロイだが、イェルーンはただ笑う。

「ロイ先生も随分珍プレーな格好じゃないか。同情するぜ、ちょっぴりな。だがその前にィ!」

 イェルーンが体をがくがくと前後に震わせながら折り曲げながら、徐々に先頭のレイヴンに近づく。

「面白そうなことやってんじゃねェの? 私も連れて行けよ、な?」

「……イェルーン、死ぬ気?」

「おお知っているぜェ、エレノン・バルタルタ。正義のヒーローが魔女討伐とは、泣かせるもんだ」

 エレノンは自分が知られていることに若干の違和感に似たものを憶えたが、睨むだけで言葉を出すことはなかった。

「魔女を殺す、別に必要なこととは思わねェが、人生に一つ添える華になるとは思わねェか?」

 そう説くイェルーンにロイは体を落とさんばかりに叫ぶ。

「気は確かか、イェルーン!? 貴様が栄華や名誉のために魔女と戦うわけがない!」

「人生ってのはよォ、どんだけ長く生きたかじゃねェだろォ? 何を成し遂げたか、これが大切、分かるか、分かるな!? そもそもテメェらに拒否権なんざねェッ!!」

 叫ぶイェルーンの言葉に三人は何か言おうとしたが、それより早くゴリアックが呟く。

「別に勝手にすればいいだろ。死ぬなら死ね」

 圧巻の一言だが、キルと戦い平然としていたゴリアックの言葉に、ロイですら押し黙らされた。

 そしてレイヴン達は進む、一心に、魔女の森へ。

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