閑話・三年生の最強達
第三対魔女学校、構造はなんら第二と変わっていない。
北にある魔女の森、そこの魔女が『大塔の魔女』なので見える塔がより大きいくらいである。
ちなみに『町の魔女』シュールはどの学校からでも会える。ワープする不思議な扉が全ての学校にあるのだ。
ともかく、ゴリアックはやってきた。
この日だけ、第一対魔女校と校長を交換して、その第一地域の校長が第三で開会を宣言する。
魔女校でそれぞれ最強と呼ばれる者たちは、それぞれが強力な秘術を持っている、即ち強い思い込みや思念の力がある。
つまり変わり者揃い。
とはいえ、一番目立っていたのはゴリアックだった。
第一の最強シラナミ・ハヤセ、第三の最強グルフェン・ブラウニー、第四の最強バロミ・テスティ、第五の最強、コウサカ・リカ。
その四人が思うことは一つ、どうしてゴリアックは裸なのか。
そしてゴリアックも衆人環視の状況、上の服くらい着ればよかったと後悔していたという。
特設された選手控え室、流石にゴリアックも服を着ようと試みるも、貸出された服はバストのサイズがなかなか合わない。
同室で着替える他の最強達はそれを疎ましげに見る目も。
まだ彼女たちも成人していない女子、そういうコンプレックスがあるのは当然だし、割り切るのが普通。
普通ではなく割り切れないのがシラナミ・ハヤセ。
黒い髪の縦ロールの髪型と特徴的な喋り方は、心身ともにお嬢様である。
だが、優雅ながら剛毅で強い性格なのに、胸だけは誰よりも慎ましい。
「あなたがゴリアックさんでしたわね。少し、おふざけが過ぎません?」
冷静を装っているが、声が引きつっている。
「おう、あんた誰だ? 強いのか?」
いかにもプライド高そうなハヤセはもう顔を真っ赤にしてきーきーとがなりたてる。
「私を誰だか知らないぃ!? このシラナミ・ハヤセをご存知ないなんて、あなた本当に代表を務めてらっしゃるの!?」
「強さと知識は関係ないだろ。まして俺と同じレベルじゃねーか」
「はぁ!? あなたは第二、私は第一の最強ですのよ!?」
挑発めいた言葉に他の三人も鋭く反応する、うち一人は鋭すぎて切りかかる。
「んだぁテメェ? 第三の私は三番目とでも言うのか、コラ?」
「第三……グルフェン・ブラウニーね」
ハヤセはそう言って、睨む目の下の隈も気になるが、背の高さと胸の大きさを確認してから目をそらし吐き捨てた。
「二番目も三番目も知りませんわ。ただ一番が一番強い、それだけです」
胸のサイズでは残念ながら三番にも劣る、洗濯板にも劣るかもしれない。
「言うじゃねえかお嬢さま、手加減を義務付けられてなけりゃドロドロにしてやるのによ」
二人がいがみあい、ゴリアックが除け者になるが特に気にはしていない。
試合は総当りで行われる十回勝負。
初戦は食って掛かるお嬢さまのシラナミ・ハヤセとゴリアック。
「さて、と。あなたには容赦ない攻撃が許されていますので、悪く思わないでくださいまし?」
「はっはっは、思うわけなかろう! そちらは存分に恨んでくれて構わないぞ、闇討ち不意討ち、なんでも待っている!」
呵呵大笑のゴリアックの方が口撃では勝ったというところ、ますます顔を赤くしたハヤセはその懐から野球ボールのようなものを取り出す。
のようなもの、というのはそれがハリネズミのように金属の針が多数ついていなければ、そのものなのだ。
「それでは、やらせていただきます」
努めて冷静に、第一球、振りかぶって投げた。
ここでハヤセの秘術を紹介。
武器で戦うのではなく、それはシズヤのように操作する能力、それも重力。
違いはシズヤが指輪であるのに対し、ハヤセは黄金の王冠をつけているくらいだろう。
ゴリアックに重力を発生させることで、投げた球はゴリアックに向かう。
この重力の力が絶妙、強すぎては自身が引っ張られ、弱すぎては球がしっかりゴリアックに当たらない。
だがその両方を上手くかなえるほどハヤセは卓越した戦士だった。
ただ運動場の砂までゴリアックに吸い付くため能力がバレてしまう危険はある。
それより予定外だったのはゴリアックが球を針ごと握りつぶしたこと。
「あら正気ですの? 針には毒が……」
「正気? 平気だな、まるで痛くない」
ただの一つの傷もない。
ゴリアックの能力は超再生と超硬化、自身の肉体の能力を更に高めることができる。
故に全力攻撃が許された、現在世界でゴリアックを殺せる人がいるかどうか不明なのだ。
無論、この程度でハヤセは恐れない。
「流石は最強となっただけありますわね。ではこれはどうかしら?」
懐から今度はより強靭で鋭利なナイフが三本、ゴリアックに放たれる。
球と違って大きく移動されると正しく刺さることがなくダメージを与えにくくなるが、その分正面から当たった時の威力は比じゃない!
が、ゴリアックは容易く、それを切っ先から腹筋で受け止めた。
「ふっははは! 痛くも痒くもないとはまさにこのこと、蚊ほども強くない!!」
余裕綽々のゴリアックに対し、逆にハヤセは決意の表情をしている。
本気を出す決意、本気で殺すという決意。
一方のゴリアックは蚊の方がまだ痒みを残すから厄介だと真剣に考えてしまっている。
「少しお話をいいかしら、ゴリアックさん?」
せめて命乞いは聞こうというハヤセの思いやりもゴリアックには通じない。
「その必要はない! どんどん来い!!」
ハヤセの中で何かが切れた。
突如、ゴリアックの体が浮いた。
「お?」
と間抜けな声を出すとゴリアックは直立不動の腕組のままどんどん空へ昇っていく。
ゴリアック真上の空間に重力を発生、それを随時繰り返すことで秘術発動可能範囲、即ち目視できる百メートルは浮かび上がらせる。
そして能力を解除し、落とす。
だがそれだけでは終わらせない、落ちてくるゴリアック自身に強い重力を発生させ、ハヤセは持てる道具を全て放り投げる!
ただ無言に、しかしハヤセの必死の形相はあまりに普段の優雅で怒りっぽい様子と比べると、真剣すぎて引く。
それでもゴリアックは腕を組んだまま、ナイフも毒薬も熱された砂鉄も釘も何もかも、ただ受けた。
最後にハヤセは地面により強力な重力を発生させ、最高の威力で突き落とす。
「うむ、いい景色であったぞ」
そんな落下の衝撃と煙の中、「やったか!?」と確認する間もなく突如加速したゴリアックに対応できずハヤセは身構えるしかできない!
「受けられるか、我が拳を!」
ただの勢いついたパンチ、それだけで温室育ちのお嬢さまには致命傷。
顔に当たれば悲惨なことこの上ないが、情けか偶然か拳は腹にめり込んだため、ハヤセは失神と嘔吐のみですんだ。
ゴリアック一勝目である。
二戦目は第三地域のグルフェン、第四のバロミに負けた後である。
だが、不良と呼ばれる彼女は、その隈のあるぎらついた目でゴリアックを睨む。
「へへ、会えて嬉しいぜぇゴリアックちゃんよぉ? あんた以外には手加減しなくっちゃいけねえってんだから、張り合いがなくってよぉ」
黒いゴム質の上下、ライダースーツのチャックをおろすとグルフェンの胸元が露になった。
「言っとっけど、死んでも私に文句は言うなよなぁ? 本気出していいって言った奴らが悪いんだからさぁ」
「いいから早く来い。楽しみにしているんだぞ?」
何故かゴリアックは困り顔でそう諭す。
それにグルフェンは笑顔で応える。
「行くぜ『苦髪楽毒』!」
グルフェンの両手からより大きな紫の手の平のような物が現れた。
だが指先は鋭く刃物のようで、紫は往々にして毒々しい空気を放っている。
「知っているかぁゴリアック? 人間、苦労している時は髪が伸びて、楽している時には毒ができるんだよ!」
一人叫ぶとグルフェンはぎゃははと下品に笑う。
「それは苦髪楽爪だろう? 四字熟語掛け軸シリーズを買っていれば何の問題もない」
言いながらゴリアックも気付く、あれが毒の爪なのだろう。
「あんたも買ってるのか!? いや、私も集めているんだがこれがなかなか……」
かなり素に戻ったが、すぐにグルフェンは牙を剥く。
「行くぞゴリアック、手加減は抜きだ!!」
心無し誠実そうに態度が変わったが、ゴリアックの対応は変わらない。
毒の爪を、素肌で受けた。
グルフェンが一番驚いた、なにせこの毒は手抜きとは違い、触れれば即死モノ。
「いてぇ!!」
攻撃を受けたゴリアックが叫ぶ、が、それだけ。
「いてぇ、って痛いだけかぁ!?」
「痛かった。だがもうなんてことはないな」
毒すら、要するに細胞の傷、ゴリアックの肉体には通じない。
それに本来この技は傷つけ血液にも侵入させてこそ、ゴリアックの肉体はその程度では傷つかず、実際は触れてしみこんだ毒のダメージのみ。
「ちっ、『頭寒毒熱』」
爪、というより手の平全体にくわえ、グルフェンの足にも毒が具足が装着される。
「ほほう、どんどん肉体を毒で覆って大丈夫なのか?」
ゴリアックの疑問は当然、だがグルフェンが最強だと言うのはグルフェンには平気だが、他のあらゆる生物には即死になるという超特性があるからこそ!
「本番はこれからだ、今から本気出す!」
大きく深呼吸するグルフェンを、ゴリアックは待った。
舐められている、ともグルフェンは感じたが、その行為に充分値するほどゴリアックは強敵。
「『毒袖一触……!』」
兜、篭手、胴丸、腹当、具足、グルフェンの体が紫の毒で包まれる。
これらの毒は常に流動する液体のようでありながら、地を踏みしめれば地面を砕くほどの硬度がある。
「そして私の最終奥儀……『色即是毒』」
体中から紫色の煙が噴出した。
流石にゴリアックも目を大きく開いた。
先ほどの痛みが、もしこの霧の範囲、全身で、目も鼻も体内も侵されたならば……。
考える間もなく毒に包まれ、ゴリアックは叫び声を挙げた。
誰もが聞いたことのないゴリアックの叫びは、二秒で終わる。
「慣れた!」
「慣れたぁ!?」
観客として見ていた人間はすぐとある教師の作った結界により守られたからよかったものの、大量虐殺をいとも容易く行える技。
「奥儀は見せてもらったからな。今度はこちらが秘儀を見せよう」
この毒の煙の中ならば誰にも見られまい、という慢心である。
無論、グルフェンも女の子で全力は出せない、手抜きだからこそ使うわけだが。
「ひっ……『唯我毒尊』!」
これは毒袖一触の上位互換の技ではあるが、所詮は反撃時相手毒、と言ったような技。
色即是毒を受けきったゴリアックには何のようもなさない。
「『格闘華和』奥儀……『羅鬼数多』!!」
一撃一撃が鬼神の如く、それを数多の量放つ、ただ力任せの最終奥儀。
その初手で毒の兜を壊し、続く連撃で鎧を壊し、最後の一撃をグルフェンのむき出しのヘソに見舞った。
これでゴリアック二勝目である。
続いて第五の最強コウサカ・リカ。
無言で佇むリカ、ゴリアックと対面し、ただ試合の開始を待つ。
コウサカ・リカ、今のところ全戦全敗、手加減の利かぬ能力というより、手加減のできぬ性格。
そのため中途半端な攻撃しかできず、結局三人に負けた後、ゴリアックと戦うという状況。
「試合……開始!」
と同時に、ゴリアックに雷が落ちた。
ただ、それだけのこと。
「ふはは、大きな音だな」
ゴリアックは軽く笑って、そう言った。
雷を受けて無傷、そんなことがありえるのだろうか。
それはリカには分からないが、ただ瞬きすることもせずゴリアックを見続けていた。
まるで規格外で常識外れ、想定外の事態。リカの目はまさに人外の物を見る目である。
「来ないのか。ならこっちから行くぞ?」
ゴリアックが一直線にリカへと突撃する。
声にならない叫びを発し、リカは電撃を放つも、避けることすらせずゴリアックは向かってくる。
ついに拳と拳がぶつかり合う間合い、互いが必死の距離になった。
雷操作という理不尽なほど攻撃的な操作の秘術を持つリカが、人生で初めてというほどの窮地、ここで新たな能力を得た。
全身の神経系に直接電気信号を送ることで運動神経、反射神経を通常の倍以上に!
更にリカ自身の体に帯電、もとい通電させることで単純な打撃にすら致死性を与える!
弱点は体の脆弱さ! ロックトロールを殴り壊すことができても、同時に自身の拳をも壊すことになる!
そう、リカが超パワーで殴ればリカもダメージを受けるし、電気の拳で殴る時はリカ自身も体が痺れるダメージを受ける!
だがリカはまだ何も気付かない! 必死さにより至った極地! ただ勝つことのみを考えた結果の行動!
リカの右拳が先にゴリアックの腹に決まる。
だが、へしおれたのはリカの右腕、いやへし折れたなどと生易しいものではない。
腕を真正面から圧搾機に入れたかのように、滅茶苦茶に潰れ、千切れ……。
電気操作で痛みの信号を遮断、そしてただリカは茫然となくなった右手を見ていた。
ゴリアックも、自分より先に打撃を与えた敵に少しだけ驚いたような顔を見せた。
だがすぐにゴリアックの拳がリカを襲う。
呆気なかった。
リカの右腕を秘術で治してやって、ついにゴリアックの最終戦である四戦目。
第四の最強、バロミ・テスティ。
金色の巻き髪がなかなか目立つが、ともかくゴリアックはいつも通りただ見る。
試合開始の声と同時に、ゴリアックが吹き飛ぶ。
予期せぬ力、しかもかなりバロミとの距離が開いてしまった。
「なんだこりゃ?」
言ってすぐにゴリアックの腕が折れ、首が一回以上回った。
だが、すぐに戻った。
「これは厄介だな! どんな能力だ!?」
聞いて答えるわけがない、のが常識。
しかしバロミはそれなりに優しい人であり、常識外れの人でもある。
「私のは……念動力。この義眼から発生するエナジーによって、あらゆる物体を操る」
そう言うとバロミは左目を取り外し、それを見せてみせた。
「あなたは私に、触れることすらできない」
言うとゴリアックの体は、全身がバキボキと折れた。
腕も足も胴体も、髪の毛は滅茶苦茶に引っ張られ耳は千切れとび目玉は飛び出し内臓は切り開かれ……。
だが、同時にどんどん治っていく。
千切れた足を擦りながら、折れた腕で這いながら、少しずつでもバロミに近づこうとする。
「無駄だから、降参して」
今までで最も容赦の無い攻撃、少し近づいたら、またゴリアックを全身遠くへ移動させる。
遠距離念動力、ゴリアックにとってこれほど相性の悪い敵はいない。
生半可にゴリアックが不死身なために、戦いが終わらない。
しばらくそれが続いたが、観客からのブーイング含む外部からの働きがけにより試合は強制終了となり、厳正な審議の結果、ゴリアックの判定勝ちとなった。
理由は人に宿る魔力の量、攻撃する魔力と生き返る魔力、あの作業を延々と繰り返したとすると、ゴリアックの方が最終的には勝つというのだ。
それに、三日三晩寝ずに戦い続けたとして、回復能力を持つゴリアックの方が勝つのは道理だからだ。
無論、テスティは反論したが、彼女自身が最強を割りと気にしていないので棄却されるとすぐにやめた。
と、まあ五人のリーグ戦全十試合を一日一試合として十日間ゴリアックは学校を空けていたのだが、その間にこの大陸を大きな力が襲来するなどと言うことを、この大会に出ていた者には秘匿されていたのである。




