青さと若さ
52
また、夢を見た。
僕の大切な人が遠くに行ってしまう夢。
彼女は僕の腕の中で地球に還っていった。
僕は所詮、無力でしかなかった。
でも彼女はそこにいる。
それが現実になることは絶対にない。
「おーい、起きてる? 先に寝ちゃったのは謝るから、早く起きてください。」
はいはーい、起きてますよー。
「あの、今何時ですか?」
「午前4時。」
は? 外にはまだ太陽のたの字すら昇ってはいない。どんよりとした雲が空一面を覆っているだけ。
「とっとと準備を済ませてください。そろそろ行きますよ。」
「行きますよってどこに?」
「学校、じゃないんですか?」
お互いが疑問形の会話。話がまったく進もうとしない。
「えっと、その根拠は?」
「あんな事件のあとにのこのこ生徒を家に、いや家じゃないか。寮に帰らせるわけないじゃん。で、昨日はオリエンテーションだから学校には一年生と先生少ししかいない。ま、その先生達も逃げちゃった可能性あるんだけど。」
「先生が逃げるとは考えにくいけど……」
「基本、あそこの先生は一般人だよ。それも能力者への強い差別が残っている世代の。なら逃げてもおかしくない。違う?」
「その理屈はわかりました。でもどうしてそこまでして人間を信じないんですか?」
若干言葉がきつくなってしまう。
「ええ。人間なんて自分の利益のためにしか動かない愚か者しか存在しない。そしてそう考えた時の最優先事項は人間の命。」
「僕達能力者も人間ですよね?」
確認をとるように語尾が上がってしまう。
「大きなくくりでいうと人間、人類だけど、自分みたいなのはただの兵器でしかない。世間一般が考える能力者も大体こっち。いつ爆発するかわからないダイナマイト抱えて逃げるのは得策じゃない。」
「でも、僕らは人間だ。」
「それがたとえ試験管の中で人工的につくられていたとしても?」
答えは決まっている。僕は他の人とは違うのかもしれない。でも、それでいい。
「ああ、それでもだ。」
ふぅんと冷たい声が部屋に広がり、そのままとけていく。それはシャーベットのようで、口溶けがよく、少し酸っぱい味がした。
「う、うん。話、それちゃったね。」
それを言うまでに少しの間があった。
「そうですね。」
ありきたりな返事しか出来ない不甲斐ない僕が、そこにはいた。
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