7話 父の紹介 後編
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僕がかなに悪影響を与えてショックを受けていても、かなは元気いっぱい。今日も太陽のように笑いながら、広い部屋をよちよちと歩き回ったり、小走りして転んだりしていた。
かなは積み木で遊んでいるゆりの元へとたどり着く。
「おーういう!おーういう!」
「おーういう?」
「あい!」
なぜか今のやり取りで、一緒に積み木遊びをすることに。
……うん。可愛いやりとりだけど、姉のゆりにまで「妻語録」が移ってしまうと、流石に申しわけないから、その……ね。ごっくん。
二人でほのぼのと遊んでいると、専属ナニーが部屋へと入ってきた。
心の奥に引っ込んでいた僕に緊張が走る。
ごめんね、かな。もっと遊びたいかもだけど、また強引に変わっちゃうね。
いつも僕は表に出ることを申し訳なく思っているが、かなは僕が表に出ることを、楽しいことだと認識しているフシがある。
多分、かなは僕に守られていることを、本能的に理解しているんじゃないかな?
もちろん、僕の感情が少し移ってしまったせいで、かながうっすら専属ナニーのことが嫌いになっているというのもある。
でも、こんなにすんなり変わってくれるのは、そのせいだと僕は考えている。
「ゆり、かな。今日は旦那様――貴方方のパパとおしゃべりの日ですよ」
少し弾んだ声で、彼女はそう言った。
ああ、今日はその日か。なら、僕が表に出る必要はないな。
パパとのおしゃべり。これは、海外に住んでいる僕たちのお父さんと、テレビ電話をつないで交流するという、イベントのようなものだ。
父と母の関係は今、こじれている。そのせいで父は僕たちに会うことを許されていない。
だからこうして、彼女を通して秘密裏に交流しているわけだ。
……でも、お母さんは僕たち二人をお風呂に入れる時、「あの人も少しくらい自分の子供に興味を持ってくれてもいいのに」と呟いていた。やはり、すれ違いしているのは確定だろう。
そして、そのすれ違いの原因を起こしている彼女は、髪をしきりにいじっているし、メイクも心なしか普段より気合が入っている。彼女にとっても、この時間はかけがえのないものなのだろう。
「もしもし。旦那様」
「ああ、愛相澤さん。いつもありがとうね」
「はい!」
いつもよりほんのり高い声で返事をする専属ナニー、もとい、愛相澤さん。でも、今更名前を覚える気にもならないから、やっぱり専属ナニーって呼んだままでいいかな。
彼女はスマートフォンの画面をこちらに向ける。画面には、父の映像と、小さく僕たちの映像も映っていた。
相変わらず、今日も父はイケオジだ。
僕が感じる父の印象は、ダンディーな人ってイメージだ。
力強い金色の瞳に、短い黒髪。僕たちのピンクの髪は母から遺伝したようだが、瞳に関しては父から遺伝したようだ。
ガタイが良く、いつも大きく口を開いて、よく笑っている。
一見おおらかに見えるが、よく見るとあごひげや髪型は丁寧に手入れしているのが、おじさんだった僕には分かる。父に男の色気を感じるのは、きっとそういう細やかな部分にも気を使っているからだろう。
……じゃあ、かな。しばらくの間はお父さんが見てくれているから、悪意に晒されることはないはずだ。僕はいつも通り引っ込んでいるから、いっぱい愛されておいで。
「ゆり、かな。パパだよー」
「ぱぱ。おはよ」「まま!」
恥ずかしそうにパパと言ったのがゆり。自信満々に画面を指さしてママと言ったのが、かな。
「ああ……なんでこんなに我が子って可愛いんだろう……僕の天使たち、会いたいなあ……」
うん、きっとこの人は立派な親バカになるだろう。間違いない。
だって、力強い目が、一瞬で見てられないくらいとろけたんだもん。
「ああ、可愛いなあ……可愛い。可愛すぎる。可愛いなあ……」
……さて、父はこうなると長い。
二人が父との交流を楽しんでいる間に、僕は一人、頭を巡らせる。
なぜ、父は僕たちに会うことを許されていないのだろうか?これだけかなとゆりを愛しているのに、一体どういうすれ違いが起こっているのだろうか?
専属ナニーがどういった手段ですれ違いを起こしているのか……予測こそできても、実際に何をしているのか、具体的にはまだ分かっていない。
うーん……
僕が頭を悩ませている時、目の前でこんな会話が繰り広げられていた。
「愛相澤さん。やっぱり会いに行っちゃあダメかなあ……?」
「ええ、奥様はカンカンに怒っておられます。もし今そういう強硬手段に出ると、おそらく完全に縁を切られるかと」
「そっかあ……」
「よしよし。ぱぱ」「ざまー」
「そうか。こんなダメな俺を慰めてくれてるのか!なんていい子たちなんだ!」
……かな?その言葉どこで覚えた?
でも、今の言葉……少しだけヒントがあった。どうやら父は、母が怒っていると信じているようだ。
「ゆり、かな。今日は、俺の弱音を聞いてくれ」
かなとゆりは揃ってコテンと首をかしげる。いつも元気な父は、今日はいつもより少しだけ気落ちしているようだ。
「どうも出産の時に顔を見せられなかったのが決定的だったみたいなんだ。『二度と顔を見せるな』ってメールが来てね、それから電話もメールも一切繋がらないんだ」
「よしよし」「おーしろいー」
「大事な時期だからあなたの邪魔をしたくない。あなたは仕事に専念してと何度も言われたから、言葉通りそうしてきたんだけど……俺、ダメだなあ」
なるほど。たまたま父が弱音を吐いてくれたおかげで、ちょっとだけすれ違いの原因が見えてきたな。
「申し訳ありません。せっかく旦那様と奥様の関係を改善するために専属ナニーとしてやってきたのに、力及ばずで」
「いやいや、君はよくやってくれているよ。いつも逐一2人の成長を教えてくれるだけで、とても助かっている。君でダメなら、きっとどうしようもならないってことなんだ」
「旦那様……過分なお言葉をありがとうございます」
父はどうやら彼女のことをかなり信頼しているようだ。
専属ナニーがお辞儀をした、その時。
ふと、かなが専属ナニーのポケットに興味を示し、手を入れた。
ぼとり。
何かが二つ、地面に落ちた。
「愛相澤さん。君ってスマホ複数持ちだったんだね?」
「あ、え、ええ。そうなのです。プライベート用と仕事用で分けていまして……」
まるで浮気がバレた時みたいに、慌てている。
……あ、もしかして。
その瞬間、急に繋がった。
彼女はスマホを複数台使い、父と母の「なりすまし」をしているのではないだろうか?
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