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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
開拓
9/36

違和感

 お皿に盛られた食べ物に群がるようによって来る猫たちのためにそれぞれのお皿同士に距離を置いて配置していく。その際、猫たちはそんな海野さんを邪魔しないように道を開けて日常的に分かっているかのように皿が置かれるであろう位置に猫たちが行儀よく待っている。皿を置いて海野さんが手を離すと一斉に群がる。

 食事に夢中なのか近くいる未來ちゃんに反応しない猫たちの様子を見て少しずつ四つ這いになって近寄ろうとする姿を周りにいる猫たちと同じように見つめる。

 私はというと縁側に座って海野さんから渡された猫を抱きかかえたまま猫缶の一部を与えている。手のひらについているカスまで食べようとして舐めてくるのですごくくすぐったい。でもその必死な姿がすごくかわいい。愛嬌たっぷりの仕草とその姿毛並は未來ちゃんがくぎ付けになるのも分からなくもない。

「かわいいもんでしょ?」

 海野さんが私の隣に腰かける。満腹になったのか私と海野さんの間に猫が座って前足をなめる。そんな猫を撫でる海野さんの表情は最初に感じた冷たさはない。暖かな春の日差しのような笑顔を浮かべて猫と戯れる。猫の方もこれが日常であるかのように心大きく許して警戒心を解いていっしょになって戯れる。

 それに対して未來ちゃんは食事の隙を見て触ろうと近付いた瞬間、食事を邪魔するなと言わんばかりにしっぽを毛を逆立たせて今までで一番強く威嚇する。

「ご飯中は邪魔したらダメ。余計に嫌われるわよ」

「うう」

 涙目になって距離を置くとそれを確認した猫たちは食事に戻る。

「猫ことをよく知ってますね」

「まぁ、私の日課だから。この子たちも」

 その日課を猫たちもちゃんと覚えているんだ。あの三毛猫もその時間になったのを分かってここにやって来た。

「猫って賢い生き物ですね」

「そうね。生きる術を知っている。犬は忠実な生き物で主人にずっと付き添う。猫は特定の主人を持たない。生きるためならば主人を変えて生き延びる。自由で賢い。私はそんな猫たちが好きなのよ」

「へぇ~」

 確かに自由気ままに過ごしている猫たちを見ていると羨ましくなるな。

 手のひらにある食べ物を食べ終わると私の膝から飛び降りて仲間のところに向かう。気付けばちらりほらりと庭から出ていく猫もいる。本当に自由だ。

 で、相変わらず未來ちゃんは猫と距離を置かれている。

「猫って何が苦手なんですか?」

「どうして急に?」

「いや、未來ちゃんのあの異常な嫌われ方は普通じゃないんで、きっと猫が嫌がる何かが未來ちゃんにはあるんだろうなって思ったんですよ」

 少しでも猫好きなあの子に報いがあってもいい気がする。

 しばらく、海野さんは未來ちゃんの姿を見てから話し始める。

「猫は目がよくて気配にすごく敏感な生き物なのよ。見た相手の気配をすぐに察知して危険かどうかを野性的に判断している。一匹ならともかく全部の猫からああも敵対されるのはあの子の中に猫が嫌がる気配があるのよ。見た目はかわいいから大丈夫だろうけど」

 その後、小声で猫みたいだしって聞こえたのは内緒。

「嫌がる気配ってなんですかね?」

 すると今度は最初に話した時と同じような冷たく鋭いまなざしで未來ちゃんを凝視する。私まで身震いしてしまいそうなそんな灰色の瞳で凝視する。

「血の気配」

「・・・・・・はい?」

 今何か物騒なことを言ったように聞こえた。

 まばたきをするといつの間にか冷たい目線ではなくなっていた。

 そして、半分だけ開いた灰色の目で困ったように両手をあげる。

「私にも分からないわ。私は猫好きでも猫じゃないわ」

 ただ、そう告げて空になったお皿を回収し始める。すると毛づくろいなど自由にしていた猫たちが海野さんから避けるように庭から出て行った。まるで何か気配を察知したかのように。

 何も変わらない静かで刺激の何もないこの小さな町で出会った海野という女性はどこか外れた感じがここでした。この木造2階建ての家にひとりで住んでいるというし、縁側から見た今にはちゃぶ台にテレビにタンスに布団と置いう一人暮らしの日用品がすべて居間にある。何かがおかしい。この時感じた私の違和感。私にもあったのだ。猫と同じように気配を感じ取ることが出来た。

 これだけ猫に餌付けをするような人が猫について知らないはずがない。きっと、この違和感はこれだけじゃないはずだ。でも、なぜかのど元まで出てきて邪魔して出てこない。

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