エリオット教編8・ニッカ・ルールーニ
第二対魔女の地区はシズヤ達の活躍により無事エリオット教の魔の手から逃れた。
空港には教師を中心に卒業生と警察がエリオット教の侵入を拒みつつ、アリス達ジョンズ会社のものを保護すべく率先して年長者が指揮をとる。
また、空港は一つの拠点となり、そこからまた軍である学生達にさまざまな指示を出した。
シズヤは最高戦力として第一対魔女の地区へ援軍として出される予定だったが、華麗に無視して飛行艇を奪いに飛んでいった。
イツキのように優秀な生徒は地域の境目付近を警備しつつ、隣の第一や第三の領土を援護することとなっている。
無論イツキは猛反発したが、結局は指示に従った。シズヤやリースを心配するも、彼女には友を信じることができる強さがあった。
して、エレノンやネロのようにお世辞にも優秀と言えないものは自宅待機兼周辺警備、とは口だけ、事実上の戦力外通告である。
故にエレノンはネロと自宅で電話をしていた。
「……私は、リースを探しに行きたい」
それが元々エレノンが動き出した理由、しかし今、ともにそれを行ったシズヤは一人の力でそれを行い、自分は力不足のために教師陣から反対され、自宅に押し込められた。
「エレノン、無茶ですよ。エレノンは弱いですし、助けに行っても足手纏いです。まあ気持ちがわからないでもないですけど、逆にほっとしませんか? 休める大義名分がもらえたんですから」
ネロは最初からリースを助けに行くことを諦めていた。
仮にリースが負けたならば、もっと弱い自分ならばまとめてやられるだけである。
だがエレノンは自分をなげうってでもリースを助けに行くと決め、それを実行した。
現在でこそ教師に止められ、家の周りに見張りまでいるためにそれができないが、元々ハイリスクローリターンの考えであり、強引にでも止めてもらった方が総合的にはエレノンの得であるに違いない。
だがそれでもエレノンは潔しとしなかった。
「……損得じゃない。確かに弱いし、どうあがいても役に立てない。でも、私はそれでも構わない、私の自己満足で、ただの私の想いだから」
しんみりと、電話でエレノンは告げる。
ネロもベッドの上からパタパタと足を動かすのをやめ、冷静に諌める。
「エレノンのそういうところが私は大好きです。でも、だからこそエレノンにはこれ以上無茶をして欲しくないです」
初めてネロがエレノンを認めた瞬間、エレノンは命を賭けてネロを守った。別にそれはネロが特別だったわけではない。
エレノンは誰が相手でも自分を投げ打つことができる、自分の正義のために命を懸けることができる。
それはあまりにも正し過ぎて、危険過ぎる。
「……私は、無茶してるけど……、でも……」
言葉が紡げず、エレノンは押し黙った。
あまりにもエレノンは人と関わらない、人を嫌いすらしている。
だから一方的に助けた気分になっていられた、今までは。
「エレノン、お願いですから無茶だけはやめてください。このままだと私心配で心配で」
エレノンは何も言わずに電話を切って、布団に寝転んだ。
四畳半一間の、実家の質素な一部屋、エレノンの部屋であるが家具類のほとんどは寮に運んだため今はがらんどうとしている。
布団とちゃぶ台だけ、エレノンはそこでごろりんと転がると、ぽつんと目を閉じた。
割りと短絡的な考えしかできないための無謀、だからこそ今も悩み、そして立った。
やはりこのままではいけない、間違っている。
立ち上がり、いつもの黒ローブに着替え、家を出た。
今この場は完全に安全、ここに信徒が居ようものならこの大陸は滅ぶだろうが、そんなことがないので一安心。
しかし、もし教師、教員、卒業生などに見つかってしまったら家に引き戻される、今のエレノンの敵はそれだ。
こみいった住宅街はそれだけで地の利があるエレノンに有利、学校に近いが現在学校は教師が数人いて魔女からの攻撃に備えるのみ。
このような中途半端な地帯には見張りはほとんどいない、問題は南端の空港にいる教師や生徒。
そう思っていたエレノンも、少なからず驚いた。
(あれは……確か、先生と仲良さそうにしている先生)
エレノン達の眼鏡女教師はナミエというのだが、それ以外の先生の名前をエレノンは知らない。
黒い髪を後ろに纏め、ワンレンズの眼鏡、そして比較的普通の見た目のアサルトライフルをひっ下げた教師。
服装はいかにもジャングルでスナイプしていますというような軍人の格好で、森の中や校舎でもよく見るが、イツキに言わせればただのコスプレみたいなもの、とのこと。いつもこんな格好をしているので、鉄砲使いとは知っていたが、恐らくワンレンズの眼鏡が秘術で、目が凄く良いのだろう、とエレノンは予想していた。
エレノンはその教師が立ち去るのを見守って、別の通路も見張った。
(あれ……さっきの先生?)
全く同じ顔、同じ姿のさっきの先生がいた。
その人もまた別方向へ移動したので、安心して最後に残った別通路を見る。
(……三つ子?)
三人目を視認したと同時に、大きな声が上からした。
「あーっ! エレノン・バルタルタ! 家から出る理由を聞こうか!?」
その声はバルタルタ家の屋根の上から。
その姿は、まさかの四人目。
「……先生、四つ子?」
「なわけあるかい。私だって先生なんだからな、そりゃ昔はクラス最強だとかいわれて、ゴリアックみたいな扱いを受けてたんだぞ?」
軽い調子で言う先生ことニッカ・ルールーニにはまるでそんな最強の雰囲気がない。
「……そんなに強いの?」
「うんにゃ、ゴリアックもネイローもシズヤも歴代最強くらいじゃないかね? 私が何十人、何百人いたって誰にも勝てそうにないね。もっとも」
銃を肩に背負って、ニッカはニカッと笑う。
「私は無限にいるけどな!」
それぞれの通路から、三人の同一人物が現れる。
「さあエレノン・バルタルタ! ここらで自慢話でも聞かせてやろう!」
と一人目が意気揚々と言う。
「君が球を三つまで出せるように!」
と二人目が余裕綽々で言う。
「私はこの鉄砲と自分自身を好きなだけ出現させることが可能!」
と三人目と自信満々で言う。
「しかも、全員同時に死ぬまで死ぬことはないし、五感も共有できる。はっきり言って最強でしょ? 無敵だろ?」
エレノンの目が大きく開かれた。
「……反則」
不死という能力に様々な種類があるとすれば、このニッカの無限増殖もその一つと言えよう。
「はっはっは、そう言うけど、ナミエのがよっぽど強いし、ロイのが反則っぽいし、そもそも死なないだけで痛い思い出はあるし、誰にも勝てないし、結構大変なんだぞ」
と一人目が笑いながらエレノンの頭をぽんぽん叩く。
「銃が普通のだから、銃が効かない奴には何も利かんし、魔女の眷属相手にも一苦労さ」
と二人目が笑いながら嫌がるエレノンを羽交い絞めにする。
「だから実戦よりも、魔女の森のパトロールとか、こういう時の見張りみたいな役ばっかりなんだよ。もらう能力間違えたね」
と三人目が笑いながらエレノンのほっぺたをぷにぷにつつく。
「…………やめろ!」
いい加減エレノンが怒ったが、しかしニッカは今までの笑顔から一転、真顔に変わる。
「それはこっちの台詞だ、エレノン・バルタルタ。君が仲間を心配するように、私達は君が心配なんだ。秘術は将来的にいくらでも強くなる。いつ強くなるかは人それぞれだがな。皆の成長が早いからといって、君が焦る必要はない」
「そんなんじゃない! 私は、私はリースが心配……」
「リース・ジョンか。エリオット教の大陸にはロイとアーサーが向かった。君は自分の心配だけをしておいてくれ。あの二人は強いから大丈夫さ」
エレノンは沈痛な面持ちのまま、何も言わず家の中に戻った。
残されたニッカはぽつりと呟く。
「……大丈夫だよな」




