10.戦闘
ギィンという鈍い音が響いた。
「サラ、下がれ」
目の前には黒い影。
男の剣が振り下ろされる瞬間、わたしの前に滑りこんだのはジャンだった。
鞘で男の剣を受け止めている。
「でもっ!」
「無茶するなよ」
「だって……」
ジャンが剣を押し返すと、小柄な男が後ろに跳び退った。
「だって、じゃない。おれの剣を返せ」
その隙にジャンがわたしのほうを振り返る。
わたしは躊躇した。
もしジャンが闘って怪我でもしたらと思うと、怖くて渡せない。
そんなわたしの様子を見て、ジャンが息を吐いた。
「あのさぁ、おまえはおれをなんだと思ってるわけ? おれだって剣くらい使えるっての。だからそれを渡せ」
「……信じられない」
「信じろよ」
「でも……」
「信じろ」
まっすぐにわたしを見つめる翡翠色の瞳に吸い込まれそうになって、わたしは慌てて目を逸らした。
ジャンを信じたい。
でも……もしこんなところでジャンを失うことになったりしたら、わたしは一生後悔する。
「もし……もしジャンに何かあったら、わたしもあとを追うからね?」
ジャンは小さく笑ってうなずいた。
「何かあったら、な」
わたしは握っていた剣をジャンに差し出した。
そのとき、ジャンの背後に迫る影に気づいた。
「ジャンッ、後ろっ!」
ジャンは振り向かないまま鞘を後ろに向かって突いた。
その先が斬りかかろうとしていた小柄な男の鳩尾に深く沈む。
小柄な男が低い呻き声を上げて、その場に膝をついた。
わたしは息を呑んだ。
見ていないのにわかったの?
「下がってろよ」
ジャンがわたしの差し出した剣の柄を握り、残るふたりへと向き直る。
わたしは小柄な男が落とした剣を拾うと、言われるままに数歩後退した。
ジャンが煩わしそうに前髪をかき上げる。
「そんななりして、少しはやるようじゃねえか」
中背の男が、剣先を揺らしてジャンを挑発する。
けれどジャンはそんな挑発にはのらない。
剣を構えたままじっとふたりを見据えて立っている。
リーダーと思われる男は剣を構えたまま、ジャンの出方を窺っているようだった。
業を煮やした中背の男が、剣を振り上げてジャンに向かって斬りかかる。
その瞬間、ジャンも踏み込んでいた。
相手の剣を自分の剣で払い、剣の柄を男のわき腹に打ち込む。
続けてリーダーと思われる男がジャンに襲い掛かる。
ジャンはそれを半身でかわし、男の後頭部を軽く柄で突いた。
男は気を失って地面に倒れる。
全ては一瞬の出来事だった。




