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エリオット教編13・エピローグ2

 エレノン家の実家である『バルタン』に、いつもの五人は集まっていた。

「それじゃ、リースの無事をお祝いして、かんぱーい!!」

 シズヤの掛け声と共に皆が杯を挙げる。今度はリースも乾杯の後に口を付けた。

「それにしても、シズヤさんは本当にすごいです。神聖大隊長を倒したとか、船を落としたとか、凄い武勇伝を聞きました」

「そんなことしてないよ、みんなはどうだったの?」

 イツキらは噂が間違って広まると思いシズヤの言葉を信じているため、シズヤの謙遜を信じ切っている。

「……自宅警備」

「私もエレノンと一緒です、あはは……はぁ」

 エレノンとネロがそれぞれ悔しそうに呟くと、イツキが少し怒った風に言う。

「いいじゃん家でごろごろできて! 私なんか、もう交代の度にどやされたり、先生に怒られたり……という私は、まあ第二と第三の間を守ってました。ねぎらって?」

「よしよし、イツキちゃんは頑張りました」

「いや、シズヤに労われると、ちょっと申し訳が立たないんだけど……」

 ぽんぽんとイツキの頭に置かれた手を、複雑な顔でイツキは見る。

「一方私は、飛行艇を奪ってリースを助けに行きました!」

 おーっ、とリース以外から歓声が漏れる。そしてリースは思い出しながら言う。

「あの時は驚いた。飛行艇の中に来客など、誰が予想できたことか」

「愛さえあればなんでもできる、だよ!」

 とシズヤがリースに抱きつくと同時に、イツキ達は驚愕した。

「愛!? まさか、まさかシズヤあんた……」

「べっ、そんなつもりじゃないよ!? ただまあなんというか、うん、私も友情というか、そういうのを感じて……」

「キスも友情のうちということか?」

 リースの言葉でますます場が混乱する。一番混乱したのはシズヤであるが。

「キス!? それってどういうこと!? ねえリース、言いなさいよ!」

「ちょっと、リースそれは駄目ぇ! 待って、別に何もないから! 何もしてないからぁ!!」

 イツキとシズヤが押し問答をしている間に、エレノンがリースの傍に寄る。

「……リース、聞いて?」

 いつも通りの静けさ、しかし雰囲気はいつもより真剣に見えた。

「どうした?」

「…………私、強くなる。リースを助けられなくても、助けに行けるくらいは強くなる」

 リースに言葉の意味はよく分からない。だがリースは言う。

「それは違うな、エレノン。私は助けられる必要がなくなるくらいに強くなる。だから主は主自身の戦いに勝てるよう強くなれ」

 リースの言葉に天啓に導かれたようなエレノンは、大きく目を開いた後、リースに抱きついた。

 リースも何も言わず、エレノンの頭を撫でてやる。

 その発言は、リースがエレノンを一人の人間として認めている証拠だからこそ、エレノンは嬉しかった。

 生徒でも保護されるべき存在でもなく、エレノンという一人の人間がすべきことを悟らせた。

 ネロも言いたい事は色々あるが、ともかく言った。

「わ、私も今度こそはリースさんを助けに行くくらい、頑張ります!!」

「そういうことは言わない方がいい。ネロもエレノンも私のことで責任を感じる必要はないのだぞ?」

「でっでも、友達ですし……」

「友達は心配しあうものだろうが、心配をかけたいわけではないのだ。助けに来てくれる分には構わんが、何もできんからとうだうだ悩まれては困る」

「その言い方、なんか引っかかるけどね」

「まあまあ、イツキちゃんも今日は楽しもう! 戦勝記念だよ! 私達は勝利した、んだよ!?」

「いや、勝利と言ってもエリオット本人はまだ倒してないし、向こう次第でいくらでも戦うハメになるよ」

 イツキの言葉に皆が少し暗くなるが、戦争はエリオット教の滅亡で終わることになる。

 リースは戦争のことなどよく分からない。だから自分の覚えていることを呟く。

「アリスを助けることができた。ギラ殿とも出会った。ローズ仮面とも。だがノルド殿は死んだ。私を助けるために、彼は死んでしまったのだな……」

 リースの表情に影が差す。だが誰かが声をかける前にリースは大きな声で言う。

「私のために命を懸けるなど、やはりしないで欲しい。こんな想いはもう沢山だ」

 それは、ここに転校した当時は他人の迷惑など顧みない人間の発言であった。

 ネロは暖かい目でリースを見ると、エレノンの上から抱きついた。

 イツキは目を閉じ、ゆっくりとジュースを煽る。

 シズヤは濡れたような瞳で、惚れ惚れとリースを見る。

 そしてエレノンはネロを見つめ、何も言うことなくリースを抱く腕の力を強くした。

 人への思いやり、そして友情をリースは確かに培ったのだ。



 それより三日後、アリスとコントンの病室に見舞いに来たのはギラ・ゴーレムであった。

「おや、エリオット教の残党が一体何をしにここへ?」

 コントンは腕の骨折と羽根の切断があったのだが、両方とも入院の必要はなく、既にすっかり治っている。

 問題なのはアリス・スクラム・リーンエッジ。腕の骨折など軽いもの、『盲目のネード』の攻撃により十六か所もの骨にヒビが入り、飛行艇が揺れコントンに押し潰された時、鼻まで曲がってしまっていた。

 コントンはその付き添いである。兄弟仲が悪いのだが、アリスに比べコントンは駄目な兄を可愛いものと思っている節がある。

「ただの見舞いじゃないんだろ? 捕虜だってのにここまで来てんだ。よほど無理言ったに違えねえ」

 アリスの発言は、ギラに手錠をつけた二人の女性を見てである。

 ナミエ・アラヤにゴリアック・エルム。第二地域の最高戦力と言っても差し支えない。

 ギラはゆっくりと口を開いた。

「三大魔皇のデビル、お前達は知っているか?」

 知っているか、と言われれば誰だって知っている。

 デビル、セルゲイ、シント、という三大魔皇に連ねられるものは、複数の大陸を所有し、魔族として人間を殺したり、自分がより長い繁栄を続けるために人間に服属したりと性質は異なるが、その存在感、何よりその圧倒的戦闘能力により数多くの大陸の社会に影響を与える存在。

「知っているか、って知ってるに決まってんだろ? 俺、貿易会社の社長」

「私は魔族の有力貴族の次男ですよ?」

 当然の返事に、ギラは苛立ちもせず淡々と続ける。

「そういうことが聞きたいのではない。何かデビルと個人的な付き合いがあるかを聞いている」

「そりゃお前あるに決まってんだろ、俺は……」

 とアリスが言おうとした瞬間に、コントンはアリスの絆創膏が着いている鼻を殴った。

 白い絆創膏が血に染まる。

「ッテメェ何しやがるボケェ!!」

「ボケはこっちの台詞だ! まさか言おうとしていたんじゃなかろうな!?」

 コントンは完全に平静を失っているが、ゴリアックが腕を鳴らすと萎縮した。

「別に隠す必要はねえだろ。その辺、ちゃんと配慮してくれるだろ?」

「……ゴリアック、席を外してくれ」

「んだよ折角屋上から移動したってのに……後でそいつと戦えるんだろうな?」

 ナミエがギラに目を向けると、ギラは頷く。

 そうするとゴリアックは扉ではなく、三階の窓から飛び降り、そのまま学校へと戻って行った。

「じゃあ言うぜ?」

「待ちなさい! 私も失礼します。私は何も聞かなかった、で良いですね?」

「はっ、腰抜け、ヘタレ」

「うるさい馬鹿。向こう見ず、犬」

 それだけ言うと、コントンも窓から羽ばたいていった。

「全く、窓をなんだと思ってやがる」

「アリス・スクラム・リーンエッジ、話してくれるか? 一体なぜ魔皇デビルがこのような真似をしたのか」

 エリオット教は一夜にして滅んだ。連絡が取れないジークとエリオットは、十中八九落命しただろう。

「まず第一に、俺とコントンが捕まったことを知ったから移動したんだろうな。そして第二に、魔族たるもの人間を殺すべし、って考えなんだよ、オヤジは」

「……オヤジ?」

 ナミエもギラも、当然それ以降の言葉を失った。

 だがアリスは続ける。

「デビル・スクラム・リーンエッジ。名前だけは最初からあったらしいが、スクラムとかリーンエッジはなんか後付らしいからよく分かんねえ。俺はあのオヤジと奴隷のオカンから生まれた正真正銘の子だ。オヤジが卵産みまくるから何男かは分からんが、女から生まれたってんでは俺が長男でコントンが次男。これしーな、しー」

 とアリスは冗談っぽく毛むくじゃらの人差し指を口元に当てた。

 ちなみに、女から生まれた、というのは当然デビルが男を孕ませたわけではなく、デビル自身の能力による卵のことを言っていた。

 世界を支配する魔皇の息子、その存在がいかに大きなものかをまるで気にしない様子でアリスが言い切ったことに、ナミエが慌てて言う。

「それがどういうことか分かっているのか!? 人質でも脅しでも、お前の使いようはいくらでもあるのだぞ……!」

「オヤジはそんなに優しくねーよ。それに、リースちゃんとリースちゃんの担任のアンタを信用しているんだ。頼むぜ、センセ」

 ナミエはなおも食い下がろうとしたが、辞めた。このことはノア校長と共に墓場まで持って行くと心に誓いながら。

「……アリス殿、そのような危険な事実、ありがとうございます」

「テメェのために言ったんじゃねーよ。別に隠しているつもりもねーしな」

 アリスは思い出す、公明正大というにはあまりにも邪悪な父、しかしそれこそが魔としての正しい姿。

 暴虐と謀略により世界の全てを手中に収めんとする強欲、無意味な殺生は魔族だからこその特権とし、義務的に人を殺す父。

 アリスにとって問題なのは、その父の軍師として活躍するジョーカー、決して目立たず、しかし確実に父の信頼を得る怪しき存在。

 昔は自分も慣れ親しんだが、今、父の元を離れて改めて考えると、その都合の良すぎる存在に異常性を見出す。

「一つ言って……いや、やっぱなんでもねー」

 思い過ごしかもしれない、そんな思いが払拭できず、アリスは結局口をつぐんだ。

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