カウントダウンは止まらない
59
戻ってきた藤原さんは、いつもの「かぐや姫」としての彼女ではなく、戦いのためにつくられた人形のようだった。
「ん。リミットまであと二時間。外、出てるね。」
時計が示す現在の時刻は午前八時。機械が作った合成音声よりも冷たい声がそれを知らせる。
「わかった。本部の方に伝えとくよ。」
僕が返せたのは事務的な言葉だけ。今の彼女にはどんな言葉も伝わることはない。黒く輝く二つの瞳は何を思っているのだろうか。一定周期でまばたきをするその目は何も語ってはくれない。
僕は、怖がっているのだろうか。それとも恐れているのだろうか。彼女がこのままいなくなってしまうことを。
「明日も、僕の隣にいてくれますか?」
零れ落ちる言葉は今の僕の気持ちを代弁する。ただ、その声は誰も聞いてはいない。
日は昇っているが、僕の心は沈んだまま。わかっている。今はそんなのじゃ駄目なことくらいは。でも、沈まずにはいられないのだ。
人間らしさが完全に削られた兵器としての彼女。それが本来の彼女なのだろう。でも、それを認めたくは無かった。
太陽は刻一刻と昇っていく。影は次第に短くなっていく。始業時間だというのにチャイムは鳴らない。そう。今日は土曜日なのだから。普段であればゲームセンターで一喜一憂したり、ショッピングに勤しんだりする日なのだ。
「フラれたのか?」
「そうじゃない、と思う。」
無遠慮な質問は僕の心をほぐしていく。絡まった糸が切れていくように、それでいて新しい何かが入っていくように。
「そうか。俺には彼女の事情なんてわからん。だが、何があっても受け止めてやれ。」
彼、対馬君は僕に何かを投げつける。小指くらいのサイズのそれは、僕の手にきれいに吸い込まれていく。
「これは?」
「見りゃわかるが、銀製の弾丸さ。皮肉だろ?」
悪魔を祓う効果があると言われている銀の弾丸。それは既に何かに当たった跡があった。原型をとどめていないそれは、彼の一部と言われても違和感がないような気がした。
「……いいんですか?」
「ああ。だからな、生きて帰ってこいよ。」
そう言って彼は僕にウインクをする。他意はないと思う。恐らく他意はないであろうが、イケメンのウインクは恐ろしいものである。その後、彼はランチルームへと戻っていく。
誰もが快晴だと認める程の青い空。その深い色は僕の不安を無かったことにはしてくれない。
「もう、こんな時間か。そろそろ用意しないと……」
藤原さんはもう行ってしまったのだろうか。校舎の入口で待っていても一向に来る気配がない。
アリーナの入口付近にある小さな部屋にある程度の武器が置いてあるのは知っている。だから僕はそこに向かう。
「鍵、開いてる。」
改修工事が終わった後のアリーナには、そもそも鍵穴というものが存在していないようで、誰でも入れるようになっていた。
誰もいない控え室は真っ暗で、僅かに差し込んでいる外の光だけが僕の道しるべであった。
一応三部構成の予定です。
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