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黒剣の退屈  作者: Leopardz
隠す影
18/18

それはゴブリンか、人間か

シルヴァは大きな岩の上に座っていたが、次の瞬間、姿を消した。


かすかな風だけが、その場に残る。


タッ。


気づいたら、リリーの隣に歩いて行っていた


リリーはわずかに驚いたが、後ずさりはしない。


目隠しの布を外す。まるで同じものを感じ取ったかのように。


「さっきの気配……あれは何でしょうか?」とリリーが尋ねた。


シルヴァは、先ほど入ってきた崖の脇の洞窟の闇へと視線を向けた。


その目は冷たく、鋭く、怒りを押し殺している。


そして、そのまま洞窟へと歩き出した。


「怪我したDランクの魔物がこっちに向かってくる。あたしがやる。あんたはそのまま訓練を続けて」


リリーは急に緊張した顔になった。


勇気を出して話し始め、一歩前に出た。


肩がちょっと震えてるけど、目は逆にやる気に満ちてる。


「私にやらせてください。試してみたいんです……自分の訓練の成果を」


シルヴァが立ち止まった…そして、チラッと彼女を見た。


何の表情もなく、だが、明らかに値踏みしている。


「1分。」


「はい?」


シルヴァは完全に彼女の方を向いた。


「一分やる。それで終わらなかったら……あたしがやる」淡々と言い放った。


リリーは自信ありげに薄く笑った。


「十分です」


シュッ――!


その体はためらいもなく、暗い洞窟の中へと一気に飛び込んだ。


シルヴァはその場に立ったまま、闇に沈む洞窟の奥を見つめている。


心の中で、彼女は数を数え始めた。


一……二……



タッ…タッ…タッ…


足音が洞窟の中に静かに響く。


俺は長い間、闇の中を進み続けた。


何も見えない、すべてが濃い闇に溶けている。


【MANA VISION】


このスキルのおかげで、闇の中の存在はすべて青い炎のように見える。暗闇の中で、それぞれの存在を包むマナのエネルギーだ。


天井にぶら下がるコウモリも、その輪郭を形作る青い炎にしか見えない。


地を這う蛇もまた、青い炎の流れに過ぎない。本来の姿をなぞるように、しなやかに動いている。


ゴオオオォ……


洞窟の通路を吹き抜ける夜の風の音が、やけに大きく耳に響く。


俺の足が、不意に止まった。違和感に気づいたからだ。


ヒューッ…ヒューッ…


「…………」


「風の流れが変わった……


……来る。」


青い炎のシルエットが姿を現し、左右に素早く蛇行しながら、こちらの隙を探るように高速で迫ってくる。


その手には、洞窟の闇の中で鈍く光る剣が握られていた。


それを見た瞬間、俺の顔がぱっと明るくなる。


(女のゴブリン……!)


無音、無警告。


斬撃が一瞬で俺の首の前に迫り、刃先が横を向き、切り裂く。


目の前の空気が裂けた。


時間がゆっくりと流れる。


それでも、俺の手は前へと伸びていた。掌を開き、その一撃を受け入れるように。


(攻撃の味は……どう?)


シュリンッ……


切り抜けた瞬間、そいつはすでに俺の背後にいた。距離を取りつつ、斬撃の終わりの体勢のまま。


俺は切られた手のひらを見つめる。


傷はない、痛みもない。ただ、浅い線が残っているだけだ。


俺は振り返り、そいつを見た。


暗闇の中では、頭上の数字は見えない。


分かるのは、青い炎のようなオーラに包まれた輪郭だけだ。


俺は手を前に伸ばし、掌をそいつに向けた。


まるで、その攻撃など問題にもならないと言わんばかりに。


(本によれば、ゴブリンはただの弱い魔物にすぎない。

……俺の全能力の中で、斬撃耐性が一番低いはずなのに。)


(ヴェドラの森では、俺は“リーパー・バニー”相手にしか訓練していない。唯一の鎌を使うモンスターで、平均戦闘力は26,000〜33,000。残りの斬撃は、体内のマナオーラが受け流していたんだ)


リリーは俺を振り返った。


彼女の目には、洞窟の闇の中に立つ青い炎のような人間の姿に映っていた。手を彼女の方へ差し伸べている。


『人間……?いや、違う。シルヴァさんはこいつがDランクの魔物だと言っていた。


こいつのマナオーラは、私より明らかに弱いはず。』


リリーは剣を強く握り直す。


『人間に化けた魔物……私の攻撃が効いていない……』


彼女の頬に汗がにじむ。


『こいつ……マナオーラを隠している』


俺たちは互いに、目の前の相手を魔物だと思い込んでいた。


リリーは強く構えを取った。


彼女の剣がゆっくりと腰の鞘へと戻されていく。


スクリン……


金属が擦れる音が、静寂を裂き、洞窟の壁に薄く反響した。


【 ABYSS 】


「カチン!」剣が完全に鞘へと収まる。


一瞬で、彼女の姿は視界から消え、地面には薄い砂埃だけが残った


俺は首を動かさず、視線だけを右へ向ける。


……そして、その方向へ体を向けた。


(一歩で十分)


薄い影が目の前に形を成す。


リリーが俺の真正面に現れる。


青い炎に包まれたまま、互いに視線が交わった。


『 SLASH一一』


彼女の目が大きく見開かれる。気づいた時にはもう遅かった。


リズムが崩れ去る。


一瞬で、その動きが止まる。


振り抜きかけたまま、彼女の体は宙で固まり、剣は背中側で止まっている。


「遅いな……」と、俺は気だるそうに呟いた。


パンッ!


右手が鋭く走り、そのまま彼女の首を掴んだ。


リリーの体が激しくのけぞり、宙に浮く。


足が空中で振られ、体と同じ高さまで上がる。


「グハッ!」


剣が手から離れる。


刃が岩壁にぶつかり、鋭い金属音を響かせる。


瞬間、両手が俺の手にぎゅっとしがみつく。


『人間の声……?ま、待って…』


リリーの声は出てこない。俺の手が彼女の喉を掴んでいるから。


自分で作り出した勢いを利用して、俺はそいつの体を地面に叩きつけた。


ドン!


体が激しく地面に打ちつけられ、土煙が一瞬だけそいつの姿を覆う。


気絶した。


『四十一か……』


俺はまだしゃがんだまま、地面に倒れた青い炎のシルエットを見下ろしていた。


「ゴブリンのマナクリスタルは胸にあるはずだ」


首を掴んでいた力が緩む。


俺の指がゆっくりと、彼女の首から下へと這っていく。


「……柔らかい……これは何だ?」


俺は何度かそっと手のひらで叩き、確かめた。


「この感覚……ローズが抱きしめてきた時と同じ……


……雌のゴブリン……?」


指で耳の先をなぞるように、慎重に触れる。


「尖ってない?」


今度は髪に触れ、軽くすり下ろす。


「長い……ゴブリンはほとんど無毛のはずだ」


苦く唾を飲み込んだ。


そして今度は、顔を探るように手が震えながら動く。


「口が……ない……?」

「いや、これはマスクか」


指が縁に引っかかり、そのままマスクのゴムを引っ張った。


パチン!


跳ね返ったゴムが勢いよく戻り、彼女の頬を打った。


「に、人間……」


俺は洞窟の入口の先を見つめた。


そこには月明かりが差し込んでいる。


倒したこの存在がゴブリンなのかどうか、そこへ連れて行って確かめようと思った。


『五十五…… 』


俺はリリーの体を肩に担ぎ上げる。


腹が肩に押しつけられ、腕は背中側にだらりと垂れ下がる。


俺は洞窟の奥へ歩き出した。


一歩進むたびに足音が静かに響き、肩の上の体がわずかに揺れる。


『六十…… 』




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