閑話休題
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別視点 前世での出来事。姉たちの記憶――
長女視点
我が家の父と母は頼れない人だ。お互いがお互いしか見ていない。最低限の育児と、金はもらえたが……あんなもの、私から言わせれば義務としての子育てだ。
だから私は、自分がしっかりしなくちゃと育った。自分が母の代わりとなり、たくさん愛情を注いでやるのだと。
下の子はみんな可愛かったが、その中で年の離れた弟が、特に可愛くて仕方がなかった。
弟は私に、好意を隠しきれていない。全然好きじゃないけどって態度を取りながら、私に甘えてくるものだから……鼻から赤い液体が垂れてくるのも自然の摂理と言うものだろう。
私は一度だけ、そんな可愛い弟に女装をさせてみたことがある。弟はちょっと嫌がりながらも、「お姉ちゃんが言うなら……」と承認してくれた。
その時のことを、私はずっと後悔している。
あまりに弟の女装が似合いすぎていて――女装した弟を見た瞬間、私の脳内では「歯車が変に組み替えられた」ような音がしたのだ。
これ以上深入りすると、もう戻ってこられない。今引き返せばまだ間に合う。そんなお告げが聞こえてきた気がした。
あれ以降、二度と弟には女装させていない。せいぜいあの時に撮った写真を見ながら、鼻から液体を垂らす程度だ。
ふふっ、私の自制心はなかなかのものだろう。
そんな素直で可愛くて優しい弟にも、意外な面がある。
あの子は意外と行動力があり、少し危なっかしいのだ。
弟は、私がクズ男に引っかかり、無理やりホテルに連れて行かれそうになった時、必ず私の手を引いて助けてくれる。
弟に助けられたのは、片手の指では足りないだろう。私はそういうピンチに陥った経験が本当に多い。
これは私の悪癖なのだが、私は仕事で疲れると、ふらっと居酒屋へ行ってしまう。そこでしこたまお酒を飲み、人肌恋しくなり、前後不覚となり……気づけば、弟に手を引かれ、助けられている。
弟いわく「お姉ちゃんは酔うと防御力が極端に低くなるんだよ。そこが可愛いところでもあるんだけどね」だそうだ。
だから、私の帰りが遅い時は、絶対に迎えに来ると決めているらしい。
手を引かれて逃げている時、弟の手の体温を感じながら、いつも、こんなどす黒い想いが脳内にかすめる。
ああ、今ここで弟をぶち犯してやりてぇ……と。
まあ、弟は私のことを「尊敬する立派な姉」と見てくれているので、そんな邪な思いは絶対に表に出さないがな。
そもそも、私はとってもノーマルな人間だ。それに、兄弟の中で一番まともなのも私。そんな私にこんな想いを抱かせる弟を、私はひっそりとこう呼んでいる。
「弟は身内限定の魔性の男だ」と。
次女視点
――家族だけは、僕のことを「可愛い」と言ってくれた。だから、僕は家族が好きだ。
我が家は両親が海外に移住しているので、基本的に4人で力を合わせて生きてきた。
私生活以外しっかり者のお姉ちゃん。喧嘩っ早くて要領のいい妹。優しくて素直な弟。そして、僕。この4人が、僕の家族だ。
僕が中学の時にいじめられた時も、家族みんなで問題を解決してくれた。
「社会的に壊したかったら、私を頼れ」
これは長女。
「物理的に血ぃ見たくなったら、私が暴れるから」
これが、妹。
物騒な二人のおかげで、私は勇気をもらえた。いじめの問題より、二人を止める方が私にとってはいじめより大変な問題だった。
そして、
「お姉ちゃんはすっごく可愛いんだから、絶対に大丈夫。じゃあ、こういうのはどうかな?」
一番具体的な計画を練って、誰よりも頼れたのが一番下の弟だ。
まず弟は、僕のためにたくさんメイクの研究をしてくれた。
そして、僕に一番似合う形を見つけると、「自分でもできるように」と、一緒に練習まで付き合ってくれた。
暗い印象だった前髪を少しだけ切り、瓶底めがねをおしゃれなものに変え、下着までおしゃれなものに変えた。
その変化は、じめじめした図書委員から、小綺麗な図書委員に変わったような、僕という個性の延長線上の変化。いきなりガラッとギャルに大変身するような変化ではなかったので、おしゃれに鈍かった僕でもとっつきやすかった。
たったそれだけ。それだけで、僕は一切「ブス」と陰口を言われなくなった。
それからすぐ、僕に年上の彼氏ができて、クラスで一定の尊敬を集めるような立ち位置となる。
それでもしつこく僕の内面の悪口を言ってくる女の子もいたが、もう僕はなにも怖くなかった。その問題に対処するため、クラスの中心人物の男の子と二人っきりの状態で、とびっきり可愛く頼った。
その後、その男の子は、一撃で問題を解決してくれた。
僕はこの時、「可愛いは最強」だと知った。僕は女という性別を上手く使う生き方を覚えた。
一時期「可愛い」の果てしない力に飲み込まれかけて、インターネットアイドルを始めるなんて黒歴史もあるけれど……そこからの人生は概ね良好だ。今日も立派に僕は引きこもっている。
少ないけれど同性の親友もできたし、大量の奴隷……優しいオトコノコもいるしね。
僕は唯我独尊な姉とも、喧嘩っ早くて、世渡り上手な妹とも違う。どう考えても、僕が家族の中で一番まとも。
弟から受けた恩を返すためにも、僕が立派にお姉ちゃんしなきゃね。
……うん、そうは思っているのだけど、何事も理想通りにはいかないね。
弟が家族にだけすっごく激甘なせいで、つい過剰に頼ってしまうのだ。
あの子は自分のことをさぞ普通だと思い込んでいるけど、ちょっと考えられないくらい付き合いが良い。
徹夜でゲームするのを手伝ってもらったり、全シリーズ、全話分のプリキュアを一緒に見て、感想を求めたり……
ついお姫様になったような気分で甘えてしまう、僕も僕なんだけどね。
そんな弟のことを、僕は影でひっそりとこう思っている。
「弟は身内限定の魔性の男だ」と。
三女視点
俺は弟のことが大好きだ。唯一姉妹の中でまっすぐブラコンと宣言している。
二人の姉たちだって弟のことが大好きだ。姉は病的に弟のことが好きだし、次女は軽く弟に依存している。
そのくせ、見栄と恥ずかしさのせいでうまく態度に出せていない。正直、それは俺にとって好都合だ。
そのためらいを反面教師とし、俺はガンガン好意をぶつけている。弟からも素直に俺のことが好きと言ってくれるので、俺たちは両想いだ。
その様子を、姉たちからは恨めしげな目で見られることがよくあるが……まあ、姉たちのことは好きだが、弟のこととなれば話は別だ。そんな視線は当たり前のようにガン無視するに限るね。
元々好印象だった弟のことが、もっと好きになったきっかけもある。
あれは、俺がまだ喧嘩に明け暮れていた頃――
地元で一番強いとされていた3つ年上の女番長と、その取り巻きに囲まれて、俺はシメられた。
傷だらけで家に帰り、姉や弟たちの心配の言葉を適当に受け流し、悔しさを抱えながら眠った、次の日。
その日から、なぜか俺は弟と喧嘩の練習をすることに決まっていた。
俺が適当に聞き流していたうちに、そんな約束をしてしまったのだそうだ。
なぜ弟はそんな約束をしたのか。
「お姉ちゃんは自分の芯を譲らないところがかっこいいから、喧嘩は止めない。でも、喧嘩するなら無双してほしい」だってさ。
そうだった。弟は、俺たちを一切否定しないのだ。澄み切った瞳で、いつも俺たちを信じている。
なんだか、とっても愉快だった。胸の中のモヤモヤが、一気に晴れた。
結局、要領が悪く、弱っちい弟に喧嘩の極意を教えるだけの時間にしかならなかったが……それでも、俺は以前よりずっと強くなった。
喧嘩の練習を始めて一ヶ月後。俺は呼び出した女番長をはっ倒し、周りの取り巻きもついでに倒した時。俺は思った。
もう、喧嘩はこれでやめよう。と。
不思議だった。なんだか突然、虚しくなったのだ。
それから俺は、一切喧嘩をしていない。
普通に進学して、普通に恋をして、普通に暮らす。
俺にぞっこんな優しい夫と結婚し、子供もできた。
お好み焼き屋の店長の仕事も、なかなかどうして順調だ。
こんな幸せな生活を送れているのは、あの時弟が俺を否定しなかったからだと思っている。
だから、俺は弟が大好きだ。
弟も俺も愛する人ができた今でも、弟を後ろに乗せて、あの頃みたいにバイクでドライブをするのはやめる気はない。この時間が、何よりも大好きだから。
弟は、一度身内に入れた人を、それはもう大切にする。
きっと弟の妻――俺の義妹も、さぞ大切にされ、幸せになるだろう。
だって、俺は弟のことを、こう評価しているからな。
「弟は身内限定の魔性の男だ」と。
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