奇術師は唐突に 4
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「1年ぶりだね。横田光くん。」
学校の校門の前にいたのは間違いなく新船ミサだった。あの赤い瞳、戦いなれた人がもつ風格のようなもの、その他いろいろが彼女の存在を証明していた。
でも、僕を呼んだのは藤原さんのはずだ。だから一応聞くことにした。
「あなたは一体誰なんですか?」
待ち合わせの相手は少し困ったような表情をしてから答えを出す。
「少なくともボクは新船ミサのはずだよ?」
いや、それはわかっているんです。質問の意図はそこじゃないんです。
藤原さん? 新船さん? は僕の身体をなめ回すように見ている。ただし全く下心はなさそうである。そしてこう言った。
「朝ごはん、食べに行きます?」
ペースをつかまれた気がするが、それはそれ。僕も成長期の男子だ。朝ごはんを食べないとやっていけない。というか何故わかったのか。
とりあえず駅と逆のほうに歩いていく彼女を追いかける。
「朝から開いてる店少なくね?」
僕はハイソウデスネとしか言わない。当然の如く意思疎通がとれているはずがない。だが、彼女は何故か楽しそうに見えた。
入ったのは全世界どこにでもあるハンバーガーのチェーン店。朝だからかスーツの人しかいない。むしろ朝から不良がたむろっていたら怖い。彼女はカウンターで注文をとる。
「ソーセージエッグマフィンと、コーヒーで良かった?」
特に問題はないから頷いておく。というかなぜコーヒーなのだろうか。その前に確認。
「おごってもらっていいんですか?」
男の沽券に関わる。デートじゃないからそこまで気にしないが。
「後で東葛支部に請求するから、問題ない。」
彼女の発言には問題しかない。ちょっと待って。誰に請求するつもりなんだ? 予想はつくが、聞いちゃいけない気がする。
二人だからカウンター席でいいのになぜか四人掛けのソファーの席に座ることになった。彼女いわく、長時間カウンターを占領するのは気分的にいやということらしい。リラックスできないからだそうだ。
僕はマフィンを頬張る。表面のザラッとした舌触り。いつも通りの味。目の前に座っている彼女は右腕で頬杖をつきながらこっちを見ている。無意識的に彼女のことを見てしまう。断崖絶ぺ……何でもございません。中学生らしい体つきと言えば誉め言葉に聞こえるだろうか。ルビーのような綺麗な瞳はどこに焦点が合っているのかよくわからない。
何も話題がないのはどこか寂しい。だから僕から話しかけることにした。
「あの後、どうなったんですか?」
「あの、って言うのはどっちのこと?」
多分、一年前のことか、昨日のことの二択。間違っても復讐姫のことではないだろう。
「一年前の事件の方です。」
「てっきり二葉が全部話していたものと思っていたけど。」
あの後彼には会っていないし、どこにいるのかさえ知らない。だからあの事件の結末を知ることはできていない。
「じゃあ、まず話すべきはボクとあの子、藤原ミツキとの関係だね。」
とても長くなりそうな話である。
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