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no_title 題名のない物語  作者: 藤原 アオイ
第一章 project angel
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奇術師は唐突に 3

38


 幸い怪我は軽症だったらしく、十分くらいで帰ることができた。


 当然だが、僕たち二人には謹慎処分がおりた。全力を出したせいでセンサー系が壊れてしまったからだ。まぁ、謹慎といっても、一ヶ月間アリーナ使用禁止というそこまで重くないものだったが。いや、十分重いか。


 最後に言われたあの言葉。明日の朝、校門の前で待つ件について。誘ってきた人が一般的な思考回路を持っていればこれはデートと呼ばれるものなのだろう。だが、彼女はどこか異常だ。存在自体が歪んでいるようにも見えるし、逆に世界が歪んでいて彼女だけが完璧であるようにも。


 ちなみに僕が今いるのはベッドの中。当然の如くR指定になるようなことはしていない。しいて言うならば上半身に何も身につけていない程度だろうか。いや、変な意味ではない。シャワーを浴びた直後なんだ。っていうか何で僕、誰もいないのに弁解しているんだろう?


 どうでもいいか。とりあえず今日は疲れたからもう寝る。明日は土曜日。多少寝坊したところで怒られることはないだろう。なに、朝は人が思っているよりも長いんだ。ちょっと泣いた跡くらいを誤魔化す時間くらいは用意してくれるだろう。


 思い出すとやはり悔しさを感じてしまう。負けそうになって無様に能力を暴走させて死にかけた。能力回路に走る痛みはもう消えている。外は普通に夜の闇に閉ざされているように見える。でも、僕の心に受けたダメージは一生消えない。


 絶望的な差。こえられないことくらいわかっていたつもりだった。本当は認めたくなかったんだ。Aランクの僕を一瞬で倒せる程の存在を。


 思い出すだけで目から熱い液体が流れ出してくる。それは顔を伝い、ベッドのカバーに染み込んでいく。唇がピクピクと痙攣する。一度流れ出すともう止まらなかった。視界が揺らぐ。寝間着は枕元に置かれたままだったはず。おぼつかない手つきでそれを着る。


 頭からかぶるだけの動作。身体が震えるせいで五分もかかってしまった。瞼が腫れているような感覚がある。これ以上何も考えられない。いや、考えたくない。


 脳裏に浮かんだのは敗北の二文字。もう寝よう。これ以上考えたってネガティブになるだけだ。


 僕は瞳を閉じ、何も考えなくていい世界に飛び込むことにした。








 辺りを見渡しても人間と言えるモノはない。


 すべてボクが壊した。


 やられたらやり返す。キミ達人間が散々やってきたことだよね?


 キミ達はボクからすべてを奪った。


 ボクはキミ達を絶対に許さない。


 なら、ボクはキミ達からすべてを奪ってもいいってことだよね?



 やめてくれ、と叫ぶ声があった。


 ボク達がそう言ったとき、キミ達はその手を止めた?


 止めなかったよね?



 俺は悪くない、そう言った奴がいた。


 散々ボク達を痛め付けておいてそれはないよね?



 そのうちボクは壊れていった。


 活動限界だったのだろう。


 そうしてボクは血の海の中に消えていった。







 土曜日なのに目覚まし時計が鳴る。叩き壊してやろうかとも思ったが、なんとか我慢する。


 鏡の前で自分の顔を確認する。瞼は予想通り腫れていて、ひどい表情だった。ひどい夢を見た気がするが、頭の中からすっぽりと抜け落ちている。思い出せないなら無理に思い出す必要はないのだろう。


 今日の予定。藤原さんと会う。それだけ。待ち合わせ場所は学校の校門。


 ヤバい。いい感じの服がない。とりあえずジーンズとグレーのパーカーでいいか。


 僕は服を着替えると階段をかけ降りる。こういうときはスニーカーで良かったと思う。朝飯を食べることも忘れて寮を飛び出す。

お読み頂きありがとうございます。

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