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80 説明

読んで下さりありがとうございます。

「さて、皆さん揃ったので概要を…と行きたいところですが、後がつかえてますので、申し訳ありませんがそちらの席で話させて下さい。代わりの人を呼んですぐ向かいますので」


 こちらに向かって頭を下げ、ギルドに備えられたテーブルを示すリプスさん。

 審査を受けるかどうかの間も徐々に背後に人が増え、これから詳細を聞くとなると、確かに相当待たせてしまうことになりそう。

 俺とシルムに異論はないので承諾する。


「何なら俺が説明してもいいぞ? だいたいのことは知ってるし」


 そこでティキアが助け舟を出す。

 いい提案じゃないか?

 審査員を務める以上、事前に話を把握しているだろうし、リプスさんが席を外さなくて済む。

 

 しかし、彼女は頭を振る。


「いえ、お二人には急に話を持ちかけてしまったので、職員である私が説明するのが筋というものでしょう」

「そうなのか。だったらーー待て」


 納得しかけたティキアだったが一転して険しい表情に。


「いま急な話って…まさか今回の件をさっき伝えたばかりとか言わないだろうな?」

「ああ、バレてしまいましたか」


 悪びれた様子もなく呆気なく明かされ、溜息を漏らすティキア。


「あのなあ…もし二人に別用があったら俺にどう釈明するつもりだったんだよ」

「それはぁ、ティキアさんなら許してくれると思ったんですぅ」

「うわ。別に怒ってはないから、そこまで身体張らなくていいぞ」


 耳にしたことがないリプスさんの演技がかった媚びた口調に、素の辛辣な言葉で応じている。

 ティキアの奴、容赦ないな…。

 ただ俺も…今のはちょっと引っ掛かりを覚えてしまったが。


「は?」


 馬鹿にされてリプスさんが端的に怒りを発し、その様子にティキアはニヤリと笑みを浮かべる。

  

「ま、これでおあいこだ。俺は先行ってるぜ」

「ちょっと」


 呼び止められるがそのままカウンターを離れ一足先に行ってしまう。

 顔引き攣らせてるけど、放置しておいて大丈夫なのか…?


「ああもう、お二人も先に行ってて下さい!」


 気の立った状態でそう言われては俺とシルムは従うしかない。

 頷き、遅れてティキアに続く。

 

 まあさっきのは、諍いとかではなく、気心の知れた二人なりの言葉遊びだろう。

 なにせギルド登録のとき、宿の紹介までしてくれるくらいだし……そうだ。

 

 ティキアの宿を教えてくれたのはリプスさんで、つまり関わりがあるんだから、考えれば審査を誰に頼んだのか辿り着けたかも。

 仮に予想がついたところで、気を使うことに変わりはないが…。


 ところで今日は…一段と周囲の視線が集まってるな。

 最近の活躍で更に注目されているシルムは元より、ティキアが合流してから増した。

 

 やっぱり有名なんだろうな。

 評価を委任されたのは個人的な信頼だけではなく、確かな実力と実績があるからこそ。

 ギルドでの功績とか立ち位置とか聞いたことないので、感覚でかなり腕が立つと分かるくらいだ。

 

 興味はあるけど本人が持ち上げられたりするのは苦手みたいだから、掘り下げるのは配慮に欠ける。

 俺もその感覚は分かるしな。


 既に席に着いているティキアと対面する形で、俺とシルムは並んで腰を下ろす。


「さっきは俺たちだけで盛り上がって悪かったな。改めてティキアだ」

「私はシルムです、こちらはお付きの方。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。活躍ぶりは耳にしてるぜ。度胸もあるみたいだし、若いのに大したもんだ。だが手心は加えねえから、そのつもりでな」 

「はいっ、望むところです!」

「よし、気合は十分みたいだな。で、アンタの方が…」


 怯まないシルムにティキアは満足気に頷くと、横にいる俺へと視線を移す。

 それから何かを探るような目付きでこちらを見る。

 素性を隠していることを不気味がってはいない、が…。


「うーん?」


 引っ掛かりを覚えてるみたいだ…。

 ティキアと過ごした時間はそれなりにある。

 認識阻害のお陰で誤魔化せてるけど、確実に違和感は覚えている。


 洞察力を侮っていたら見抜かれてしまいそう。

 ローブの中身がセンだと露呈しないよう、素振りには気を使わないとな。

 そう考えながら、表では微動だにせず観察を真っ向から受け止める。

 

 すると、注視を続けるティキアに対しシルムは顔を顰め、俺の腕を抱くと敵意に近い厳しい視線で彼を射抜く。


「何ですか? もしかしてティキアさんも、この人のことを悪く言うつもりじゃ…」

「違う違う! 揶揄する意図はないって。むしろ俺は…いや。とりあえず、個人的な疑問ってだけだから、そう睨まないでくれよ」


 険のこもった声音に慌てて否定をした後、何かを言いかけて止め、また弁明をする。

 

 揶揄というのは、周囲で囁かれている俺に対しての…正しくは、シルムに同行するローブ人間への風評のこと。

 シルムが注目されるのなら、必然的に側にいる俺も人の目に触れる。

 新進気鋭の少女が成果を上げる一方で、ローブの人間は何をしているのか見てみると…特に動きはない。

 

 唯一やっていることと言えば、シルムの戦利品を回収して行くことのみ。

 戦うわけでもなく、喋るわけでもなく。

 実際は伝達により雑談とか指摘とかの意思疎通をしてるけど、事情を知らない人からすれば異質に映る。


 ただ少女に付いて回る、図体は大人の謎の存在。

 話題にされるのも、悪く言われるのも仕方ないし、言わせておけばいいと俺は思っている。

 しかしシルムは許せないようで。

 

 好きにさせておこうと伝えたが、俺が良くても自分は良くないとのこと。

 直接もの申しはしないが、周囲に嘲る者がいると視線で抗議をしており、今のこれも庇ってくれているのだろう。

 一度引き止めはしたけど、自分の代わりに腹を立ててくれるのは有り難いことだな…。


「その疑問ってのも俺の気のせいみたいだ。じろじろと見て悪かった」


 ティキアが俺に向けて頭を下げたので、気にしてないと首を横に振る。

 不義を働いてるのは俺の方だけど、正体を明かすわけにはいかない。


「そういうことなら…」

 

 謝罪により矛を収めるシルムだが、俺の腕は解かれずまだ少し蟠りがある様子。

 いつもの物分かりの良さはどうしたんだろうか?

 ティキアが取り繕っているとは思えないけど。


 しかし割と強めの抱擁だが、装備が特製だからか防具ありでも痛くないな…。

 それはどうでもよくて、シルムのお陰でティキアの気は逸れたけど、代わりに周りからの視線が痛い。


「お待たせしましたーーって、何ですかこの状況」


 そこに物を抱え困惑を浮かべるリプスさんが合流する。


「おお、助かったぜ。ちょうど困ってたところだ」

「どちらかというと私の方が困ってますけど。まあどうせ、さっきみたいに配慮に欠けたことでもしたんでしょう」


 空いているティキアの隣に座りながら鋭い考察が飛ぶ。

 落ち着いていたのでもう水に流したと思ったら、まだ根に持っていたようだ。

 

「…当たってるけどよ、何で断定した言い方なんだ」

「事実ではありませんか。そんなことより説明始めますよ。シルムちゃんも」 

「はーい」


 今の格好は流石に相応しくないと判断したようで、シルムは腕を戻すと居住まいを正す。

 リプスさんの登場で状況が改善して先に進められる。

 ティキアの言う通り来てくれて助かった。


 そんな彼女は一名に対して勝ち誇ったような表情で、向けられた当人は頬杖をついてる。

 俺たちには関係ないので置いておこう。


「では話して行きますが、審査といっても内容は単純です。ギルドが定めた所に赴いて、指定した課題をこなしてもらうだけなので。つまり依頼と特に変わりないです」

「えっ、それだけですか?」

「まあね。さっきも言ったけど、実力を見るのが目的だから。あんまり萎縮しないでね」

「…要はシルムの嬢ちゃん一人で全う出来るかの確認だ。いつも通りやれば普通は問題ないはずだぞ」


 苦笑して言うリプスさんのあと、頬杖をやめたティキアが真面目な声音で続く。


「…審査というより、ズルしてないかの調査みたいなものですか」


 シルムは二人の話を聞いて少し間を置き、頭の中に出た答えを口にする。

 俺も似たようなことを思った。

 もちろん評価のための同行でもあるだろうが、その場凌ぎだったり人から助力を得ていないか監視するのが主目的っぽい。

 

「正直に言うと、そうね。まあシルムちゃんが不正してるとは思ってないけど。でも今回の行き先は初めてだろうし、ちゃんと査定も行うから、気を抜きすぎないように」

「ああ。EランクDランクの魔物が出るからな、あんまり舐めてかかると足を掬われるぜ」

「そこは心配ありません。油断しないよう教えられてますから!」


 胸を張って自信満々に言葉を発するシルム。

 地味に横目で俺の方を窺っているので、頷き返しておく。 

 対面の二人は堂々した姿に感心した様子。

  

「ほー、やっぱり期待できそうだな」

「頑張ってね。まあいざと言うときはここにいる万化さんが助けてくれるから」

「! おいっ」


 リプスさんが笑顔で特定のワードを言った途端、血相を変え露骨なまでの反応を見せるティキア。

 どうしたんだ…?

 

「ばんかさん…?」 

「いい、聞かなくていいから」

「えっとねー、万化ってのはティキアさんの二つ名なのよー」


 シルムが首を傾げ、必死にティキアは食い止めようとしたが無情に放たれる。


「ギルドにおいて二つ名で呼ばれるのは凄いことなのよ。ねっ、万化さん」

「えっと…私もそう呼んだ方がいいんですか?」

「…マジで勘弁してくれ。俺が悪かったって」


 渋い表情となり本当に参っている様子。

 この二つ名は悪口ではなく称賛の類みたいだが、当の本人は面白くなそう。

 そんな姿に既視感。


 俺も一時期は英雄とか持て囃されてたけど、柄じゃないというか、落ち着かなかったな。

 彼も似たような心境だと思うと、同情を禁じ得ない。

 

 流石にリプスさんも度が過ぎたと思ったらしく、ティキアに向けて頭を下げる。


「すみません、大人気なかったですね」 

「ったく、程々にしてくれよ」

「ふふ、それはティキアさん次第です。それで他の注意事項ですけどーー」


 それからは何事もなかったかのように進行。

 あっさりと収束するあたり、やっぱり二人の付き合いは長そうだな。


 すぐ流れてしまったがティキアは二つ名持ちで、ギルドでは偉業で名誉なことのよう。

 万化…どんな由来なのか、その実力は如何程のものか。

 興味が湧いて来てしまった。


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