一話 馬鹿
「個性と書いて馬鹿と読む。これを何と言うか分かるかね?佐伯蓮君」
放課後の生徒会室。
端正な顔立ちの男子――金沢聡介が、
なぜか無駄に発音の良い英語で言い放った。
蓮はため息をつく。
「生徒会」
「Yes. That’s right!」
聡介は満足げに笑った。
その顔がまた腹立つほど整っている。
蓮は机に肘をつきながら言った。
「てか、お前、生徒会室からソファ撤去したらしいな」
「そうだよ。そのせいで今、翼に殺されそうなんだよ」
「地べたに寝ろって言ったら?」
「俺を死なせる気?」
蓮は肩をすくめた。
「いや、つばさなら普通にやるだろ。
“寝床を奪われた”って理由で」
「だから怖いんだよ。
あいつ寝ることに関してだけは本気だからな」
聡介は遠い目をした。
「……昨日なんて、ソファが無いって知った瞬間、
無言で俺の肩掴んで“返せ”って言ってきたんだぞ」
「お前が撤去したんだろ」
「いや、掃除のために一時的に移動しただけで……」
蓮は笑った。
「つばさにとっては“寝床が消えた”ってだけで十分なんだよ」
聡介は頭を抱えた。
「……俺、今日生きて帰れるかな」
「知らん。
でもお前のせいで生徒会室の治安は確実に悪化したな」
聡介は苦笑しながら言った。
「個性と書いて馬鹿と読む。
つまり――」
「生徒会」
「Yes. That’s right!」
「二回言わせんな」




