雇用と土下座。 その2
「ぼそ、ぼそぼそぼそ」
「やん、擽ったい」
ミッツがイケメン冒険者に聞こえないように耳元で囁くと、姫は全身をくねらせた。
それは、真面目な話をしようとしたミッツの出鼻を挫く。
「真面目な話なのです」
それでもミッツは、めげずに話を続けると決めたようだ。
それも、同じことの繰り返しにならないように、耳元で囁くのを止め、口元を隠し小声で話すという配慮を加えて。
「人間を仲間にするのは、止めておいた方が宜しいのではないでしょうか?」
「なんで?」
なんでと聞かれると、ミッツは返答に困る。
端的に言ってしまえば、感情的に反対しているだけ。
だが、それを口にするのは恥ずかしかった。
何も正義面するのが、恥ずかしいと言う訳ではない。
ダンジョンに於いて、ダンジョンマスターである姫は謂わば社長。
その社長の言葉に、具体的な説明が出来ない進言をする。そんな馬鹿なことをしようとした自分が恥ずかしかった。
「その……信用出来ません」
「信用出来ないのかー。ミッツがそう言うなら、じゃーダメだね」
思いの外、聞き分けがよく、ミッツは胸を撫で下ろした。
「姫様、自分は信用に足る人間です」
「ミッツ。あの人、あー言ってるよ」
なのに、ダダ漏れの姫の声を聞いて、イケメン冒険者が足掻く。
「先輩も酷いじゃないですか。何故自分のことを信用出来ないなんて言うのですか。今まで先輩の言い付けを守り、警戒任務に協力していたと言うのに」
「そんなことさせてたの、ミッツ?」
「ダンジョンには追いてくるなと言っていたのに、何故ここにいる?」
「それは、先輩が美しい姫様に会わせてくれなかったからです。それに先輩を追ってきたのではないです。冒険者としてダンジョンに来ただけですから」
反論にならない反論。
ミッツには意味が分からない。
一体何が違うというのか。
来るなと言っていたのに、来た。
これ以上に事実があるわけがない。
なのに、何故堂々と言い返して来るのか。もしかして何か見落としていることがあるのか。そうミッツは自問する。
「いやいや、可笑しい。俺の信頼は裏切ったよね」
もちろん信頼なんて、これっぽっちもしていなかったが、流れ的に勢いに乗った。
それには騎士を目指すものとして、何か引っ掛かりを覚えたのか一瞬答えに詰まる。
「そうかも知れませんが、自分は姫様を絶対に裏切らない自信があります!」
ミッツは思い出した。
こいつとは話にならない。
自分の思い込みと都合だけで喋るので、相手の言い分は聞こえていないのだ。
「それに、姫様を守るには自分の方が向いています。何せ騎士を目指していますし、先輩よりもレベルは相当高いですから。冒険者として一人前であるLV13も超えていますからね」
冒険者に於けるLV13。
中途半端な数字のようだが、これは一般的な冒険者の加護職業の、上位の魔法やスキルを覚えるレベル。
それを覚えられなかった冒険者は、才能なしと見做される。
そうなれば周りからは無視され、冒険者としてやっていくことは出来なくなってしまい、引退に追い込まれる。
冒険者になるのは簡単だが、冒険者として生きて行くには、このような面でも簡単ではないのだ。
「だから?」
だが、そんな冒険者としての実力自慢なんてミッツには関係ない。
それどころか、すかさず挟もうとした自分語りに苛立ちを覚えた。
「いえ、姫様を守るのには強さも必要ではないかと……」
「さっきはレベルが低い俺に負けそうになったのに?」
「それは?! それは……その……油断しまして……」
「そうか。姫を守る時には、油断しないと良いな」
「なっ!」
だから、少し嫌らしい言い方をしたのも仕方がないこと。
少なくとも、そうミッツは思った。
「んー。だったら戦っちゃえば良いんじゃない。あなたが勝ったら仲間にしてあげる」
「ちょっと姫!」
「本当ですか!? ありがとうございます」
「えー、良いじゃない。それにミッツが勝てば問題ないんでしょ?」
「それはそうですが……」
こうして、ミッツとイケメン冒険者の戦いが、仕切り直されることになった。




