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1.香り袋


 ふわりと鼻梁をくすぐる芳香に、オルウィスはおや、と顔を上げた。

 視線の先には、書類を前に執務に明け暮れている我らが敬愛すべき皇帝陛下。金の髪に、高貴な紫の瞳。ともすれば、冷たく見られがちなその表情、眼差しは、ただ一心にための民のことを思っている。

 そんな方が皇帝陛下でいるからこそ、オルウィスはこのお方の側で働けることを誇りに思う。

 陛下は、この春ご婚約された。冬に閉ざされたこの国に春を呼ぶといわれていた、ニルヴァニア王国王女、の、一の侍女と。どういうわけだか彼女によって、この国の春は取り戻された。

 最初のうちは、仲を取り持とうと思いながら陛下に無茶を言わないか警戒していたが、その心根に触れるうちに、どうも姫様もお優しすぎるのではないかと思う。


 お二人はお優しく、そして、自身をないがしろにしすぎている。


「……ウィリアローナ姫様からですか?」

 香りの正体を、ずばり陛下に問うてみる。婚約したというのにずいぶん放置されているにもかかわらず、姫様は陛下に贈り物をしたのだろうか。本来ここは男側がするものだ。何をしているんだこのお方。

「……なんだ」

 オルウィスの非難がましい視線に、わけがわからんと陛下が眉を寄せる。

「いえ、珍しいものを身につけていらっしゃると思いまして」

 む、と口を引き結ぶ陛下に、何を狼狽えていらっしゃるのだか、と笑う。香り袋くらい、今時誰でも持っていて不思議ではない。

「お返しは、なにか差し上げたんですか?」

「いや」

「はぁ?」

「何が良い、と聞いたら、いらぬ、と」

 主の答えに、オルウィスはなんと答えていいものか黙り込む。それにしたって、何かするべきだろう。忙しいのはわかる。たしかに、オルウィスだってこの殺人的な忙しさの中、皇帝陛下が姫君に夢中で政務を放り出していたりなどすれば怒り狂っていたに違いない。

 にしても、だ。

「……花の刺繍に、花の香りだ。いつか、本物を共に見に行ければ、と」

 おや、と思う。不器用なお方だ。それでも、それなりに考えていらっしゃるわけか。

 オルウィスはそうでうすね、と笑う。

「良い案だと、思います。」

 そうか、と陛下は短く答えた。


「……この仕事の量が、減ったらの話だがな」


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