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ダーク・ハート  作者: 駿河留守
異変
13/36

鬼異変

「これが私の家です」

「おお」

 未來ちゃんはとりあえずリアクションをしたという感じがして驚きというものは全く感じることが出来なかった。まぁ、当たり前かな。だって、どこにでもあるような少し古いだけで普通の木造の一軒家だしリアクションをとってくれただけでもありがたい。

 買い物袋を空腹で死にかけの藤崎さんに全部持たせて私の家までやって来た。

「子安さんはこの家にひとりで」

「いや、おばあちゃんと二人暮らしなんだけど、そのおばあちゃんが近所のお友達と1週間の旅行で今いないんだよね」

「こんなに人が押しかけても大丈夫なのか?」

「いいですよ」

 そう言って玄関を開ける。日が沈みかけたこの時間だと家の中は薄暗くて何も物音がしない雰囲気がこれ以上人を寄せ付けない感じを醸し出している。私が廊下の明かりを灯すとそれを追うようにキョーコちゃんが入ってくる。

「本当に陽子の家って薄暗く気味が悪いのよ」

「来るたびに同じこと言ってるよね?そんなにこの家が怖いの~?」

「こ、怖くない!」

「そうかな~?前に家に泊まった時トイレ行くときにいっしょに行こうって起こされたのを覚えてるよ~」

「な!」

 顔を真っ赤にしてそれ以上何も言ってこない。確かに昔もこの家独特の雰囲気におびえていた時期もあったけど、今は全然平気だ。それにいつも強がってるキョーコちゃんだけど暗いところとかお化けとか苦手な一面もある。たぶん、知ってるのは私か彼氏さんくらいかもしれない。幽霊とか苦手なのにオカルトじみたことにも興味があるという謎めいた部分もあるのがキョーコちゃんである。

「そうか、そうか。あんたにもそんなかわいい一面があるのか」

 散々な目にあってきた藤崎さんがここぞとばかりにキョーコちゃんの弱点ともいえる部分をいじりに来た。

「べ、別にいいじゃない!かわいい一面があったとしても!」

「俺の言うかわいい一面というのは幼稚という意味のかわいいであってお前の容姿とか仕草とかがかわいいというわけじゃなくて」

「キョーコ!そこの木刀貸して!」

 いいよという返事を聞かずに傘立てに置いてあった木刀を抜き取って藤崎さんに斬りかかる。

「おい!待て!冗談だって!」

 それを藤崎さんは華麗にかわす。

「かわすな!」

「当たったら痛いだろ!」

 庭で楽しそうに戯れるふたりはそのままにしておこう。

「見捨てないでくれ!」

「死ね!人類のゴミが!」

「俺は迷えるひとりの少女を拾った心優しいひとりの男だ!」

「そんな拾った少女の食事のためにその友達にご飯をたかりにくるような奴を心優しいとは呼ばない!」

 振りかざす木刀をするりするりと簡単にかわしていく。まるで手慣れたように。当たり前のように。キョーコちゃんを説得しながら。

 それにしても藤崎さんって本当にタフだ。二度も空腹で倒れたのに荷物を持たせてもああやってキョーコちゃんと戯れるだけの体力があることに驚きだ。日ごろからどれだけ未來ちゃんの攻撃を耐えているのか分かる。

「おかしな人だけど悪い人じゃないよね、藤崎さん。そうだよね?未來ちゃん?」

 さっきから黙ったままの未來ちゃんに話を振ると玄関前でさっきまで薄暗かった廊下を見つめたまま動こいていなかった。

「どうしたの?」

 肩に触れるとじめっと汗で湿っていた。

「み、未來ちゃん?」

 だんだん呼吸が荒くなり両肩が上下に激しく動くようになる。日見らいた大きな瞳は揺らぎ焦点が合っていない。まだ、汗だくになるような季節じゃない。今の未來ちゃんの状況は誰がどう見ても普通じゃなかった。

「ど、どうしたの?ねぇ!未來ちゃん!」

 声を掛けても体をゆすっても何も反応がない。

 バクバクと未來ちゃんの鼓動が私にも聞こえるくらい体調がおかしい。まるで小鹿のように怯えて震えて一歩玄関から下がる。

「ご、ごめんなさい」

「え?」

 最初はこの家の独特の玄関の雰囲気が怖くて怯えているだけなのかもしれないと思った。でも、全然違う。これは私が経験したような恐怖じゃない。

未來ちゃんの異常に気付いた藤崎さんが足を止めると空気の読めないキョーコちゃんの木刀を脳天から食らうけど倒れることはない。じっと、未來ちゃんの様子を見つめると一目散に駆け寄る。

「どうした!」

「分からない!急に!」

 私が悪いの?こんなお化け屋敷みたいな家に連れてきたのが?

 そう思うと急に涙が溢れてきて止まらなくなる。

「私が悪いんです。ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 ぎりぎりと歯ぎしりしているかのように歯を食いしばり歯茎からは血がにじみ出る。

「どうしたの!未來ちゃんは悪くないよ!何も悪いことしてないよ!」

 しかし、未來ちゃんの突然の過呼吸とけいれんはとどまることを知らない。どんどん激しくなる一方でどうしようもない。体温もどんどん上がっていくのが分かる。このままだと沸騰してはじけて飛んでしまうんじゃないかと思うくらい、本当に突然のこと過ぎて私もパニックになる。

 すると突然私から未來ちゃんを引きはがすように藤崎さんに突き飛ばされた。そのまま壁に額を強打してずきりと痛みが走る。でも、今はそれどころではなかった。すぐに立ち上がって未來ちゃんの方を見ると信じられない光景が私の瞳に映し出された。

 過呼吸と痙攣に苦しめられる未來ちゃんの唇に藤崎さんが唇を交わしていた。

 時間が止まったかのようにあたり一帯に沈黙が訪れる。された方の未來ちゃんは自分の置かれている状況に理解が追いつかずしばらく静止したまま動くことが出来なかったみたいだった。濃厚すぎるキスを目の前にして私もキョーコちゃんも動くことが出来なかった。その後、ゆっくりと唇同士を離した藤崎さんと未來ちゃんの唇同士からは唾液の糸が伸びる。顔を真っ赤にした未來ちゃんはさっきのような過呼吸はないけど顔を真っ赤にして再起不能状態になっていた。

 この困惑の状況からすぐに抜け出したのはキョーコちゃんであった。

「ちょっとあんた何やってるの!」

 躊躇なく脳天に持っていた木刀を振り下ろす。藤崎さんはそのまま地面に倒れてしばらく動かなくなる。顔を真っ赤にしたキョーコちゃんの呼吸がものすごく荒くなっている。それに代わって未來ちゃんは落ち着いている。私と同じで何が起きたのか理解に苦しんでいるようだった。

「いきなり何するんだ!」

 復活が早い。

「いきなりはあんたでしょ!女の子のキスを奪うなんて最低よ!万死に値するわ!今すぐこの世から消えなさい!」

「待て!これはいつものことで別に最低なことでも」

 反している途中に未來ちゃんからの飛び蹴りを食らって顔面を外壁に強打する。

「お前もいきなり何するんだ!」

 そして、復活が早い。

「それは無闇に言わないでって言ったでしょ!」

「特にトップシークレットなことでもないだろ」

「トップシークレットだわ!」

 顔を真っ赤にして呼吸を荒くして訴える未來ちゃんだけど、さっきの体調不良はどこかに行ってしまったかのように元気になっている。さっきは一体どうしたんだろう。何か怯えていたようなそんな感じもした。でも、そんな様子は今はない。あの未來ちゃんの症状が夢の世界の話だったかのようにどんどんなかったことにされている気がした。

 こういうのを考えるのはキョーコちゃんの得意分野で私はどちらかと言えば苦手。そのキョーコちゃん本人は。

「今日の晩御飯は藤崎の丸焼きよ」

「そうですね。表面に醤油を塗ってこんがり焼きましょう」

 じゅるりとよだれを垂らすふたり。

「おい。目がマジなんだけど?冗談だよな?なぁ。・・・・・・・・お~い、何か言え。頼むから冗談だって言ってくれ!」

 なんか今の雰囲気がいつも通りになって来た。さっきまで緊迫感がきれいさっぱり遠くに吹き飛ばされた感じだ。まぁ、未來ちゃんも元気みたいだし。

「ま、いっか」

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