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2.剣舞


 ヒュッ、と剣が舞う。ミーリエルは、目を輝かせて、ひらめく剣の輝きを見ていた。

 場所は鍛錬場の隅。侍女の服ではなく、軽やかな私服に身を包んでいるミーリエルは、その剣が鞘に納まったと同時に、手を叩いて賛辞した。




 突然聞こえてきた拍手に、ヘイリオはきょとんと辺りを見回した。

 少し離れたところで拍手をしているミーリエルの姿に、破顔する。

 歩み寄りながら声を張って、問いかけた。

「見ていたんですか」

「見ていましたー!」

 元気よく、ミーリエルが答える。

「いつからです」

「えーとですね、こう」

 続けて向けられた問いに、ミーリエルはきり、と左手を左の腰に当て、右手もそちらに添え、直立する。

「ここからです」

「剣を抜くときって最初じゃないですか」

「そうですねー」

 にこにことするミーリエルに、ヘイリオも驚き顔からつられて笑う。ふと、ミーリエルが曖昧な表情でじっとヘイリオを見ていた。

「なんです?」

「え? うーんと、……一人で、鍛錬してるん、ですね」

 あぁ、とヘイリオは微笑んだ。

「別に、いじわるではないですよ。僕はこの国の剣の型を覚える気はありませんから、全体練習に加わる必要がないだけです」

 そうなんですか? といった表情を浮かべるミーリエルに、ヘイリオはうなずく。

「神聖王国では、神事にも剣舞を奉納するんです。型の順番が、そのまま剣舞となります」

 あぁ道理で! とミーリエルが明るく手を叩く。

「とっても綺麗でした! 本当に!」

「ありがとうございます。でも、騎士の剣舞よりも、神殿にいる剣の巫女の舞の方が、何倍も美しいですよ。所詮、僕らの剣舞は剣の型を順番に披露するに過ぎないので」

 そうなんですか、いいなぁ、見てみたいです、とミーリエルが笑っていると、遠くから呼び声が聞こえた。

「ナギク!」

 ヘイリオは振り返り、手を振って応える。数人の騎士がやってきて、ミーリエルの姿にぎょっとした。

「ナギク、こ、この方は」

「ミーリエルさん。ウィリアローナ姫様の侍女ですよ」

 知ってるわ! と一斉に怒鳴られ、ミーリエルとヘイリオはきょとんとする。あれ、そう言えば、とここでヘイリオはミーリエルへと向き直った。

「そいえば、ミーリエルさん、今日はどうしてここに?」

「今日はお休みをいただきましたので、兄に差し入れに」

「兄、ですか?」

 初耳だったため、ヘイリオは瞬く。

「はい。つい先日まで地方にいたのですが、そこで功を認められ、こちらに」

「ナギク、戻るぞ!」

 にこやかなミーリエルの返答に、さぞ兄も穏やかな物腰の人なのだろうなとヘイリオが思っていると、同僚に首根っこを掴まれた。なんです? とヘイリオが振り返っても、同僚はいいから、早く! としか言わない。

「殺されたいのか」

 小さな声でささやかれても、ますます訳が分からない。

「何言ってるんですか、もう」

 みんなで集まって試合でもするんですか? とミーリエルはそんな様子にクスリと笑って、あぁ、そうだ、と空を見上げる。

「兄を訪ねたら、手が空かないからその辺で時間をつぶしていろと言われたのでした。私もそろそろ戻りますね。皆さん、怪我に置きをつけて」

 はい! という同僚たちの返事は、どこか元気がいい。

「ミーリエルさんも、お体に気をつけて! 皇妃様によろしく!」

 あってめっうっせぇ、と小競り合いを見ながら、ミーリエルは、はーいと笑う。そんな彼女の後ろ姿を見送り、それで? と首根っこを掴まれたままのヘイリオは同僚を見上げた。


「新しい軍医が来ただろう」


 その一言に、はぁ、と間の抜けた返事をする。

「手を出すなんてもってのほか、ミーリエルちゃん泣かしたら薬盛られるって言うのが、もっぱらの俺たち共通の認識なんだよ」


 ヘイリオはなるほど、と苦笑した。



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