第八話
最近の食料の供給不足は異常だ。どんなに探したって動物がいないのだ。それとは、反対に、見つかるのは魔獣ばかり。魔獣は、基本的に食えない。毒素が強すぎるのだ。
生態系のバランスが崩れはじめているのは明らかだった。そして、腹を空かせた魔獣は凶暴化する。だから、最近の森は非常に危険なのだ。
といっても、この沈黙の森には関係がない話だがな。
ここが沈黙の森と言われているのには理由がある。その名の通り生物が一切存在しないのだ。
太古の昔より神聖な土地とされているこの森は回りが魔獣がひしめく森で囲まれているこの町にとって、唯一の通り道となる。そのため、商人が良く行き交いする最短経路は道が整備されているのだ。
まぁ、今回俺らが向かうのは森の中心部だ。当然、道が整備されているはずがない。
森は生物がいないにしても危険はある。入り乱れた森林は常に方向感覚を狂わせる。毎年、天然の食材を求め、この森で行方不明になるやつが後を絶たない。
本来なら、俺もそんなことはしないのだが、今回は特別だ。何てったってこっちにはリルがいる。
妖精族は別名で森の民と呼ばれる。彼らは森を愛し、森と共に生きる。そんな彼らが持つ能力は非常に珍しい。樹木と会話が出来るのだ。
だから、妖精族は森で迷わずに暮らしていけるのだ。だが、その能力は時に仇となる。安く食材などを仕入れたい商人達にしてみると、実用性が高いのだ。だから、それを狙った賊達が後を絶たない。捕まえて、商人達に売る。奴隷は、かなり厳しく取り締まられているが、戸籍のない妖精族にとっては、その法律では取り締まることが出来ない。だから、秘密裏に妖精族の人身売買が行われているのだ。
当然、リルもその被害者の内の一人になる。だから、外に出たら俺もかなり注意を払わなければならない。町の中は絶えず警備兵がいるから、騒ぎが起きればすぐに駆けつけてくる。しかし、町の外では、全く逆だ。そんな、助けは見込めない。
といっても、他の森での話だがな。でなけりゃ、俺だって迂闊にリルを連れてきたりしない。
この森には神罰がある。実際にあるのだ。この森において殺生は絶対に許されない。その理由がどんなんであれ、血が地面に落ちると森に喰われる。喰われてしまうのだ。その様子は実に恐ろしいもので、カギヅメのついた固い金属質の物体に全身を引き裂かれるのだ。
「次は右に曲がって。その足元にはなんか罠があるみたいだけど、死ぬようなやつじゃないから大丈夫だって。」
まぁ血を地面に下ろさなきゃいい話だ。気を付けてりゃ簡単さ。
リルの指示に従いながら森を歩く。食材はもう少し奥にあるらしい。こんなめんどくさいこと普段からしてられないが、食材がただで手に入るのはとても嬉しい。
「そこの足元に罠があるって。解除とか避けたりとかは出来ないみたいだけど、この森に入るなってゆう牽制ようの罠みたいだから引っ掛かって大丈夫だよ。石が一杯とんでくるんだって!」
ほう、そうか。仕掛けが分かってる罠程簡単なものはない。念のため衝撃を和らげる厚手の布をリルに被せると、その罠に向かって一歩踏み出す。
すると、カチリと音がして手作り感満載の木彫りの猿達がザッと木の上に表れる。その手に握られてるのは武骨な石だ。
その石が何の予備動作もなく吹っ飛ぶようにして、俺達に向かって飛び出してきた。しかし、その速度は遅い。
「リル、後ろは任せたぞ。」
「うん!任せて!」
リルに一声掛けると早速飛来してきた石を避け始める。
「うぅんと、右!つぎわ、もう一回右!直ぐに左!」
リルが一生懸命俺に指示をだす。指示はリルからみての方角だから、逆に動けばいいんだな。背中のリュックにスッポリと入ってるリルに注意を払いながら左、左、右と避ける。
やはり、簡単だ。半ば機械的にリルの指示に従っていく。当然前から来るやつは自分で対処だ。
「左!右!えぇと一杯来た!ジャンプして!」
右、左、タンタンとステップを踏む。えっとジャンプの反対はしゃがむだから……
ガツンッ
ヘブゥォエッ
予想だにしなかった衝撃に声を出してしまった。ギンギンと後頭部が痛む。しゃれんなんない痛さに頭を抱えてしまう。
「お、おいちゃん大丈夫?」
幸い、リルにはぶつからなかったようだ。一安心。
「あぁ、後頭部半端ねぇ気持ちぃ。最近、首こってたんだよねぇ。」
「えぇ!?おいちゃんあんなおっきい石当たったのに何ともないの!?」
「なにいってんだリル。おじちゃんにとって、あんなもんマッサージの一種なんだよ。」
「うわぁ、凄い!おいちゃんにとっては血が出るくらいなんてマッサージの一種なんだね!」
おおぅ!?なんかねっとりすると思ってたら血が出てたのかよ。
俺はこっそりタオルに傷薬を塗ると首筋の汗を拭くかのようにタオルを羽織った。危なかった。この森では出血は厳禁なのだ。幸い石は大したものじゃなかったため、軽い傷だ。タオルと傷薬でなんとかなる。
「うし、じゃあ進むか!」
「れっつごー!」
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木漏れ日が眩しい。
真っ暗な樹海には不似合いな明るさがそこにはあった。
若々しく生い茂る野草は楽しげに露を溢す。
古代神殿。
俺らは気付かぬうちにたどり着いてしまっていたようだ。
突然、入っていたリュックから出てきたリルはパサリパサリと草を掻き分けて、神殿へと近づいていく。
「リルね、ここ知ってる。本当のパパとママにつれてきてもらったことある。」
本当のパパとママ。
この言葉にチクりと胸が痛くなる。直前までチキッてたのは俺だ。確かに助けられなかったかもしれない。
心の中では良いじゃないか、どうせ助けられなかったんだという気持ちが強い。
しかし、俺は俺自身を許せないでいた。何故、俺はリルの前でいい人ぶっているんだろう。彼女の両親を見棄てて、自分は信頼という物を得た。最低な野郎だ。
思わず、真実が口から漏れそうになる。これを知ったリルはどう思うんだろう。
落胆、するだろうか。
リルにとって俺は、所詮、どんなに好かれようともおじちゃんでしかない。失ったリルの本当のパパに成り代わってやることはできない。
憂鬱な塊が壁になって俺を押し潰しているみたいだった。
何を俺はうかれていたんだろう。
情けない。こんな、小さな少女に凄いともてはやされたくらいで調子にのるなんて。でも、でも久しぶりだったんだ、俺の夢を笑わなかったやつは。こんなに、俺を信頼してくれるやつは。まるで、子供の時に戻ったみたいだった。本当に英雄に成れると思ってたあの頃に。
単純に英雄に成れると信じて疑わなかった。でも、住み慣れた町を飛び出してからは挫折の積み重なりだった。所詮、町一番は都会での平凡に過ぎない。
いつしか、英雄だった俺の夢は一流になり、二流になり、そして、三流になった。平凡な暮らしができりゃいい。
日暮し出来てればよかったんだ。
だけど、やっぱり英雄は諦められなかった。
だからだと、思う。
「おいちゃんは、ヒッグ、何で、何でリルを助けてくれたんですか?」
親を無くした少女に俺は嘘をついた。
「おいちゃんは、、ヒッグ、英雄ざんなのぉ?ヒッグ、リルを、リルを助けてくれてありがとうございました。」
丸一日なき続けていた少女を泣き止ませようとした冗談だったんだ。だけど、リルには違った。本当の英雄だと思っちゃったみたいなんだ。
罪悪感はあった。だけど、それ以上に信頼してくれるという存在が嬉しかったんだ。
「ねぇおいちゃん?何で泣いてるの?何か怖いことでもあったの?」
無防備に近寄ってきたリルを抱き締める。幼い少女の身体だ。少し強く抱き締めたくらいで折れてしまいそうなくらいに。
スマン、リル。お前の保護者気分になってた自分が憎い。俺はただのおっさんなんだ。
「ねぇ泣かないで、おいちゃん。リルがいるからね。一人じゃないんだよ。」
突然、泣き出したおっさんはキモいだろうに。まったく。これじゃいつもとは逆だ。割れ物を扱うかのように、リルが俺のボサボサ頭を撫でてくる。まぁ事実割れ物なのだが。……優しい手つきだ。なぁにをやってんだ俺は。
「スマン、リル。お前の両親をまもりきれなかった。だけど、絶対に、絶対にリルは、リルのことは何があっても守るからな。」
「あはは、おいちゃん変なの。そんなので泣いてたの?リルのパパとママは残念だったけど、でもリルを助けてくれたじゃん。それにね、当然だよ。だっておいちゃんは英雄さんなんだもん。リルが危なくなったら直ぐに駆けつけてくれるんでしょ?」
幼い少女にしてはニヒルな笑い。当然だ。何があってもリルは守る。だから、この少女の前では暫く英雄のままでいたい。いや、この少女前では、俺が英雄でいられるんだ。
ありがとう。
「ねぇ、おいちゃん?あそこにあるのがフォアギュゥルラァじゃない?食べていい?」
「まだダメだぞ。持ち帰ってシスターと一緒に食べなきゃな。」
「うん、分かった!」
帰ろう町に。
この話はダメなおっさんの成長物語です。
……上手く伏線が貼れないOrz
ギリギリ気づかれるくらいってのが凄く難しいです。
誰かいい小説しりませんか?