1話 怒られる
※第三章からは白佐藤かな視点で進みます
「じゃあ、次の曲は『可愛くてごめんあそばせ!』 行くぞ!」
「「「うおおおおおお!!!」」」
「うひゃうひゃひゃひゃ!そうだ!その調子でもっと盛り上がって、ガンガン私に票を投げろ!いいな!」
「「「うおおおおおお!!!!!」」」
うっしゃ!これなら進級確定!あの名門の私立華凛主真高等学校も、案外チョロいじゃん!
「さくら!よーこ!その調子で頼むぞ!ワハハハハ――」
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「――で、申し開きはある?」
「……ちゃ、ちゃうやん」
「その言葉遣い、やめなさい」
私は、お母様の前で正座させられていた。
「お母様!違うんです!全部あの学校の制度が悪いんです!私をクソボケ扱いする庶民共から票を得るためには、アイドルになるくらいしかなかったんです!かなちゃん何にも悪くない!」
「アイドルなんてみんなから冷笑される、ただのペテン師でしょうが!」
「お母様!?」
やばい!いつも冷静で、美しい言葉を何よりも大切にしているお母様のお口が、激烈に悪い!
お母様は以前『今のにっぽんのアイドルはどんどん独自に進化しているから、いずれにっぽんの誇る文化になるかもしれないわね』と評価していた。
それでもこの言い方ってことは……
これは、ガチギレしてるパターンだ。
私は知っている。お母様が強火の時は、何をしようが許してくれない。
こういう時は……逃げろっー!
「グエッ」
お母様は無駄な動きの一切ない美しい所作で、私の自慢のふわふわハーフツインを掴んだ。
「娘の行動なんてお見通しだと、いつも言っているでしょう?あんな丈が短いスカートで、媚びを売るような……そもそも白佐藤家というのは、古来からうんたらかんたら……」
お母様のお説教をいつものように聞き流しながら、違うことを考える。
……それにしても、いつ見てもお母様は美しいなあ。年齢を重ねても、いつまでも美しい。てか、お母様の全てが絶望的にエロい。
説教する時の蔑むようなアイスブルーの瞳ですら、身体の奥がじんじんと痺れて気持ちがいいんだもん。
うん、我が母ながら、マジ性癖に刺さる。国から正式にR-18指定されるべきだと思う。
「ぐへへ、私たち、出会う形が違ったら、恋人になれたのかな……」
「はあぁ……そのセリフは実の親に使うものじゃないわよ。かな、ちゃんと聞いてた?」
「もちろん!あの学校の長い歴史の中でも、アイドルライブを開催したかなちゃんは、枠にとらわれない発想で素晴らしいってことですよね!?」
「ぜんぜん違う!一応あなたも白佐藤家なんだから、礼節と品格を大切にしろと言っているの!あの後、あまりの前代未聞な事態に噂が広がって、私まで恥ずかしかったんだからね!」
「ぷぷぷ。子供ガチャ失敗ですね、お母様」
「すぅぅ……私も一応、あなたのことが大切だから言ってる……って時期は、もうはるか過去のことね」
「見捨てないでっ!」
お母様は説教が通用しないことを悟ると、なだめる方向に舵を切った。
「それは冗談だとしてもよ。これでも私は、あなたのことを評価しているのよ。枠に囚われないところもそうだけど、あなたには良いところがいっぱいある」
「そうでしょう!そうでしょう!もっと褒めて!」
「……どちらかと言えば古臭い白佐藤家にとって、あなたの存在は、新しい風そのものよ。あなたが居る空間は賑やかになるし、天性の人懐っこさからか、大人から子供まで、みんなと仲良くなってしまう。高校生になってようやく猫をかぶることも覚えたし……もうあなたは立派な淑女よ」
「まあ、お母様の粘り強い教育の賜物ですわね!」
「だからね。私、先生や周りの方にこう言ってやったの。『うちのかなは真っ向勝負でもやれる子です。今度のかな主催のダンスパーティーを楽しみにしていて下さい』って」
「うんうんう…………え?今なんて?」
「だから、次のダンスパーティーは真っ向勝負でやるのよ?分かったわね?」
「お母様!?娘を進級させない気ですか!?」
「大丈夫よ、かな。あなたは私の自慢の娘なのだもの。ね?」
「ああ、お母様の信頼が重い……」
(まあ、かななら絶対できると思うよ。頑張って!)
相変わらず心のなかにいるオジサマも、母と同じくらい私を信頼しているし……
言っておくけど、オジサマも一緒に頑張るんだよ?私とオジサマは一心同体。分かってるよね?
(もちろん。いつも通り、一緒に頑張っていこうか)
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「――と、言うことが去年あったんだ。だから、再来月の私主催のダンスパーティーは、真っ向勝負で行くことになった」
無事二年に進級した私は、柿ピーのピーナッツをかじりながら、庶民科の教壇に立っていた。
流石世界に羽ばたく柿ピーだ。食べる手が止まらねえ。
ことの経緯を説明していると、ちょくちょく「留年確定」とか、「当たり前のように庶民科に来るな」などのヤジが飛んでくるが……穏やかで優しいかなちゃんは決してキレたりしない。
あ、でも、ヤジに紛れるように「かなちゃん可愛い」って消え入りそうな声で呟いた人は後でかなちゃんがよしよししてやろう。
そう呟いた、ヌートリアみたいな雰囲気の男の子と目が合う。
話していない人とふと目が合うと、自然と顔がほころんでしまう。私のことを想ってくれているみたいで、嬉しくなっちゃうんだよね。そもそも私は、人と目が合うこと自体が「通じ合っている」気がして、すごく好きだし。
嬉しくなって、彼にウインクをかます。
こんな風に、ウインクとか、投げキッスとか、手を振るとかを、私はよくやってしまう。
最初はオジサマの次女様の「男に対しての手腕」に関しての教えを身に付けられなかった、私の苦肉の策だったのに……今ではこうすることが癖になってしまったのだ。
「……白佐藤家全面協力ではあるから、飯はとんでもなく美味しいぞ?だから、な?」
飯だけかよとか、その程度じゃ票はあげられないだとか、飯だけ食って帰るだとか。
名家のお嬢様が直々にお願いしてやっているというのに、こいつら、わざわざ私に聞こえるように言ってきやがる。
お前らさあ、いくら私と仲が良いからって、何言っても良いって思ってない?
よし、そっちがその気なら、その喧嘩、受けて立つ。
「うるせえ!お前ら庶民共なんて、290円のドリアをドリンクバーで流し込みながら、やたら難しい間違い探しで一生頭を悩ませてろ!」
その言葉を捨て台詞にして、私は教室をダッシュで出た。もう行かないと、次の授業が始まっちゃうし、こういうのは最後に言葉を残した方の勝ちだからね。
去り際、「なんか妙に具体的だな」、とか、「本当にお嬢様?」とか、私の優れた聴覚にはしっかり届いているから……まあ、引き分けにしておいてやろう。
でも、あんまり私をいじめると、お前らの血縁関係者に泣きつきにいくからな?
私は色んな人とお話するのが趣味だ。コミュニケーションに人生をオール・インしていると言ってもいい。
人の印象を一度覚えたら忘れないし、そもそも会話自体が大好き。よーこの母やさくらの母となら、デートに連れて行ってもらったこともある。
全人類恋愛対象候補の、かなちゃんの交友関係の広さを舐めるなよ?このクラス25人全員、更にはその兄弟や両親まで、全員と仲良しなんだからな?
さて、なぜ私がこんなことをしているのか、とか。ダンスパーティーとはなんぞや?とか。
それらは全て、この学校がめちゃくちゃ特殊だから。それを、これから軽く説明しよう。
感想、ツッコミ等、じゃんじゃんお待ちしています。




