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プロローグ
帰る場所って、たぶん、なくしてからじゃないと分からない。
あたしにとってこの家は、ただ住んでいる場所じゃなかった。
両親がうまくいかなくなって、どこにも自分の居場所がない気がしていたあの頃、おばあちゃんが何でもないみたいな顔で言ってくれたのだ。
うちにおいで。
その一言に、どれだけ救われたか、たぶんおばあちゃんは知らない。
泣きそうだったことも、あの時やっと息ができたことも、きっと知らないまま、いつも通りお茶を淹れて笑っていた。
だから今も、あたしはこの家で暮らしている。 おばあちゃんの残した匂いと、思い出と、少しの寂しさを抱えたまま。
ここにいれば大丈夫だと思っていた。 変わらないでいれば、何かを失わずに済む気がしていた。
なのに、あの日。 駐車場で困っていたひとりの芸人を見つけた瞬間、止まっていたはずの毎日が、少しだけ動き出してしまった。




