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7.陽だまり


 うん。と囁く自分の声に、目を覚ます。少し考えて、あれ、わたし、たしか陛下とお茶の時間を過ごす為、あの方の訪れをまっていたはずなのに……、と身じろぎした途端、わたし自身が寄りかかっているあたたかいものの存在に、ふと、視線を向ける。

「へっ」

 まさに、頭に思い浮かべていた、陛下その人がそこにいた。

「え、え、エヴァン、シーク様」

 掠れ声で呼びかけたけれど、返事はない。うわあん、なんですか、無反応? わたし、約束すっぽかして居眠りしてたってことですか起こしてくださいよー!

 と、異変に気づく。無反応のエヴァンシーク様を、そーっと見つめて、

「……寝ていらっしゃる?」

 腕を組んで、わずかに俯いた状態で、寝ていらっしゃった。そーっと手を伸ばしてみる。さらりと金の髪がかかるその頬に、そっと触れた。

(わたしの手では、冷たいかもしれませんね)

 そう思っているのに、やめようとは思わない。だって、こんなエヴァンシーク様を見ることなど滅多にないのだ。


 大切にする、と言ってくださった。


 いいえ、と微笑む。わたしが、エヴァンシーク様を大切にしたい。

 柔らかな菫色の瞳が、孤独に揺れることが無いように。


 かたり、と扉の方から音がした。ミーリエルが膝掛けを片手に入室してきたところで、あら、とわたしに視線を投げ掛け口を開く。それを、しー、と指を立てて制した。にっこりすると、そうですか、とミーリエルも笑ってくれて、黙って陛下とわたしに膝掛けをかけてくれる。

「日差しがだいぶ入ってくるようになりましたけど、まだまだ冷えますから、用心してください」

 うん、とうなずいた。そして、でも、と続ける。

「あたたかいの」

 傍らのエヴァンシーク様を見上げて、わたしのものとは比べ物にならぬ程しっかりとした腕によりそう。

「幸せ、なのよ」

 ふんわりとミーリエルは微笑んだ。そして、突然下がります、と言われる。なぜ、ときょとんとしていると、何かを含むように微笑まれた。

「狸寝入りに、お気をつけ下さいませ」

 それだけ言って、一礼し、退室していく侍女の姿を、わたしは黙って見送って。

「……」


 たぬきねいり。


 心の中で復唱して、首を傾げた次の瞬間。

 寝ていたはずの誰かさんに抱き込まれ何がどうなったのか膝の上に座らされてなにやら首なのか頬なのか耳なのか肩なのかとりあえず素肌に柔らかいものがちょっとエヴァンシーク様なにしてなにしてなななにうわちょっと何してるんですかぁ!


5.6.7、ともに2012年12月24日執筆

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