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エコー・イミューン ―終末世界の守護者―  作者: 泉水遊馬
浦波ビレッジ

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第24話 帰還と静かな声

夜の浦波ビレッジは静かだった。

波間の湯の灯りが柔らかく桟橋を照らし、遠くで波の音が規則正しく響いている。

マイケル・ハリスは村から少し離れた、岩場に面した小さなベンチに腰を下ろしていた。

白峰医師から渡された薄手のジャケットを羽織り、3年ぶりの夜風に目を細めている。

そこへ、足音をほとんど立てずに泉透が近づいてきた。


泉透:

「……少し、寒くないか?」

マイケル:

「No…… It’s good. The air feels…… alive.」

(いいえ……気持ちいいです。空気が、生きている感じがします。)


二人はしばらく無言で並んで座った。

泉透はいつものように背筋を伸ばし、マイケルは瘦せた肩を少し丸めていた。

沈黙が、二人にとって不自然ではなかった。


マイケル:

「You…… also have it, right? The Wave.」

(あなたも……持っていますよね? あの波を。)


泉透は静かに頷いた。


泉透:

「Yes. I see ripples. Like waves constantly spreading across my vision.

And sometimes…… I hear things that aren’t there.」

(ええ。私は波紋が見えます。視界の端で、常に波が広がっているように。

そして時折……そこにない音が聞こえます。)


マイケルは遠い目をして、ゆっくりと言った。


マイケル:

「Underground, it never stopped.

A low humming…… like the Earth was singing a sad song.

For three years, that was the only voice I had.

I thought I would go crazy. But…… I kept listening. Because stopping meant dying.」

(地下では、ずっと止まりませんでした。

低い響き……地球が悲しい歌を歌っているような。

三年間、それが僕の唯一の声でした。

狂ってしまうかと思いました。でも……聞き続けました。

聞くのを止めたら、死ぬような気がしたから。)


泉透の指が、わずかに膝の上で動いた。

彼は妻と娘の顔を思い浮かべていた。

あの日、任務から帰れなかった自分。

隠し続けていた本当の仕事。

最後に交わした「早く帰れる?」という遥香の笑顔。


泉透:

「I lost my wife and daughter to the Wave.

I wasn’t there when it happened.

……I’ve been carrying that silence for three years too.」

(私は妻と娘を波に奪われました。

あの時、私はそばにいませんでした。

……私も三年間、その静寂を抱えて生きてきました。)


マイケルは初めて、泉透の横顔をまっすぐ見た。

疲れ果てた瞳に、静かな共感が浮かんだ。


マイケル:

「Your voice…… is the first calm thing I’ve heard since that day.

It reminds me that the world didn’t end.

……Thank you, Izumi. For finding me.」

(あなたの声は……あの時以来、初めて聞いた落ち着いた声です。

世界は終わっていないのだと、思い出させてくれます。

……ありがとう、泉さん。僕を見つけてくれて。)


泉透はゆっくりと息を吐いた。

胸の奥にあった固い塊が、ほんのわずかだけ、溶けたような気がした。

完全には癒えない痛み。

けれど、初めて「分かち合える」誰かを得た安堵。


泉透:

「You survived hell, Michael.

From now on, you won’t be alone.

This village…… we are trying to move forward.

I hope you’ll help us.」

(あなたは地獄を生き延びたのです、マイケル。

これからは、もう一人ではありません。

この村は……前へ進もうとしています。

どうか、力を貸してください。)


マイケルは小さく頷き、かすかに微笑んだ。

それは3年ぶりに浮かべる、本物の人間らしい笑みだった。二人は再び無言になった。

しかしその沈黙は、地下の暗闇のそれとは違っていた。

温かく、未来を少しだけ照らす、静かな波の音を含んだ沈黙だった。遠くで、波間の湯の湯気が夜空に昇っていく。

浦波ビレッジに、新たな一員を迎え入れた夜だった。

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