黒と、白
11
雨で服が体に貼り付く。
体温がどんどん奪われていくように感じた。
「すぐ終わらせて、帰りましょう。」
僕に向けられた笑顔。
ただ、目は本気だった。
敵を倒して生き残る。彼の目はそう語っていた。
「新船の出来損ない風情が、ボクに敵うとでも?」
新船。彼女と同じ名字。
武器庫での会話。
すべての点が繋がりそうで繋がらない。
「ええ。貴方では私を倒すことはできないですから。」
冷たい視線が交差する。
ミサが渡辺さんに飛びかかった瞬間。
そこで僕の意識は暗転した。
長い、夢を見た。
儚げな少女の夢を。
少女はいつも笑っていた。
少女はいつも一人ぼっちだった。
少女はいつだって諦めなかった。
そんな彼女の黒い瞳から一粒の涙が零れ落ち、
僕の意識は現実に戻っていった。
病院のベッド。この感じからして個室だろうか。
腕には針が刺されていて、上半身にはシールのようなものがたくさん貼られている。
小学生の割には筋肉質で引き締まった身体。
そのどこにも戦いの跡は残っていなかった。
「あんな方でも、優しさはあるみたいですね。」
話しかけられるまで気付かなかった。
ベッドの近くのパイプ椅子。
そこに渡辺さんは座っていた。
「何の異常もない、そうですよ。」
彼の右腕には、包帯が巻かれていた。彼の目の下には濃い隈ができている。
お見舞いの品が置かれるはずのサイドテーブルには、大量のエナジードリンクの空き瓶と、使用済みの鎮痛剤の箱が置かれていた。
突然、ノックもなしに扉が開く。
「頼まれてたもの、揃えといたぞー。」
僕たちは同時にドアを見る。
どこか間延びした女性の声。
中学生くらいだろうか。
使い古された白衣が印象的だった。
「お取り込み中だったかー。というかせめて鎮痛剤だけは隠しとけよー。」
悪意はない、と思う。
面白がっているのだろうか。
「あっ、あの、なんでエナジードリンクと鎮痛剤がここに?」
気になって聞いてしまった。
謎の白衣の女性が答える。
「ああ、それかー。そこの馬鹿、三日くらいずっと寝ないでそこにいたぞー。二葉ー。患者くん、目を覚ましたんだからとりあえず寝ろー。」
「ですが、」
「ですがー、じゃないぞー。患者くんに心配かけてどうするんだー。」
彼女は、渡辺さんに紙袋を渡すと、空き瓶などを回収して帰っていった。
出ない予定であって、出ないとは一言も言ってない。
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