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かくれんぼ


妖精の羽音が、見えない刃のように空気を切り裂いた。


「さて、参加者の皆さん……」


声は明るかった。しかし、その口調にはどこかひどく病的なものがあった。


「十分後、シナリオが始まります」


気まずい沈黙が一同を包んだ。


誰も話さない。


誰もまともに呼吸できていない。


「それでは……このゲームを支配するルールを説明しましょう」


一拍。


あまりにも長い間。


「第一のルール……」


ようやく妖精が口を開いた。


「参加者全員は、自分が……ふさわしいと思う場所に隠れてください」


眉をひそめる者もいた。


落ち着かない様子で、周囲を見回し始める者もいた。


「制限時間は五分です」


妖精は微笑んだ。


「その後……ゲームが始まります」


何か面白いことを思い出したかのように、妖精はわずかに首を傾げた。


「ああ、そうそう……ちょっとしたことを言い忘れていました」


その笑みがさらに大きくなる。


「隠れ場所を見つけられなかった者は……最初に死ぬことになります」


……


沈黙は一秒も続かなかった。


「早く動け!」


「どけ!」


抑え込まれていた騒ぎが、爆発するように広がった。


ぶつかり合う身体。


乱れた足音。


後ろも振り返らず、人々が押し合う。


目的もなく走り出す者もいた。


一方で、すでに理解した者たちは……最も惨めな隅へと飛び込んでいった。


良い隠れ場所を見つけることが目的なのではない。


最初に死ぬ人間にならないこと。


それだけだった。


――


混乱の渦中で、レンはすぐには動かなかった。


観察する。


彼はいつだって、まず観察する。


「さて……」


そう呟きながら、恐怖に歪んだ顔を一つずつ見ていき……やがて、その視線が止まった。


一人の少年。


ぼろぼろになった学生服。


痩せた身体。


青白い顔。


目立たない存在。


制服の脇には、かろうじて読めるほどに擦り切れた名札があった。


タクマ・アルノ。


レンは目を細めた。


気になったのは、その外見ではない。


その落ち着きだった。


誰もが走り回っている中……


彼は動かなかった。


まるで、他の者たちがまだ理解していない何かを、すでに悟っているかのように。


「面白い……」


だが、彼だけではなかった。


三十メートルほど先で、もう一人の参加者がレンの注意を引いた。


タクマとは対照的に、その人物はまったく異なる雰囲気をまとっていた。


引き締まった身体。


自信に満ちた姿勢。


人目を引くことに慣れている人間。


その人物も学生服を着ていた。


レンはわずかに視線をそらした。


「目を離さないでおこう……」


再び目を向けたときには、二人ともすでに人混みの中へ消えていた。


――


レンは古びたジャケットに手を入れた。


小さな黒い箱を取り出す。


その暗い色は、灰色に染まった混沌の中でひときわ目立っていた。


彼はしばらく箱を見つめた。


「今、開けたら……」


レンは呟いた。


「俺の運じゃ、事態が悪化するだけだろうな」


箱をしまう。


「ま、いいか……隠れよう」


――


レンは落ち着いた足取りで、混乱の中心から離れていった。


他の者たちとは違い、走らない。


考えていた。


目の前に公園が現れた。


彼は慌てることなく、その周囲を回った……そして、あるものが目に留まった。


カフェ。


レンの顔に、かすかな笑みが浮かんだ。


「コーヒーを飲む時間くらいはありそうだな」


錆びついた扉を押し開ける。


ギィィ……


きしむ音が、店内の静寂に響き渡った。


「間違いなく……長いこと誰も来ていないな」


それ以上気に留めることなく、カウンターへ向かった。


コーヒーメーカーの電源を入れる。


水が温まる音が、静けさを破った。


コーヒー豆を取り出す。


ゆっくりと豆を挽く。


まるで、外の世界など存在しないかのように。


彼は椅子に座った。


そして、待った。


――


青い画面が、空の欠片のように目の前に浮かび上がった。


【全参加者への警告】


【シナリオ『かくれんぼ』が間もなく開始されます】


【残り時間:9:57】


レンはちらりと見ただけだった。


立ち上がる。


コーヒーをカップに注ぐ。


香りが部屋いっぱいに広がった。


タイマーは刻々と数字を減らしていく。


【9:58】


湯が静かに泡立つ。


【9:59】


レンはカップを唇に運んだ。


一口飲む。


【10:00】


再び画面が現れた。


先ほどよりも明るく。


そして、より威圧的に。


【親愛なる参加者の皆さん……】


【シナリオ『かくれんぼ』を開始します】


【これより、重要な情報を提示します】


レンはかすかに微笑んだ。


そして、もう一口飲んだ。


――


誰もがゲームから逃げようとしている中……


彼は、ようやくゲームを始めたところだった。

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