咲き乱れし赤い花 1
過去編、入ります。
12
「6時間後、会いましょう。」
そう言い、渡辺さんは個室を去った。
殺風景な部屋。そう感じた。
特にやることもない僕は、夢の中の黒い瞳の少女のことを考えていた。
どこか新船ミサに似た面影。
ガラス細工のように、触れたら壊れてしまいそうな細い身体。
最後に近づくにつれて、彼女は自分のことがわからなくなっていった。
夢の中での彼女の涙の理由はわからなかった。
嬉しそうにも、悲しそうにも見える表情。
その中に狂気があったことを僕は忘れない。
考えてもわからなさそうだったから、僕はまた眠りにつくことにした。儚げな夢の続きがみられると信じて。
黒い化け物がいた。
とても痛かった。
助けて、と叫びたかった。
でも、その願いは叶えられることはなかった。
だって、自分が黒い化け物だったから。
嫌な夢を見た。救いのない、夢だった。
「患者くん、お目覚めかー?」
返事をしようにも、彼女の名前を知らない。
「あの、あなたは?」
「二葉のやつ、ろくに人の紹介もできないのかー?」
どこか呆れたようにそう言った。
「東葛支部で能力関係の研究をしてる、赤城アオイと言えばわかってくれるかー?」
渡辺さんが僕に愚痴を漏らしていた相手。
悪い人じゃなさそうだった。
「ちょっと待って。今、二葉さんって」
「うん、全部知ってるぞー。でも、ウチが話すことじゃないからなー。」
監視者の能力、いや違う。単純に彼がすべて話しただけなのだろう。
その後、四時間くらいずっと、能力の理論について説明された。
初期の能力のこと。
DNAと遺伝子の違いのこと。
遺伝子の組み換えのこと。
彼女の研究分野のこと。
「簡単に考えると、メンデルの法則だなー。」
「じゃあ、どっちも能力回路が発現する遺伝子になるとどうなるんです?」
「そうだなー。そんな不運な遺伝子になったやつは、」
ガラリと、扉が開く。
渡辺さんが赤城さんの言葉の続きを話す。
「超高確率で死に至り、生き残ったとしても、40年ほどで限界がくる、でしたよね。」
お読み頂きありがとうございます。




