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黒剣の退屈  作者:
外の世界
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21/28

影の虚ろもの

シルヴァは洞窟の暗闇をゆっくりと歩いていた。


タッ……タッ……タッ……


「AURA ZONE」


ウオォォォッ!


マナオーラの波が強風のように吹き荒れ、洞窟の奥へと素早く染み込んでいく。


その波は俺を通り過ぎた。


「この殺気……」


俺はすぐに後ろを振り返った。


だが、体が完全に向く前に……


……鉛筆ほどの太さの針が、目と鼻の先に迫っていた。


タッ!…反射的に手が動く。指先で下から上へと針を弾いた。


シュッ……!その瞬間、何か鋭いもので手のひらを斬られた。


すべてが一瞬だった。


俺は一瞬、固まる。目を見開く。脳はまだ、何が起きたのかを理解しようとしている。


ドスッ!


弾かれた針は天井を貫き、それを粉砕した。

岩の破片が散らばる。

月光がすぐに差し込み、背後の石の床を直径約一メートルの光の円で照らし出した。


俺はすぐに肩のリリーに触れる……


「……いない」と呟いた。


俺は振り返った。


月明かりの届かない闇の中。

青い炎のシルエットを帯びた誰かが、リリーを洞窟の縁に寄りかからせている。


俺はその光の輪へと歩み寄る。


手を前に差し出す。月明かりが、先ほど傷ついた手のひらを照らし出す。


カツッ……カツッ…手のひらから血が滴り、岩の床へと落ちていく。


シルヴァは闇の中で俺を見ていた。


彼女にとっても俺は青い炎の影にすぎない。

ただ、月光に照らされた手のひらだけがはっきりと見えていた。


「一撃で首を落とすつもりだったんだが……思ったよりやるな、あんた」

シルヴァは静かに言った。


「そうか……ゴブリンの一撃かと思ったよ。俺を傷つけるだけじゃなく、獲物まで奪うとは……

お前もやるな」

俺はそう返した。


『やっぱりこいつ、リリーを攫うつもりだ』


この洞窟の闇の中では、互いの姿ははっきりと分からない。


ただ、互いの体に宿る青い炎のシルエットだけが見えていた。


どちらかが月明かりの中へ踏み出さない限り。


シルヴァは俺を一瞬だけ見た。


そして腰から針を抜き、それを上へと強く投げる。


ドン!…洞窟の天井が再び崩れた。月明かりが降り注ぎ、彼女の前の地面を照らす。


シルヴァは手を前に差し出した。


月明かりに晒されたその手のひらには、小さなガラス瓶が握られている。

中には緑色の液体が入っていた。


「ん?それは?」

俺は尋ねた。手はまだ月光の下に伸ばされたまま、傷口から血がゆっくりと滴っている。


「あと五分で、その毒は体に回り、激しい苦しみの中で死ぬことになる。死にたくなければ……」

鋭い視線を俺に向け、声は冷たく、威圧を帯びていく。

「……言え。なぜリリーを誘拐した? 誰の指示だ?」


「………………」


(んぐ……なぜ俺はあいつの目には盗賊みたいに見えてるんだ)


「リリー? そうか……まあ、あいつもゴブリンじゃなかったのか」


「とぼけるな……その手を見ろ。死ぬぞ……あんた」


シルヴァはわずかに目を細めた。


『 話が終わったら……私があんたをこの世界から消してやる』


俺は自分の手のひらを見つめる。


自分の赤い血が、傷口から出る青い液体と混ざっている。


「そうか……じゃあ一つだけ言わせてもらう」


俺はゆっくりと歩き、目の前の月明かりの中へ入っていく。


一歩ごとに、光は足元から体へとゆっくり這い上がる。


体にまとわりつく暗い影が一つまた一つと払われ、ついに全身が月明かりにくっきりと照らし出される。


今やシルヴァは、俺の全てを見ることができる。


俺は彼女の前で、手のひらの血をゆっくりと舐めた


「スネークリッパーのおかげで、毒などこの俺には通じないな」


シルヴァの顔が、月明かりの下で俺をはっきりと見た瞬間、激しく変色した。


『……ノイトラマ?』


心臓がドクンと鳴る。息が止まった。


『なぜ……あんたがここに……?』


薬瓶を握る手が、小さく震えた。


『毒は、もう体に入っている……』


視線が、俺の血に濡れた手のひらに釘付けになる。


『やっと退屈を消してくれる存在が……

それを、私自身が殺したっていうのか?』


無意識に、シルヴァは解毒薬の瓶を俺に向かって投げていた。


俺はそれを驚きながら受け取る。


「まだ遅くない!それを飲め!」彼女の声は恐怖で震えていた。

「リリーに何をしようとしていてもいい。今それを飲んで、ここから消えろ!」


「残念だ……」

迷わず、俺はその瓶を握り潰した。


ガシャン!

緑色の液体が目の前で飛び散り、鋭いガラスの破片が宙を舞う。


シルヴァの目が見開かれる。

無意識に、涙が頬を伝って流れ落ちる。

ずっと待ち望んでいたその喜びは——今まさに、自分の毒によって消え去ろうとしている。

手に入れる前に失うとは……その思いが、彼女の頭の中で、とめどなく渦巻いていた。


「だから……通じないって言ったはずだ」


シルヴァは何も言わなかった。


ゆっくりと背中から剣を抜いた。


シャリーン〜……鋭い剣の音が静寂を切り裂き、洞窟の空気に冷たく響いた。


「そういう問題じゃない。この刀はSランク武器だ。五分後には毒が回る。あんたが毒耐性を持っていようが関係ない……」


剣が完全に鞘から抜け放たれた後、シルヴァはゆっくりと歩みを進め、目の前の月明かりの中へと入っていった。


光が彼女の足元から這い上がり、体をゆっくりと舐め上げ、ついにその全身が月の下で露わになる。


「……まだ分からないの?あんたはわたしより弱いってこと」


今、シルヴァは完全に俺の前に姿を現した。


俺は少し驚いた。


(この女…あの時の…)


彼女の目は虚ろ。光がない。中にある魂が死んだみたいに。


シルヴァはゆっくりと剣を持ち上げ、それを俺の顔にまっすぐ向けた。


「……私はただ、退屈を紛らわせるおもちゃを一つ失っただけ……意外と、痛いものね。

お礼に……あんたを一瞬で殺してやる。私の毒があんたを苦しめる前に。」


俺は彼女の言葉を無視した……


彼女の両目にうっすら浮かんだ涙が見えた。


俺は微かに笑った。


「近くで見ると、お前…盗賊に似ているな。」


「…………」


……彼女も俺の言葉を無視した。


(気が進まないように見えても、それでも俺に剣を向けてくるとは……その覚悟、応えなければ……)


ゆっくりと、俺の視線も虚ろになっていく。


【技を……】


彼女は冷たく俺を見つめた。


【速さを……】


俺は手を半分だけ上げ、人差し指を彼女に向けた。


彼女は剣を強く握り直す。


【見せろ】

【見せろ】

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