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エリオット教編11・再会

 なんとか浮くことができるコントンが、ガンドームから奪った鎖を使いガンドーム本人を捕縛する事に成功した。無論、吸着の魔法は使えないが。

 飛行艇の中では運転手とガンドームを捕虜にし、ロゼッタ、リース、アリス、コントンの四人が見張る。

「ギラ殿はまだ一人で戦っておられるのか……歯痒いな」

 リースが悔しそうに呻くも、ロゼッタが怒って言う。

「一番の怪我人のアンタがそんなこと気にしないの! そもそも、私達じゃこの外で戦えないし、怪我だってしてるんだから」

 ロゼッタの言う通り、そもそも戦うことすらできないうえ、戦ったところで足手纏いになる。

「神聖大隊長『鎖縛のギラ』の実力は折り紙つきだ。心配の必要はないと思うが、しかし多勢に無勢が気になる」

 アリスの呟きと同時に、ガンドームが口を出した。

「いや、余裕じゃろう。ギラはエリオットにも並ぶ実力者、わしも歯が立たんかった」

「捕虜は黙っておいてください!!」

 とコントンが叫ぶも、アリスは普通に意見を交わす。

「多勢に無勢が気になるっつっただろ。いかに最強といえど、格闘家の定めとして複数相手は無理だろ」

「それができるから最強なんじゃ。しかし、エリオットに申し訳が立たん……」

 はぁ、と溜息をつくガンドームはそれきり何も喋らなくなった。

 一方アリスは三人に向き合う。

「そこのオヤジはそう言うが、お前らはあいつが信用できるか?」

 アリスの疑問に、真っ先に答えたのはコントンである。

「いえ、エリオット教の人間なぞ、はなから信用してないのですが……」

「ギラ殿は真の武人だ! その実力は私が保証する!!」

 リースは別にコントンに怒りをぶつけるでもなく、ただ純粋にそう言った。

「何はともあれ、信じるしかないでしょ。私弱くて戦えないし。あんたらも戦えないし。たった一人の頼みの綱よ。はぁあ、こんなはずじゃなかったのに……」

 ロゼッタの言葉に、誰も言葉を返せない。もっとも正しすぎる言葉だった。

「しかし、いつになったら魔女の大陸に着くのだろうな。連れ去られる時と比べると、どうにも待ち遠しい」

「あらら、リースちゃんもホームシックってわけか。おいこら運転手! 全開で行かねえか!」

「ぜ、全開ですよぉ!」

 泣き声に似た鎧の声を聞きながらアリスは笑う。

「……アリス殿、私は少し眠らせてもらう。少しでも疲れを癒したい」

「おうおうオッケーオッケー。俺の毛使う? もふもふだぞ?」

 リースは無言で備え付けのブランケットを纏い、横になった。

「……無言は傷つくぜ」

「エロ兄が」

 寝息を立てるリースと、泣く運転手と、兄弟喧嘩。

 ロゼッタは逃げ出したい衝動をこらえ、ガンドームを見張り続けた。



 それは、リース達が乗っている飛行艇と全く同じ内装であるはずだ。

 物や人、より小型の飛行艇を運ぶだけの、乗客席すらない簡素な大型飛行艇、リース達はだだっぴろい空間を運転手と捕虜含む五~六人で使っているのに対し。

 シズヤが奪い取ったそれは血まみれの黄金の鎧五十以上と、血しぶきを浴びた三人の鎧運転手だけが使っていた。

 元は四人いたのだが、血腥(ちなまぐさ)さにに文句を言う奴がいて、いい香りのする植物を強引に生やし、風操作能力で効率的な換気を行ったが、それ以上文句を言った四人目は殺したため、現在三人が残っている。

「こっちに向かってくる飛行艇はない? 一応色々確認したいんだけど……」

 欠伸をしながらシズヤはのんびりと聞く。彼女もこれを奪い取った後は仮眠を取りながら状況の確認をしている。万一三人が反旗を翻そうものなら、予め植え付けた植物が三人ともを殺すことになる。

「じゅ、十二時の方向飛行物体なし!」

「同じく三時の方向、敵影なし!」

「レーダーには何も発見できません!」

「そう。じゃあ見つけたら報告、よろしくね?」

「はい!!」

 三人が声を重ねるも、シズヤはまるでどうでも良さそうに窓を見た。

「あ、それと、もし何かあったら私は直接出て行くけど、その間に三人で逃げ出す、なんてしないでよね?」

 三人の鎧は、無言だった。

「返事は?」

「はい!!」

 そこからはシズヤはゆっくりと目を閉じた。

 何もなく、ただ待つのみ。

 自分で飛び立ちたい衝動にも駆られた。どうしてここまでリースが心配なのか、いやどうしてリースに深い想いを抱くようになったのか。

 可愛いから、とリースには言ったが、自分の物であるという所有願望、名門クロスフィールド家のお嬢様として欲しいものは何でも手に入れたい所有欲からかもしれない。

 リースは実に美しい少女である。

 見当違いの事ばかり考え、全く常識がないが、悪気がなく裏表もない性格はエレノンが見初めたように、人間の心の美しさを体現したかのような姿。

 姉妹揃ってお家のための道具扱いされ、人間をまず疑うことから始めていたシズヤにとっては充分癒しの効果があったのだろう。

 たとえそれが、見当違いで間抜けで滑稽だから面白い、というまた別の意味があったとしても。

 植物でできた椅子に、足を投げ出して座り、シズヤが待つこと、数時間。

「ぜ、前方に大型飛行艇が一……いえ、二機! 二機がこちらに向かっております!!」

「本当!? もー、暇で暇でたまらなかったよ~。敵でも味方でもいいや。ちょっとこの場で停止ってできる? できなかったら、真っ直ぐ進んで」

「そ、その場合植物は……」

「ああ、殺すとかあれは嘘だから安心して?」

 本当に嘘かどうかはこの兵士達は知らないが、もはや彼らは命令に順ずることしかできない。

 入り口を強引にねじり開けると、シズヤは深呼吸の後、飛行した。

 そこからはもう見れば分かった。

 鎖で捕縛されかかった飛行艇が、一所懸命といった様子で魔女の大陸に向かっているのを。

 なんとか船を出る前だったから、シズヤは安心させる意味で三人を見張るように植わった巨大な植物を風で滅多切りにして、飛び立った。

 追われる飛行艇の中には、運転する鎧、鎖で巻き取られた白髪の男性が一人、アリス、黒い魔族、赤い髪の女、そして毛布で寝ている一人の少女……

「リース!」

 そのリースは大きな声で目を覚まし、そのままシズヤを見て目が冴えた。

「シズヤ、どうしてここに!?」

「そんなのリースが心配だからに決まってるよ!」

 すぐに駆け寄り、シズヤは恋人でも恥らうほど強く、激しく抱擁した。

「うわ、あんたらってそういう仲だったんだ?」

 と知らない女が言うので殺そうとしたが、リースの手前、耐えた。

 次にアリスを見る。リースを巻き込んだ上、こんな怪我までさせて……ここで殺してやろうかとも思ったが、それもリースの手前である。それ以前にアリスは学校に援助などを色々しているので消すのは都合が悪いが、それは考えなかった。

 残った生物、コントンとガンドームはシズヤにとって知らないもの。この場はただ、リースのことのみ。

「リース、どこも痛くない? 体、大丈夫?」

「ううむ、満身創痍といったところか、少し寝て良くなったが、節々が痛む」

「一体誰がこんなことを?」

「ギラ殿だ。今は我々を守ってくれているがな」

「……あ、そう」

 無論、殺してやろうと思ったのだが、味方となれば耐える他なし。

 殺伐としたシズヤの感情は他人に厳しすぎるが、彼女が普段考えていることの半分は、このようなものである。

 人を馬鹿にし、人を見下し、およそ人というものを信用しない。

 リースが欲しいのは、それでも自分に信じさせてくれるからかもしれない。

 人を尊敬し、人を信じ、そうさせてくれる人間の代表としてリースがいるのだ。

「じゃあ、早く帰れるように敵を倒してくるね? そしたら、私もイツキちゃんみたいに、リースのお家でお泊りとかしたいなぁ、なんて……」

「なんだ、そんなことか」

 リースは普通に言うと、それをシズヤは大袈裟に受け取る。

「じゃ、じゃあ今日行くからね!? そ、それじゃ行ってくる!!」

 入ってきた扉からシズヤが即座に出る。

 数分経たずして残されたアリスが呟く。

「……大丈夫か、あの嬢ちゃん」

 負けることはないだろうが、いろんな意味で不安しかない。

「彼女は弱いのですか?」

 とコントンが訊ねるも、アリスはごく普通に言葉を返す。

「いや、シズヤは最強だ。しっかし、こんなに何かに盲信というか、平静じゃないのは珍しいからな」

 アリスの知るシズヤという女は、良家のお嬢様で最強の力を持つ存在、暴走すると最も危険な存在だと思える。

「最強、ですか」

「お前にも分かりやすいように言うと、ギラよりもお前よりも俺よりも、三人合わせたのより強いな」

「ははは、兄上はやはり馬鹿だ。一体どれほど強ければそんな……」

 言っている途中に、扉が再び開いた。

 同時に、飛行艇の速度が急に上昇する。

「リース! 敵はもう倒したよ、帰ろ帰ろ!」

 後ろには、ばつが悪そうな顔のギラがいて、アリスとコントンのみならずガンドームまで目を見開いたという。



 シズヤがウラヌスの乗った船を倒すまで、何があったか。

 まず飛行した彼女はギラを視認すると、リースの味方であることだけ大声で伝える。

 後は単純だった。

 後ろの飛行艇からウラヌスはシズヤをなんとか視認するも、飛行する人間は奇怪であるが声をかけることも攻撃することもない。たかが人間一人に何ができるかなど知らないからだ。

 無論、ただ飛ぶだけならば、巨大な飛行艇を、巨大な鉄の塊を人間がどうにかできるわけがない。ウラヌスは精々部下に命令を出し、厳重に見張らせることが最善の選択だろう。こんなことで小型飛行艇でつっこませるほどウラヌスも悪意と怒りに満ちてはいない。

 だがシズヤはただの人間ではなかった。

「いやぁ、鎧もそうだけど、飛行艇もいいね。棺桶に入ってくれていると楽で楽で」

 まず、ウラヌスの乗っている飛行艇の、背中とでも言えばよいだろうか、天に面した部分から巨大な植物が生えた。

 一本の巨大な茎から、途中で枝が二本分かれ、茎はそのまま天へ。

 真ん中の茎の頂点には双葉を重ねたような口が、分かれた枝にはまるで両手のように筒があり、そこから桃色の液体が垂れている。

 枝から流れる液体は飛行艇の両翼をあっさりと溶かす。それだけでウラヌスの敗北は確定したも同然だった。

 急に速度が落ちたかと思うと、高度が落ちる。報告によると両翼がなくなったと。

 同時にシズヤはウラヌスが操るガンドームの鎖を、二機の飛行艇の間の部分を風で切断した。

 だが、ウラヌスは黙っちゃいない。散々に部下をなじるだけなじって、こうなりゃ道連れと一層魔力を鎖に混める。

「こうなりゃギラだろうがガンドームだろうが知ったこっちゃない! ジークかエリオット様に連絡して! このウラヌスは最後まで結局は男女でしたよーだっ! ってね!!」

 普段かしこまっている部分はどこへやら、ガサツな本性を露わにして魔力が体中に満ち溢れる。

 だが再び船へ伸ばされたガンドーム用チェーンは暴風により跳ね返され、それは不可能だった。

 いかに鎖が吸着や反発の能力を持とうと、水や空気のような力までは防げない、カマイタチでは済まないシズヤの真空圧による切断、ウラヌスに打つ手はない。

 それにも気付かずウラヌスが鎖を持っているところで、シズヤが止めを刺した。

 巨大な空気の塊、人間どころかまさしく鉄すら潰す気圧をかけて飛行艇を潰したのだ。

 飛行艇各部で爆発、衝撃、混乱が巻き起こる。

 既に自力で飛ぶこともできず、小爆発が起こる飛行艇は徐々に高度を下げていく。

「いやぁ、楽ちん楽ちん」

 シズヤはそう言って、リースの待つ飛行艇に戻る。

 いずれ爆発し永遠に落ち続ける飛行艇の中。

「……はぁあああああああああああああああああああああああ! ……一体どこで何を間違えたのかしら?」

 大きな大きな溜息の後、ウラヌスは力を抜いた。



 ネイローに殺された『盲目のネード』『芸術のインマ』。

 シズヤに出会い頭に殺された『珍事のピンギス』『降魔のベルク』。

 ジョーカーに謀殺された『鉄壁のジーク』。

 そして、飛行艇とともに落ちた『縛撃のウラヌス』、計六名。

 エリオット教創設時の十一人のうち半分以上が死に絶えたこの戦いは、そのままエリオット教の崩壊を示していた。

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