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Axion Gear(アクシオンギア)   作者: てしモシカ
第2章 連結編

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コード054 温かいスープ

 私は背伸びをしながら起き上がる。心なしか身体が軽い。


 レクスのツケがなくなったからだろうか? 無理して仕事をこなす必要はなくなったし、これで本格的に自身の装備品を整えられると頭の中で改良の段取りを組む。


 とりあえず、顔でも洗うかと思いながら一階に降りると、何やらいい匂いが漂ってきた。


 ……誰か料理してるのか? ゼヴィ、はないな。まさかレクスが?


 昔は工場で働く人たちの為に作られただろう旧給湯室。そこを軽くリフォームして簡易的な台所にしたのは私だ。


 だが、ここを使うのは私くらいだ。アイツらは料理なんてしない。


 レクス……というよりも、アンダーズの住人はあまり料理をしない。クレジットのない奴等はその辺に落ちてるゴミを拾って食うし、クレジットがあったとしても安い合成食を買って終わりだ。


 チューブに入った栄養ペースト、やたらと味の濃いインスタント麺、正体不明の肉もどき。腹は満たせるし、最低限の栄養はある。生きるだけならそれで十分だ。


 そもそも、この最下層で料理なんてコストが悪すぎる。ロザリオの区画がちょっと特別なだけで、普通は作らない。クレジットの無駄だ。


 それでも、私が作ってしまうのは──


 あの、温かい味が忘れられなくて……リゼ婆がよく作ってくれたスープとパンの味を忘れたくなくて……レクスの許可をもらってリフォームしたのだ。


 それもあってか、他にここを使おうとする奴はいない。ゼヴィは勿論のこと、レクスだって料理をしない。


 なのに……鼻をくすぐるこの匂いが、私以外の誰かが使っている事を証明している。


 ……ないとは思うけど、一応な。


 侵入者の線も考えて、携帯ツールに指を引っかけたまま、音を立てないように扉へ近づく。


 そのまま取っ手に手をかけ、ゆっくりと開けた。


「! ……ヴィク、か」


 開いた扉の向こうに、台所に立つレクスの姿があった。視線を落とすと、その手元に匂いの元らしい鍋が見える。


「…………珍しいな」

「あー、いや。その……」


 モゴモゴと罰の悪そうにしていたかと思えば、「そこに座っててくれ」と言う。


 私は特に逆らわずに席に座ると、レクスは私の目の前にスープを置いた。


 それに目を向けると、いつも使う食材とは違った。オート製の野菜やキノコじゃない。更に品質の良いメカ製の具材ばかりで、しかも肉まで入っている。


「……どういう風の吹き回しだ?」

「そう、なるよなぁ」


 レクスは頬を指でかきながら視線を反らす。


「昨日は、悪かったな……準備して待ってたんだろ?」

「……あぁ」


 私は昨晩の事を思い出し、納得する。


「別にいいって言っただろ」


 「ツケもないし好きにしろ」と言ったのは本心だ。家に影響がなければ、レクスの私生活に口を出すつもりはない。


 ただ、あの時引っかかっていたのは──


「……レクスが、怪我してなければいい」


 ゼヴィを連れていく程の依頼だと言っていた。そして、遅くなるなら連絡してくれると約束した。なのに、いくら待っても連絡がなかった。


「それに、後からローガンさんに聞いたよ」


 だから、レクスに何かあったんじゃないかって……連絡できないほど危ない状況なのかもしれないって不安だった。……まぁ、結果はアレだったけど。


「依頼の後、付き合いであそこに行く事になったんだろ? 私も、きつい言い方してごめん。でも、せめてお店についたタイミングで連絡して欲しかったかな」

「ヴィク、マジで悪ぃ。本当に悪ぃ」

「?」


 だから、別にいいって言ってるのに……。


 必要以上に謝ってくるレクスに首を傾げながら、スープを口にする。


 いつもよりも具沢山で濃い味のスープは、リゼ婆のとはまた違った優しい味がした。


 そして、流しの端に見覚えのある皿が置かれているのが見える。


 私は表情が緩みそうになるのを押さえ、何でもない顔のままスープに口をつけた。



   ◇ ◇ ◇



「よし……」


 私は改造スタンガン銃の更なる改良が落ちつき、汗を拭う。ウルフの区画で拝借してきたパーツが役に立ったなと一人ほくそ笑んだ。


 回路の焼けもない。出力も安定してる。いい感じに仕上がってる。


 トリガーを軽く引いてみると、指先に伝わる反応も悪くない。これなら、多少無茶な出力をかけても持つだろう。


 他にも新たな武器も作れたし、レクスはダメだって言うけど、また貰えるなら修理依頼ぐらいなら受けてやってもいいかもしれない。


 そんな事を考えながら、片手で工具をくるくる回していると、作業台の端末が唐突にノイズを吐いた。


「……は?」


 反射的に手を止める。


 ジジ、と不快な電子音。画面が一瞬だけ歪む。


 故障か? ……いや、違う。


「侵入か」


 この端末、外部回線なんて繋いでいないし、そもそもネットに繋がるような代物じゃない。完全にローカルで使ってるはずだ。なのに、何かが無理やりこじ開けるように画面が勝手に切り替わった。


 警戒して腰のツールに指をかけ、いつでも叩き壊せるように身構えた瞬間。


『何これ通信おっそ!』


 ノイズの向こうから、場違いなほど軽い声が飛び込んできた。そして、画面が安定し、そこに映ったのは見覚えのある顔。


「……カムイか」


 画面の向こうで、目隠れの男が露骨に眉を寄せている。


『ラグ酷すぎ。ありえねぇ。現代人として終わってる』

「そりゃどうも。そもそも繋いでねぇからな」


 呆れ半分で返す。


 普通に連絡してくればいいものを、わざわざこんな無茶な侵入をしてくるあたりがコブラらしい。


「で?」


 余計な前置きは要らない。結果を持ってきたんだろ、と視線だけで促す。


『……あぁ。そうだった』

「忘れてたのかよ」

『いや、忘れてない。優先度が低かっただけ』

「最重要事項だろ」


 軽口を返しながらも、意識は完全に切り替わっている。


『外飼いの蛇の動向を洗ったらデカいのが釣れた』

「詳細は?」

『詳しくはこっちで話す。ログ送ると足つく可能性あるし』


 あっさりしているが、内容は重い。


 つまり、ここで話すと危険なレベルってことだ。


「分かった」

『他への連絡もこっちでしとくから、じゃ』


 それだけ言い残して、端末の映像がノイズと共に崩れ、そのまま沈黙した。


「……これだから回線は使えないんだ」


 改めてコブラの技術に顔をしかめながら工具を置く。そして、視線を作り上げたばかりの武器へと向けた。


「さっそくお披露目になるかもしれないな」


 そう呟きながら、私はツールポーチのベルトに改造スタンガン銃を差した。




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