知恵と技術と情報戦 5
47
彼の持ってきたリュックから出てきたのは注射器と謎の液体が入ったケース。慣れた手つきで注射器に液体を入れる。それから針を上に向けて少し液体を出す。
「確か、ここにあれがあって……」
二葉さんは彼自身の腕を触りながらぶつぶつと呟いている。ちなみに藤原さんは僕のベッドの上にいる。落ち着いて考えると色々アウトな気がするが、緊急事態だから多分セーフ。
そして何の迷いもなく彼女に注射をする。
「これで安定するはずですね。」
「安定って、何が?」
大体察しはついているが、一応確認する。
「言わなくても答えはわかっている。違いますか?」
違わない。能力回路の人為的な暴走。彼女の言葉がある程度ヒントになっていた。
「じゃあ、それでクラスのみんなも?」
「ええ。能力発動時にカウンターとしてこれを受けた場合、死に至ることもありますね。」
死。心臓に悪い響き。もう戻って来れない場所。
「でも、なんとかできますよね?」
ほんの一パーセントの期待。ただしそれはすぐに裏切られることになった。
「無理、ですね。能力の暴走はどうにも出来ない『災害』ですから。」
「じゃあ、その注射で、」
「なんとか出来るならもうしてます。残念ながらこれは『新船』の系譜の能力者にしか効果がないもので。」
『新船』の系譜。聞いてはいけないことを聞いてしまった気分だ。
「これも旧船研の負の遺産のひとつです。」
そう言ってリュックから薬品の入ったケースを取り出し、注射器をしまう。
それよりも、藤原さんが『新船』の系譜? だって、あの時船研は壊滅したはず。
「話しても怒られることはないでしょう。」
一呼吸おいた後に二葉さんが話し始めた。
「横田君は土曜日の段階でミサと学校で会っていた。ここまでは合っていますよね。」
とりあえず頷く。というか何で知っていたのか。
「君に会う前に学校に侵入していたのは気づいてましたか?」
素直に首を振る。って、なにやってんねん。
「そうですよね。不法侵入ですし。証拠隠しが大変でした。」
おい。二葉さんもしれっと問題発言の投下。
「こっちはなんとかなったんですがね。」
なんとかなったのか。
「人類至上主義って聞いたことありますか?」
聞きなれないフレーズ。
「初耳、です。」
「そこから説明するとしましょう。まず、人類至上主義というのは、能力者を排斥し、人間の社会を取り戻そうという思想の持ち主を指します。」
フムフム。わからん。
「そういう方々からすればミサはどのように映るでしょうか。」
「常識をぶち壊した、悪魔?」
これでもオブラートに包んだつもりである。
「正解ですね。ではそんな存在が殺せる距離にいて、殺す手段があったらどうしますか?」
答えはわかっている。でも、言うべきか躊躇ってしまう。
「ええ。そういうことです。殺せる時に殺す。奴らならやるでしょう。たとえ無関係な他人を巻き込んででも。」
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