Another perspective:犯罪者
「どうするでヤンスか!?」
手足が細く長い探索者の男、ミッツが探していた3人組の一人――メルキーノは、特徴的な鉤鼻を荒ぶらせながら小声で叫ぶという奇特な技を披露していた。
隣に立つ、ローブに身を包み顔の見えない魔術師――アンブリスは、装いの雰囲気そのままに無言で聞いている。視線は見えず、顔も微動だにしないので、聞いているのかどうかすら分からない。
メルキーノもアンブリスが答えるとは思っていないので、特に気にした様子はない。
時と場所は、マクスウェルが神官服の男――タンリックを捕縛した時、集まった野次馬から離れた建物の影。
一見誠実そうな見た目とは裏腹に、言葉巧みに相手の精神を削る。そんな、職業である僧侶らしからぬ性質のタンリックにとって、体は大きいがLV3の戦士の男を脅すなんて簡単な仕事だったはず。
それが、何の不運が重なってか、冒険者組合に捕まるという事態になっている。
ミッツの描いた絵の通り事が運んだ結果なのだが、それを知らない2人にとって、目の前の出来事は不運に映った。
敢えて不運の出来事だというのなら、運がないはずのミッツが不運に見舞われなかったことだろう。
「ちょっと、何もしなくて良いでヤンスか?」
路地裏に消えていくアンブリスに向かってメルキーノが問いかけるが、先ほどと同じく答えは返ってくるはずもない。
「分かったでヤンス」
それにも関わらず、会話が成立しているようにメルキーノも後を追って姿を消す。
オールスタット王国、首都城下町ビギニンガムの西区の奥。そこは、俗に闇通りと呼ばれる。娼館や奴隷商館、国の認可を受けていない非合法な店が立ち並び、お世辞にも治安が良いとは言えないエリア。
何が起こるか分からないので、自警団も見回りに来ない。
なので、この通りを歩くのは自己責任。冒険者でも余程の自信がないと、一人で歩くのはお勧めできない。
それでも表面上の秩序が保たれているお陰で、騎士団の介入に国としては踏み切れていない。
そこには、堕落した貴族や商人のような権力者、ならず者たちを纏めている組織の思惑も関与していた。
そんな危険な場所に拠点を構える物好きな冒険者もいる。それも少なくない数。
アンブリスとメルキーノ、捕まったタンリックのパーティーも、ここに拠点を構えている冒険者の一つだ。
実にお似合いである。
「そうか」
拠点に戻った2人から話を聞いた、このパーティーのリーダーである戦士の男――ヴァレオはそう一言返すだけだった。
そして、何事もなかったように飲んでいた酒の続きを飲み始める。
笑顔でもなく、怒りでもない。いつもと変わらないむすっとした表情からは、何を考えているのか全く読み取れない。
おしゃべりなメルキーノなんかは、続きの言葉を引き出すために騒ぎそうなものだが、黙って聞いているだけで口を一切挟もうとしない。
「楽なクエストだったと思ったが、失敗したか……」
たんたんとしたその言葉は、悲嘆に暮れているわけではなく、ただ口にして確認をしたという感情の抜け落ちた呟き。
「代わりになるやつを探せ。……それにしても面倒なことをしてくれた。責任は取らせないとな」
自分の計画の邪魔をした人間の未来を想像して、微かに頬が釣り上がる。
血反吐を吐かせ、希望を与え、全て奪い去る。
ヴァレオの嗜虐心を知っているメルキーノは、ぶるりと身震いする。その対象に選ばれた哀れな男の最後の姿を想像して。
何度も見せて貰ったヴァレオの遊びを思い出しただけで、下半身が疼く。
恐怖で尿意を催したのではなく、メルキーノもまた歪んだ性癖の持ち主で、泣き叫ぶ様を想像しただけで勃起したのだ。
大男が小動物のように逃げ惑う様は、とても愉快に違いない。一緒にいた美丈夫が汚らしく、鼻水や体液で彩られている姿はきっと堪らないだろう。
メルキーノの脳内では、すっかりその姿が映し出されていた。
その可哀想な対象の2人――ミッツとマリルは、それを知らない。
失敗したのはタンリックなのだから、言いがかりとしても甚だしい。
しかしヴァレオ、アンブリス、メルキーノの3人は、言葉にしなくとも狙いは同じ。
ミッツがクエストを発注したから、この結果に繋がったのだ。であれば、責任の所在はクエスト依頼者にあるのは当然と考えている。
「どこでやるでヤンスか?」
「そうだな……、レベルが低くてあまり楽しめそうにない。だったら、ダンジョンの中で何度も殺すことにしよう。飽きたら外で殺せば良い。その時までしっかりと精神を保たせて貰いたいものだなぁ」
今度は先ほどとは違い、口を大きく開けて牙のような犬歯を剝きだし笑う。
釣られたように今まで一言も発しなかったアンブリスも「ふふふ」と小さく笑い声を漏らし、メルキーノは甲高い声で「ヒヒヒ」と狂乱している。
ランプに照らされ壁に映った影は一つに繋がり、蠢く悪魔のようだった。




