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エコー・イミューン ―終末世界の守護者―  作者: 泉水遊馬
浦波ビレッジ

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第16話 巡洋艦の誘惑

波間の湯から数日が経ったある朝。

泉透は朝食を済ませ、外の様子を見ていた。

そこへ鈴木猛が息を少し弾ませて現れた。


「泉さん、急ですが今日、フィールドワーク付き合ってもらえませんか?」


泉は軽く眉を上げた。


「予定にはなかったはずだが……何かあったか?」


「ああ。どうしても外せない気がして。25キロ先の、あの米軍基地です。」


泉はすぐに了解した。

これまで何度も偵察には行ったが、施設内のセキュリティが未だに生きていて、敷地内までは入れるものの重要エリアには入れない場所だった。

そのため優先順位を下げ、後回しにしてきた探索ポイントだ。


「わかった。行くか。」


二人は軽装備で村を出発した。


鈴木が運転するジープを走らせ、荒れた道路を北西へ向かう。

道中、泉は静かに窓の外を眺めていた。

約1時間後、二人は米軍基地の外周に到着した。

錆びついたフェンスを越え、敷地内に入る。ところどころに残る当時の混乱の跡が痛々しい。

基地内は静まり返り、風だけが吹き抜けていた。

鈴木は泉を連れてドックエリアへと足を進めた。

そして、ある一点を指差した。


「泉さん……あれを、拝借できないでしょうか。」


そこにあったのは、半ばドックから顔を出した形で残された巡洋艦だった。

全長100メートル強の巡洋艦。


挿絵(By みてみん)


Silent Wave発生時に係留中だったのか、大きく傾きながらもまだ浮力を保っているように見えた。

泉はしばらく無言でその巨体を見つめた。


「……本気か。」


「本気です。あれだけの船です。目的は二つ。」


鈴木は興奮を抑えながら続けた。


「一つは電力確保。あの船の発電設備が生きていれば、村の電力事情が劇的に変わります。

もう一つは零さんのシステムです。

船に搭載されていた衛星通信アンテナや高性能レーダーを使えれば、ECHO-NETの衛星アクセスが大幅に強化できるはずです。」


泉は腕を組んで考え込んだ。

操舵は綾野司なら可能だろう。

修理や整備は、元浦波造船所の技術者たちが村に何人もいる。

リスクは大きいが、リターンはそれ以上に大きい。


「……リスクは高いぞ。」


「わかっています。でも、この機会を逃したら二度とないかもしれません。」


泉は小さく息を吐き、穏やかに頷いた。


「よし。今日のところは外観と状態確認を優先する。

詳細は村に帰ってから皆で話し合う。

……ただ、可能性はあるな。」


二人は巡洋艦に近づき、可能な限り外側から状態を確認した。

船体は錆が目立つものの、致命的な損傷は少ないように見えた。

ドックから海へ出す作業は難航しそうだったが、不可能ではなさそうだった。


帰路のジープで、泉は静かに言った。


「鈴木、いい目をしている。お前は昔から、でかい獲物を見つけると顔が変わるな。」


鈴木は照れくさそうに笑った。


「泉さんがいるから、つい欲が出るんですよ。

村をもう一回り強くしたい……そう思ったら、止まらなくて。」


泉は窓の外に目をやりながら、小さく微笑んだ。


(巡洋艦か……

 村にとって、ゲームチェンジャーになるかもしれないな。)


夕方、二人は浦波ビレッジに帰還した。

泉は佐伯村長、霧島零、綾野司、岩瀬源三らを呼び、巡洋艦の回収計画について話し合う準備を始めた。影の守護者は、再び村の未来を大きく動かす一歩を、静かに踏み出そうとしていた。



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