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10.末永く、これからも。



 年が変わる最後の日を迎えたのは、ウィリアローナが辺境から戻って、諸々の出来事がようやく片付いた頃だった。


「陛下!」

「……」

 返事のないエヴァンシークに、あぁあ、とウィリアローナは眉を寄せる。

「エヴァンシ、エヴァン様!」

 言い直しかけても婚約者の眉根がよったので、さらに言い直して、ウィリアローナはエヴァンシークへと詰め寄った。

「年変わりの日です!」

 執務室にまでやってきた愛しい花嫁の姿に、エヴァンシークは書類仕事の手を止めた。宰相の使いでその場にいた侍従も、きょとんと瞬いている。

 その反応に、ウィリアローナも戸惑ったように一歩下がった。あれ、と困惑を浮かべる。

「わ、わたしなにもきいてなくて、わたしは今日何をすれば、祭事、は」

 侍従とエヴァンシークは、無言で顔を見合わせた。

「すまないが、今手がはなせない」

 その説明は、あとにさせてもらえないだろうか、と、エヴァンシークの言葉は、素っ気なかった。


「ヴェニエールに、年越しを祝うならわしは特にない」

 その日の夜、エヴァンシークはウィリアローナの部屋を訪れた。長椅子に座り、つんとそっぽを向くウィリアローナの隣で、エヴァンシークが苦笑しながらその素っ気ない横顔を見ている。

「……確か、ニルヴァニアでは神殿で巫女が舞うのだったか」

「剣の巫女が、その年の厄を祓うのです。そうして、清められた身をもって、新年を迎えます」

 そうか、とその黒髪に手を伸ばす。

「ヴェニエールでは、大切な存在と過ごす日となっている。例えば、家族だとか……」

 いつもならのせるだけのその手で、細い黒髪を梳いた。

「ぴっ」

 予想通りに過剰な反応を示す花嫁にくつくつと笑って、背中から抱きしめた。

「例えば、恋人とだとか」

「こっ」

 疑問符をたっぷりつけた悲鳴に、「ほぅ、違うのか」と声を低く聞いてみる。え、いや、だって、と慌てるウィリアローナの言葉を待った。

「こ、こんやくしゃ、では」

 何が違うのだ、と逆に問いかければ、途方に暮れたような顔で俯いて、黙り込んでしまった。

「ウィリア」

「……はぃ」

 消え入りそうな返事に、いじめすぎただろうかとエヴァンシークは抱きしめる腕に力を込めた。

「そうして、願うのだ。その関係が続くように。友であれば、友であり続けられるよう。家族であれば、ばらばらになることがないように」

 そう考えると、婚約者、というのは当てはまらない気がしないだろうか。

「解消せぬよう祈ることはあるかもしれないが」

 大した問題ではないが、付け足しておく。

「俺は、ウィリアに恋し、愛し続けられるといい、と思う」

 恋が愛になるのではなく、恋と愛を両方持てたら、それは何よりも勝るものといえないだろうか。愛を持ちながら、恋いこがれることができたなら。焦ることも、あるだろう。それでも、愛をもってすれば、それはきっと、幸福に変わる気がする。

「……そんな単純なものでしょうか」

 戸惑うウィリアローナに、おかしいだろうか、と少しばかり不安になる。困った顔でウィリアローナは振り返った。エヴァンシークの腕の中で、向かい合う形になる。

 そうですね、と、ウィリアローナはエヴァンシークの胸にもたれた。

「それはとても、幸福であると、思います」

 愛しながら、恋を知って。恋をしながら、愛を知る?

「陛下は、ときどきゆめみがちですよね」

 う、と怯む婚約者に、ウィリアローナは、ふふと笑った。まったく、とエヴァンシークがため息を吐く。

「拗ねていたのではなかったのか」

「知識としては知っていたはずなのに、早とちりした自分が悔しかっただけですよ」

「ウィリア」

「はい」

 真剣なエヴァンシークの声に、ウィリアローナは答える。近すぎてお互いの顔を見ることはなかったが、互いの体温に触れ合って、ほう、と吐息が漏れた。


「側にいてくれ」


「はい」


(書き下ろし。)


 あけましておめでとうございます。


 新年最初は、のんびりほのぼのな二人と、王国帝国の年越しの仕方の違いについて、でした。


 切りよく小話は10までのせよう、と思っていたら、タイムリーなので年末ものを。

 といってもほんとに、お互い開き直ったらこの二人ほのぼのらぶるしかないので、母さんちょっとどうして良いかわからない。


 外伝連載はいつになるか分かりませんが。

 今年もよろしくお願いします。


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