第三回:実況と解説と運営
「神々の皆様こんにちは! 実況の実況神です。『創世神になろうラジオ』の時間となりました!」
「解説をつとめる解説神です。この番組は全神共有チャンネルでお送りしています。どうぞよろしく」
「さて、『クラス召喚で俺だけ無能? いや、隠された裏技で最強だ! ~チートを越えるチートで魔王も一撃で殺せる件~』の実況も今回で第三回となります。解説神さん、前回のあらすじを簡潔にお願いします!」
「チートで最強からの冒険者ハーレム」
「分かりやすいあらすじありがとうございます! さて、創世神のケベスさんの予告によるとこの先主人公に苦難が待ち受けているとのことですが、その前に番組に届いたお便りをいくつか紹介しましょう! では一通目、解説神さんお願いします」
「えー、なになに……ラジオネーム『マムシジャム』さんより、『テンプレばかりでつまらない、登場人物が作者の都合で動いているだけ』」
「これは辛辣な意見ですねえ。解説神さんはどう思いますか?」
「概ね同意見ですね。この世界をわざわざ見る意味は、あまりないと思います。上位互換で面白い物語は他にもありますからね」
「なるほど! では次のお便りはこちら!」
「ラジオネーム『プリン荒モード』さんより、『作者さんが楽しければいいんじゃない? 俺はブクマ外したけど』、だそうです」
「これまた辛辣! 実際の所この作品のブクマ数はどうなんでしょうか?」
「ランキングからも外れて、目に見えて減っていますね。ラジオ効果込みでこれではこの先厳しいでしょう。さっさと諦めて他の世界を創ったほうがいいんじゃないかと」
「たくさん創世して、人気が出た世界の時間だけを進めていく、という事ですか!」
「手っ取り早くヒットしたいならそれがいいと思います」
「なるほど。ではお便り紹介はこの辺りにして、今回のゲストをお呼びしたいと思います! 今回のゲストはなんとあの大物! 創造神さんにお越しくださいました!」
「皆さんこんにちは。私が創造神よ」
「創造神さんは『創世神になろう』を運営されているのですよね?」
「ええそうよ。始めたときは、サイトがここまで人気になるとは思ってなかったわ」
「これだけ多くの世界が投稿されるサイトを維持管理するのは大変だと思いますが、実際の所どうなのでしょうか?」
「そうね、正直なところ、投稿される世界を一つ一つ確認していられないわ。利用規約を読まずに投稿する作者も多いのが悩みの種よ」
「規約違反と言えば、複垢などでしょうか?」
「ええ、他にもR18設定にしてないのに過激な描写をする作者とか、相互評価グループとか。ポイントに飢えた作者はあの手この手でポイントを得ようとするわ」
「そういう作者を運営はどのように見つけているのでしょうか? またどのように対処するのでしょうか?」
「基本的には、他のユーザーから一定以上の通報があれば確認するわ。複垢と相互評価は一発BANね。業務の効率化のためよ」
「年齢制限についてはどうでしょう?」
「作者に警告して、十分な改善がみられなければBANね」
「ガイドラインによるとR18の判断基準は『性交・性的接触等の描写』『性的感情を刺激する行為の直接的描写』『具体的な性器の描写』『R18相当の画像が掲載されている』『大衆向け辞典(広辞苑等)に掲載されていないアダルト用語が使用された作品』『残酷な行為についての必要以上に詳細な描写』でしたね。なろうユーザーの中には、判断基準が曖昧だ等の声もありますが?」
「ユーザーの都合なんか知った事じゃないわ。原則として事なかれ主義よ。通報が無ければ無問題、通報があれば安全マージンを確保出来るまで徹底的に対処するわ」
「たしか警告では、具体的な修正必要箇所は言わないんですよね?」
「だってそれを言ったら、明確な判断基準が過去の判例として出回っちゃうじゃない。運営の指示通りに修正した後に作品が問題視されたら、運営の判断に問題があったなんて事になるじゃない」
「なるほど! 明確な理由があったんですね! そう言えば今回実況している作品は全年齢対象でありながら過激なエロシーンがありましたが、何か対処はするのでしょうか?」
「すでに一回警告して、その部分の歴史は全てカットされたわ。問題のR18シーンでブクマを増やしていたようだけど、修正後はブクマが減ったみたいね」
「作者のケベスさん、ご愁傷様です」
「自業自得よ」
「さて、実況を忘れてついつい長話をしてしまいました。解説神さん、物語の方はどうなっていますか?」
「ヒロインが一人死にました」
「ファッ!?」
「死ぬ直前に主人公とお涙頂戴のシーンがありましたが、そこまでヒロインとの絆が描写されてなかったので共感できませんでしたよ」
「死んだって、いったい何が起こったんですか!?」
「聖女が主人公のクラスメイト達を率いて敵になりました。教会主導で世界を統一するつもりみたいです」
「ヒロイン化するかと思われていた聖女が敵に回ったんですか! 主人公はどうするのでしょう!?」
「クラスメイトを殺す覚悟を決めて、幼なじみヒロインを許して仲間にしました。そしてクラスメイトの一人を拷問して、その後クラスメイトの強い勢と戦って苦戦しています」
「おお! 盛り上がってますね!」
「いえ、主人公に全く共感できないので、見ていたこっちとしてはむしろ盛り下がりました。……おっと、ヒロインの一人が主人公をかばってまた死にましたね」
「うわあ……怒涛の展開……ですね」
「鬱展開が長すぎてブクマの減りがすごい事になってます。というかこれ実況しててもつまらないと思うので、創造神へのインタビューを続けといてください。物語に大きな展開があったら言いますので」
「了解です。ではインタビューを続けましょう! 創造神さんはどういった経緯でなろうを設立されたのでしょうか?」
「そうね……実はなろうは元々別の目的で作ったものを流用したのよ」
「そうなんですか!? それはいったいどんな?」
「まず前提として、なろうユーザーには私の創造神としての力の一部を貸し与えているの」
「ええ、存じています。そのおかげでどんな神でも世界を自由に作って投稿できるのですよね」
「そうよ。この貸し与える力というのは、初心者でも世界を創りやすいように機能をパッケージ化してあるの。投稿されるのが似たような世界ばかりなのは、世界のテンプレートが用意されていて、それを元に創世しているからなのよ」
「なろうテンプレと言われるやつですね?」
「ええ。このテンプレ世界なんだけど、人間神化実験で作られたものを流用しているの」
「人間神化実験? それは一体何でしょう?」
「人間が神に至れる仕組みを世界に仕込んでおいて、実際に人類が私たちのステージに至れるかを観測する実験よ。理論的には可能なんだけど、条件がシビアすぎて、神化の例が観測されることはついになかったわ」
「原生生物の人間が神になろうというのですから、難しそうですねえ」
「飛び抜けて強力な力を持つ人間が物理的にも精神的にも追いつめられて、魂に突然変異を起こせば、後は運がよければ神になれるわ」
「かなり厳しい条件ですねえ」
「失礼実況神、物語に動きがありましたよ」
「おお! どうなりました?」
「なんか主人公が神になりました」
「ファッ!?」
「あら、本当!?」
「ヒロインが全滅して主人公が発狂したら覚醒しました」
「リスナーの皆さんとんでもないことになりました! なんと番組の最中に人間が神に至ったのです! 現地の声を聞いてみましょう!」
『赦さない……よくも俺の仲間を……! 殺してやる! お前らもこの国もこの世界も! 全部壊してやる!』
「暗黒面で心が満たされていますねえ! もはや主人公が魔王と化しそうな勢いです!」
「魔王じゃなくて神ですけどね。というか創世神のケベスさんはどう収拾を付けるつもりでしょうか」
「貴重なサンプルよ! 絶対に生きたまま確保したいわ! 作者に連絡して!」
「ではせっかくなのでケベスさんと通話してみたいと思います! もしもーし、ケベスさーん! 創世神になろうラジオでーす。聞こえますか?」
『たっ、助けてくれ!! 誰かっ!』
「ケベスさん!? どうしました? ケベスさーん!」
『主人公が! 急に俺の支配が効かなくなって俺の所に! ぎゃああああああ!!』
「もしもし!? 大丈夫ですか!?」
『……』
「解説神さん、これは一体何が起こっているのでしょう!?」
「たぶん主人公が神になったので、ケベスさんの操り人形ではなくなったのでしょう」
「きっとヒロイン達が死ぬ物語にした作者を恨んだのね」
「なるほどー。これはとんでもないことになりましたねえ。ケベスさんはどうなってしまったのでしょうか!」
『おい、聞こえてるぞ……。こいつはぶっ殺した。次はお前らだ。今から行くからな』
「おおっと!? 主人公から通話が届きました! 我々も復讐の対象のようです!」
「全神共通チャンネルで放送してたので実況してたことがバレましたね」
「大変なことになりました! 創造神さん、一体どうしましょう!?」
「わ、私はもう帰るわ! こんな所に居られるもんですか!」
「創造神さん、後ろ……!」
「逃がさねえよ」
「きゃああああああああああ!!!」
「主人公です! 主人公が我々の目の前に現れました! 創造神が後ろから刺されたあ!」
「たす……けて……」
「すいません創造神さん無理です! 私は実況の神なので戦えません!」
「同じく、解説の力しか持ってないので無理です。主人公は万能型だったので万能神という所でしょうか。諦めましょう」
「死ね!」
「「ぎゃあああああああああああ……!」」
「おい、聞こえてるか? お前だよ、お前。この放送を聞いてるお前らだ。これを聞いてるお前らも全員同罪だからな? 俺の大切な仲間が死ぬのを見て楽しんでたお前らも殺すから。逃げられると思うなよ? 順番に殺していくから待ってろよ」
完。
*これはフィクションです。実際のサービス、作品、事件等とは一切関係がありません。