弱者の時間だ。第2章
モブという名の看守の男。
彼は俺の牢屋の右側の壁に、小さな水晶玉を取り付けた。
次の瞬間——
その水晶玉から眩い光が放たれ、俺たち二人を照らし出す。
左側の壁には、俺たちの影がはっきりと映し出されていた。
俺の影は座っている。
両手は後ろの壁に繋がれた手枷によって拘束されていた。
そして、モブの影は俺の正面に立っている。
◇
俺はコンクリートの台の上に腰を下ろし、背中を壁にもたれさせていた。
やがて——
彼はゆっくりと身を屈める。
その顔が、俺の顔へと近づいてきた。
「質問に答える前によぉ〜、恐怖とは何なのか、俺の手で……お前に教えてやろう〜」
凄んではいるが、どこか滑稽な顔だった。
それを聞き、俺の両脚は激しく震えだした。
……体を左右に必死に揺らし、激しく抵抗してみせる。
「む! 無理ですぅぅ〜! ……怖いんですぅぅ〜! ……」
モブは拳を固く握りしめた。そして——
「そうこなくちゃ……よ!」
——壁のシルエットの中で、彼が俺を何度も何度も殴りつける影が映し出された。
彼が拳を振るうたび、壁の影の奥から、俺の情けない声だけが響く。
「あぅ! あぅ! あぅ!」
モブが拳を止めた。両目をギラつかせ、口元を大きく歪めて笑っている。
その息は、わずかに上がっていた。
「へへっ! 恐怖ってやつ、もうわかっただろ?」
俺はなおも体を悶えさせ、脚をガタガタと震わせる。
「痛いですぅ〜、痛いよぉ〜!」
壁のシルエットの中、モブが俺の襟首を掴み上げるのが見えた。
「…痛いの嫌だろ!? だったら答えろよ! なんでリリを誘拐した!?」
モブの怒号が響く。
「違いますぅぅ!! 私、違いますよぉぉ~!」
シルエットの体が必死に暴れる。
「お前っ! 彼女に何をした!」
「…痛いですぅ〜、痛いのだけは……お願いしますぅぅ!!」
期待通りの答えが得られず、モブの顔は怒りで引きつっていた。
「だから……!! 答えろよ! 俺様はBランクだぞ!」
壁のシルエットで、彼は再び俺を殴り始めた。
「リリに何をした!」
「痛い!……骨が!……折れる!……砕けるぅぅぅ!」
……やがて、モブが殴るのをやめた。
彼の目の前で、俺は力なく首を垂れ、気絶したようにぐったりとしていた。
モブは肩を激しく上下させ、疲弊しきった息を吐き出している。
ふと、モブは震える自分の両手の平に目を落とした。
拳の跡は、真っ赤な血に染まっていた。
『これ全部、俺の血だよな……』
そしてモブは、気絶している俺の姿を見やった。
傷一つない。ただ、彼自身の血だけが、俺の服や顔にべっとりと付着している。
『こいつ、Eランクのはずだ。なんで無傷なんだよ?!
マナオーラを隠してんのか?!』
モブは牢屋の扉に鍵をかけ、外へと歩き出した。
「きっと間違いだ。俺様だぞ……!」
水晶の球体はまだ光を放ち、気絶したようにうつむく俺の顔を照らし続けていた。
……静寂が戻る。
「俺は強すぎる……死ぬほど退屈なくらいに……だが……」
壁の穴に固定されていた両手の鎖が、ゆっくりと自動的に伸びていった。
自由になった俺の両手の平が、膝の上へと落ちた。
長い鎖が、俺の座っているコンクリートの梁に落ちてぶつかり、音を響かせた。
「お前の存在こそが、俺に生きている実感をくれる」
冷徹な眼差し。
俺は手の平で、頬についた彼の血を静かに拭い取った。
「感謝する」
水晶の光が唐突に消え去った。
すべてが深い闇に包まれる。
ただ、鉄格子の通気口から差し込む、微かな月光だけが、そこに残されていた。
◆◆◆
朝。
朝の光が、牢屋の鉄格子の上にある通気口から静かに差し込んでいた。
埃が、俺の牢獄の中でわずかに舞い上がっている。
俺は目を閉じ、まだコンクリートの塊の上に座っていた。
独房の外から、モブとシェアリーが話している声が聞こえてくる……
「情報は何が得られたの?」
シェアリーが尋ねる。
「申し訳ありません。
拷問したにもかかわらず、有意義な情報は得られませんでした。
ただ、バスモント公爵の報告によると、リリはあの男に何をされたかについて、頑
なに何も話そうとしないそうです」
「それだけ?」
「噂では、リリはよく自分の胸を抱き抱えるようにしているとか……
まるで誰かに触られるのを恐れているかのように。」
「なるほどね〜……分かった。」
(分かった? …何を?!)
俺の視界の外、俺の独房のすぐ近く……。
……シェアリーは背中に魔法の杖を持たずに、モブの前に立っていた。
指を唇に当て、彼女は何かを考えているようだ。
「間違いない……これは完全にセクハラ事件です!
あいつの前では、あなたみたいな美人は危険ですよ!
危険すぎます! よければ、その取り調べ……私も同行しましょうか?」
モブが言う。
「その必要はありません。私を誰だと思っているの? もう下がってもいいよ。」
「ハッ! 失礼いたします。」
俺の視界の先、鉄格子の向こうから足音が近づいてくるのが聞こえた。
(この足音…… 新たな客人はもう来たか)
シェアリーは横から歩いてきて、鉄格子の向こう側で俺の方を向いて立ち止まった。
彼女は赤色の模様が入った白いドレスを着ていた。
彼女は牢獄の鍵を開ける。
そして……
……鉄の鎖が俺の両手を引っ張り、背後の壁へと押し付けた。
また手錠が動いた。二つの鉄の輪がさらに近づき、互いに触れ合うまでに詰まり、両手のひらを交差させた状態に押し込めた。
シェアリーは俺の牢獄の中へと入り、牢の扉が閉じられた。
彼女の手の平は上を向き、胸の近くまで上げられる。
【 SOUL MARK ……TRUTH CHAIN 】
一瞬にして、先端に槍のついた1メートルほどの白い小さな鎖が現れた。
その鎖は、換気用の鉄格子の隙間から差し込む朝の光を反射して、眩しく輝いている。
「私はシェアリー」
彼女は冷徹な顔で、その鎖をきつく引き締めた。
「さあ、正直に話そうか」




