第八話「うらら先生は間に合いたい」
「先生、私より先に学校出たんですよ? 『牧島さん、お先にー!』と言って嬉しそうに走って行ったのですが……」
さやか先輩はそう言って、首をかしげた。
Vのうらら先生の正体は私たちの学校の国語教諭でもある、高橋まどか先生。
びっくりするほどVと中身が同じような人で、たぶんうらら先生のリスナーがまどか先生を見たら、みんな「解釈一致!」って大合唱することは間違いが無いと思うほど。
「うら先の遅刻も今に始まったことじゃないじゃん!」
かふぇちゃんがぴょんぴょん跳ねながら言う。
確かにそう。
でも、まどか先生……つまりVのうらら先生は別に時間にルーズな人って訳じゃ無い。
ちゃんと時間に余裕を持って準備をするし、約束の時間を忘れたりすることも無い。
それはいつも間近で見ている私だから分かる。
でもそれなのになんでうらら先生の遅刻率が高いか、というと配信でもおなじみのPON――つまりドジが原因だ。
私はスマホを開いてラインでまどか先生にメッセージを送った。
『まどか先生、今どこですか? 後から学校出たさやか先輩が先に着いてますが。何かトラブルでも?』
メッセージを送るとすぐに既読が付き、そしてぴこんと音が鳴って返信が来た。
『そうなのよー! 反対方向の電車に乗っちゃって、しかもそれが特急で終点まで止まらないのよー!』
そして直後、つい先日発売されたばかりのうらら先生のスタンプがぴこんと送られてくる。
可愛らしいうらら先生のイラストが「万策尽きた!」と泣き叫んでいるスタンプ。
やっぱりPONだったってわけだ。
こんなところも解釈一致。
やれやれと肩をすくめてスマホから顔を上げると、うらら先生のマネちゃんがなにやら他のスタッフと相談している光景が目に入った。
どうやら、うらら先生のマネちゃんにも連絡が行ったんだろう。
たぶんうらら先生が関わるシーンは後から収録するとかなんとかの相談がなされたんだろうな。
ひとまず問題は回避されたみたいだった。
スマホの時計を見ると残り一分。
私はスマホの電源を切り、収録に備える。
すると――
「お、おはようご、ございます……」
と消え入りそうな声でスタジオにこそっと入ってきた女性がいた。
本人は、たぶん他の誰からも気付かれないように、気配を消して入ってきたつもりなんだろう。
でも彼女の場合は存在感が桁外れだった。
そもそも見た目が派手だし、さらには今の彼女に注目しない人間なんて、このスタジオの中にいるわけが無い。
その証拠に彼女が入って来た瞬間、スタジオの雰囲気ががらり、と変わったから。
そしてスタジオ内にいる全員の視線が、彼女に一気に集中する。
「ひあっ!」
みんなの視線を一身に受けて、その子は両腕で身体をガードするかのような妙なポーズを取った。
そして小走りに、ささささっと部屋の隅の方へと移動する。
まるで小動物、そして陰キャのような行動を取っている彼女だけど、それとは正反対に格好はもの凄く特徴的で大胆だ。
青い野球帽、真っ白に染められた銀髪、首に掛けられたヘッドフォン、そして彼女以外はまず似合わないんじゃないかと思われる極彩色のスポーツウエア。
その格好は彼女のVの時の格好とほぼ同じで派手派手だ。
彼女の場合は珍しく、自分からVのキャラデザについて意見を出したそうだ。
でも性格は真逆と言っていいほど違う。
Vの彼女はクールで、堂々としていて、トークも格好良い。
スタジオの隅っこで小さくなって、みんなの視線を避けているような彼女が、なぜあんな唯一無二のVを演じられるのか、いつも不思議に思う。
つい数日前、彼女が出演した音楽番組のマーベラス・ステーション、通称Mステを思い出す。
今日彼女が、スタジオ中の注目を集めている理由が、まさしくそれだ。
VTuber初となるMステ出演を見事成し遂げた彼女は、全V代表としての期待を一身に背負い、そして見事その重責を果たした。
司会のアモさんの「どうしてそんなアニメみたいな格好して歌を歌うの?」というほぼ地雷を踏んだかのような問いかけにも「歌を聴いてください。それだけで分かります」と臆すること無く真正面から言葉を返し、完璧にそれを証明して見せたんだ。
一緒に出演していたアイドルグループやバンドの人たちも最初は薄ら笑いを浮かべていたけど、彼女の歌が終わった頃には、みんな真顔になっていた。
それは爽快だった。
私もリアルタイムで観ていたけど、嬉しくて、そして歌が良すぎて思わず涙ぐんでしまったほど。
それほど彼女の歌は凄い。
「今の彼女は、ほんと名前のようにきらきら光っていますね」
隣にいたさやかさんが物憂げな表情で、ぼそりと言った。
私も無言でうなずく。
そう、彼女こそはVTuber初のMステ出場を果たし、発表したアルバムをオリコン一位にたたき込んだ歌姫、煌ダイヤちゃん、その人だ。
みなさま、いつも「VTuberと付き合いたい!」を読んで戴きありがとうございます。
今回の話でようやく序章が終わったというところでしょうか。
一区切りが付いたので、初めて後書きを書かさせて頂きました。
果たしてローキはダイヤちゃんと会えるのか、なぎさやさやか先輩はどうなるのか、これからの「VTuberと付き合いたい!」もお楽しみ戴ければ幸いです。
またモチベーション維持につながりますので、宜しければ感想、評価、ブックマークを頂けると嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。