79 馴染
読んでくださりありがとうござます。
「…」
シャッ…トン…カッ…トン…
窓から陽の差し込む、明るくも静閑な部屋。
その空間で物の擦れる音や、物同士が軽く当たる音が繰り返し響く。
それは一定の間隔でありながら、たまに音が変質したり、高低が生じたり差異がある。
やがて物音が止み、俺は「うん」とうなずく。
「これで半分…っと」
そう呟く俺の眼前には、複数の弾倉が机に並べられている。
立ててあったり、横倒しにされていたり。
長さ大きさ、込められた弾丸も違う数種類のマガジン。
借りている宿の一室にて。
先程の物音の元はこれらで、銃から抜いて机に置く過程で生じた。
ところで今、何をしているのかといえば…点呼と称するのがいいだろうか。
ここに列をなす弾倉は全て、能力の『コール』により出した。
『コール』は条件を満たすことで銃、弾倉を現出させられる、逆に満たしてなければ何も起きない。
条件はざっくりと言うと性能を思い浮かべること。
銃もしくは弾丸の種類、さらに『カスタム』で改造を施している場合はそれも含め、さらにさらに『エンチャント』された弾丸…魔弾を込めていたらそれも含める。
過程を記述すると手間に思えるが、要するに、単品プラス変化を加えた分もイメージを求められる。
今はイメージ出来るか、覚えているか確認の最中であり、中間を過ぎたところ。
全部は日が暮れかねないので汎用性があるのは除き、この作業は定期的にしている。
書き留めて置くのも一つの手ではあるが暗記。
切迫した状況のとき、目を通すのは流石に呑気が過ぎるし。
まあ書いた方が記憶しやすいとか聞くけど、現状の流儀はこれ。
…ところでこの作業だが、出現させた時点で確認は完了しているため、弾倉を外す必要もなければ、並べる必要もない。
では何故と問われると、ひとえに以前の名残ゆえ。
俺からすれば銃の手入れは日課、とまでは行かないが続けていたことで、自然と定着しておりもはや一部と言っても過言ではない。
しかしあの日を境に整備不要となって途切れ、俺は手間が省けたよりも落胆の方が強く。
手に取ったり矯めつ眇めつしたり、たまに弄らないと落ち着かないことが分かり。
その結果、無駄のようで意味のある行為が代わりに組み込まれた。
誰しもつい仕勝ちな行動の一つや二つある。
俺にとってはこれで、今後も続けて行くだろう。
ただ、現を抜かしてばかりはいられない。
確認も兼ねているから没頭すると一向に進まないのと、他にも予定は詰まっている。
息抜きは程々に、残りを片付けてしまおうか。
「あれ?」
「ん、おうセンじゃねえか。出かけるところか?」
一通り終わらせて元に戻し、訓練の計画を立てて階段を下ってくると、宿の受付でのんびりしてるティキアと対面。
しかし彼がいるのは珍しく、つい声が出てしまった。
既に朝食を済ませてだいぶ経っており、いつもならティキアはこの時間帯には外に出ている。
特に休みとは聞いてないし、朝から装備の手入れをしていたので今日も同じだろうと思い込んでいた。
「そうだけど…休みだったっけ?」
「いーや、今日は俺だけ午後から別件があってな。今は事務合間の休憩をしてるところだ」
「ふーん、単独で」
何度か話題に上がったことあるけど、ティキアはギルドでパーティーを組んで活動しているそうな。
出入りの時間が違うのか今まで鉢合わせてないが、実力者揃いには違いない。
でもその面子から外れ一人行動か。
「何か仕出かしたのか」
「そうそうドジ踏んでーーって、ちげーよ。たまたま付き添いを頼まれただけだって」
本気ではなく冗談で、ティキアも理解してるから軽い調子。
彼との付き合いもそれなり、些事で気を荒立てないと分かってるし、多少はふざけ合える仲。
ところで、付き添いとのことだが…。
「それって、護衛を任されたってこと?」
本人が休日を否定していたので、荷物持ちとか家族関連の用事ではなく仕事なのは確定。
それに装備を整えていたから郊外
「あー、当たらずも遠からずってところだな。別に隠すほどの話でもねぇが…説明にはちょっと時間がかかる。俺は手が空いてるから構わねぇけど、今から出るんだろ?」
「うーん…」
特殊そうな事情に後ろ髪引かれるが…予定を崩すというのも気が引ける。
ごたごたが起きて仕方なくならまだしも、自ら簡単に曲げてしまうと今後もついつい変更を許容してしまいそうだ。
一度決めたからにはやはり、そちらを優先すべきか。
「そうだね、俺は行くとするよ。また夜にでも聞かさせて」
「おう、気をつけてな」
手を振るティキアに送り出され、外へ。
さて、今日も動くとするか。
「あっ、ヤッホー、シルムちゃん」
「どうもです、リプスさん」
ギルドの受付にて、親しげに交流するシルムと女性。
俺とシルムの登録の折、それと依頼受注のとき毎回のように応対してくれる、快活で薄緑のショートヘアーの女性。
名前はリプスというらしい。
見た目からして大人だし世話になっているので、リプスさんと呼ぶべきか。
シルムとは知らないうちに随分と打ち解けており、名前を知った経緯もシルムから。
「お付きの方も、こんにちは」
「…」
お付きの方とは俺のこと。
素性は明かせない、けど何の呼び方もないのは指示語を用いることになり不便。
それを解消するために用意した呼称。
毎度こうして、律儀にも俺への挨拶も欠かさないリプスさん。
しかし声を出すわけには行かないので、会釈だけになってしまう。
そんな無愛想な反応にも気を悪くした様子もなく彼女は笑顔。
そのままリプスさんはシルムの方へ向き直り、
「さて、まずは改めてーーEランク昇格おめでとう、シルムちゃん」
「ありがとうございますっ」
祝辞を述べ、シルムがぺこりとお辞儀。
(聞いていた通りだな)
初依頼から三日。
訓練を終えたあと連日ギルドへ足を運び、畑荒らしの害獣退治、街道に出没する魔物討伐、素材収集…などなど。
近郊の依頼を着々とこなして行った。
さらに俺が不在の午前の間、シルムはエストラリカ内の依頼を続々と達成。
リプスさんと仲を深めたのはそのときだろう。
それはさておき…順調に実績を重ねた結果、今日の訓練前にEランクに上がったと、喜ぶシルムから報告があった。
計、僅か四日で2ランクアップ。
最初の方は上がり易くはあるそうだが、この短期間でしかもシルムの年代となると、ギルド史上最速の記録的な快挙であるらしい。
いつにも増して注目を浴びているのは、その事実が知れ渡ったからだろうか。
まあ当の本人は、気付いてるのか気付いてないのか、泰然としてるけど…
「それで事前に伝えておいた通り、お二人には用事があります」
和やかな雰囲気から一転、リプスさんは居住まいを正し真剣になり、釣られてシルムが緊張した面持ちに。
早速、本題に移るみたいだな。
昇格を告げられた際「お付きの人を同伴してギルドに着いたら受付に来て」と、彼女から伝言をシルムが預かり、それに従って俺たちは来た。
なのでどうして呼ばれたのか、詳細は聞かされてないし、全く心当たりがない。
「小言のためにご足労いただいたわけではありませんので、構えなくても大丈夫です。それで用事というのは…シルムちゃんには審査を受けてもらうわ」
「審査、ですか?」
「ええ、昇格を認可していいかどうかのね」
「? Eランクに上がったばかりなのに、昇格の審査…あっ、もしかして」
疑問符を浮かべていたシルムだったが、口に出して反芻して、どうやら気付いたらしい。
そんな様子を見てリプスさんが微笑みを見せる。
「勉強してるみたいで感心感心。パーティを組まず個人活動の場合、経過を見て、実力がどの程度か適正確認の機会を設けるーー今回呼び出したのは、これが関係しています」
彼女が唱えたのは、ギルドマニュアルの中の一文。
当たり前だが一人であるということは、仕事の分担が出来ないため、相応の能力が求められる。
やり遂げる力が備わっているか、ギルドが用意した人員が同行、評価判断を行う。
「聞いたことありますけど…どうして今なんですか?」
シルムはこちらを一瞥してから、リプスさんに訊ねる。
「世間では一般的に、Dランクから一人前と見做されててね。ギルドにおいて一区切りなの。シルムちゃんは優秀だし、この勢いのまま先に進んで行きそうだから、今のうちに見てしまおう、ってことじゃないかしら?」
「えー…褒めてもらえるの嬉しいですけど、昇格してすぐなんて、流石に話が急じゃないですか?」
「んー、私も聞かされたとき早計じゃない? と思ったんだけどね…今の自分がどう評価されるか、知る良い機会かなって…どう?」
「でも…」
返事に窮したシルムは救いを求めるように俺の方を向く。
葛藤しているな…まあ無理もないか。
シルムは訓練を積み実戦を経験して初期と比べ驚くくらい成長、自身の力でEランクを勝ち取りさえした。
だが、慣れて来たと自信を持って言うにはまだ経験不足。
そんな中、人から正当な評価を受けることへの期待と不安。
指導者としては着実に教えを説いてくつもりであり、この性急な話を後回しにしようかと思う。
しかし、だ。
「!」
俺は頷いて呑むように勧める。
リプスさんの考えに一理あると共感した。
俺基準に加えて専門家であろう人間の評価を聞いておいた方が、現状どんな立ち位置かシルムも把握しやすく、今後に役立つはずだ。
何より本人がやりたそうだし。
それに他人がどう評価を下すか気になるというのもある。
俺もまだこちらにおいて経験は乏しいしな。
迷っていたシルムは俺の後押しを受けて、リプスさんの方へと向き直り了承する。
「…お付きの方から許可が出ましたし、私自身気になるのでお受けします」
「ありがとー! 実はもうある人に同行をお願いしててねー。無駄足踏ませちゃうところだったよ」
ホッと笑みを溢してるけど…それってこの件、実際は強制だったんじゃ…?
しかし引き合いに出さなかったのは、俺たちの意思を尊重してくれるつもりだったのか。
だが、それはそれで問題ないのだろうか。
「ええ!? それって怒られたりしないんですか!?」
シルムも同様の所感を抱いたらしく、心配するがリプスさんはあっけらかんとしている。
「平気平気! そんなに気が短い人じゃないから。そろそろ来ると思うんだけど…あっ、ちょうど来たみたい」
件の同行者を視界に捉えたのか、リプスさんが身を乗り出して手招きをする。
シルムが振り返り、俺も同じ動きをしようとしてーー途中で静止する。
この気配って…。
「ういー、わざわざ来てやったぞ」
続けて、気の抜けた声が耳に届き、一人の男性が傍にやって来る。
今朝聞いたばかりのこの声は…。
「ありがとうございます。ですが面倒くさがっていたと、奥さんに報告しますよ?」
「おいおい、そんな見え透いた冗談…冗談だよな?」
「それはさておき、自己紹介お願いします」
「おい…ったく。あー、俺の名前はーー」
リプスさんの脅しに馴染みのある反応を見せ、髪をぽりぽりと掻く男性。
もう、顔を見なくても誰だか分かる。
「ティキアだ。もう承知だろうが、嬢ちゃんたちに同行して審査させてもらうぜ。よろしくな」
手入れされた見覚えのある防具を纏い、長剣を腰に下げた宿の主人でもある男、ティキア。
今朝話してた付き添いってこのことか…はぁ。
どうしてこうなるんだ。
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