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4:高みからの視線

---

*管制室 - 惑星ネクサス-7 上空・軌道ステーション


 島から遥か上空、宇宙空間に浮かぶ巨大なステーション。


 その中枢にある管制室では、11の画面が注目を浴びていた。映っているのは、参加者一人ひとりの様子。首輪に内蔵されたカメラ、マイク、生体センサーのデータから三人称視点に再構築したCG映像である。


 加えて管制室中央の巨大な画面には島全体の地図と、同じく首輪からリアルタイムで送られる位置情報が反映されている。


「――1時間経過。生存者、全員健在か」


 低く落ち着いた男の声が響いた。


 管制席に座る人物――プロデューサー01と呼ばれる男は、メインモニターを見つめていた。年齢は40代後半。整った顔立ちだが、その目には一切の感情が見えない。


「はい」


 傍らに立つ女性――オペレーター03が答えた。20代半ば、長い金髪を後ろで束ね、白い制服に身を包んでいる。彼女の声もまた、機械的に無感情だった。


「生存者11名。負傷者なし。同盟形成が3組確認されています」


「3組……」プロデューサー01は僅かに眉を動かした。「出会いはすれど殺し合いにはならずか」


「はい。No.04リリィとNo.11ヒナタ。No.01アリサとNo.03アオ。No.02楔とNo.10蒼。いずれも一時的な休戦、または協力関係と判断されます」


 モニターには、それぞれのペアが映し出されている。


 廃村の民家で食事の準備をするリリィとヒナタ。森を北へ歩くアリサとアオ。洞窟で並んで座る楔と蒼。


「面白い」


 プロデューサー01は冷たく笑った。


「この状況の同盟など儚いものだ。精々崩壊まで見守ろうじゃないか」


「ただし」オペレーター03が続けた。「No.07スカーレットは単独行動を続けています。ゲームへの反抗意志が強く、主催者への敵対姿勢が顕著です」


 画面に映るスカーレット。平野に不貞腐れたように座り込んでいる。


「反抗的な個体は……まあ、いつものことだ」プロデューサー01は興味なさげに言った。「どうせ、我々には届かん」


「しかし――」


 別の声が割り込んだ。


 管制室の奥から歩いてくる人物――ディレクター・マスター。


 性別不詳。全身を黒いローブで覆い、顔は電子マスクで隠されている。声は機械的に加工され、年齢も性別も判別できない。


「今回の参加者は、少し妙だ」


 ディレクター・マスターは、一つの画面を指さした。


 そこには、夜凪アオが映っていた。


「No.03夜凪アオ――この個体は、何かを"知っている"」


「知っている……?」プロデューサー01が眉をひそめた。


「当たり前だ。娯楽物を通しデスゲームを知っている者として選んだだろう。多少はその知識を応用して見せるのは当然だ」


「うむ。しかし」ディレクター・マスターは静かに言った。「これはただの勘だが――まるで”このゲーム”の立ち回り方を知っているかのようだ」


 画面の中で、アオは笑顔でアリサと会話している。その表情は無邪気だが――目だけは、何かを見透かしているようだった。


「……興味深い」


 プロデューサー01は身を乗り出した。


「ならば、彼女たちを刺激してみるか」


「提案を」


「禁止エリアの指定を、予定より早める」


 オペレーター03が振り返った。


「しかし、事前の打ち合わせでは6時間ごとに――」


「ゲームは我々が操るものだ」プロデューサー01は冷たく言い切った。「参加者たちを殺し合わせるには、適度なプレッシャーが必要だ。いつまでも同じところに留まられては、ゲームが停滞する」


 ディレクター・マスターは何も言わなかった。ただ、画面を見つめている。


「では――」プロデューサー01がオペレーター03に目線を向ける。「最初の禁止エリア指定を行う」


「指定エリアは?」


「森林地帯の西側と――」プロデューサー01は位置情報の画面を見た。「廃村」


「時刻は13:15。猶予は……5分与えろ」


「了解しました」


 オペレーター03がシステムに入力する。


「13:10に告知とカウントダウン開始、13:15に禁止エリアを発動します」


---

*管制室 - 別セクション


 管制室の隅、監視カメラの死角になる場所。


 そこに、一人の人物が立っていた。


 技術者・ゼロ――若い男性。黒縁の眼鏡、白衣、無表情。彼はシステムのメンテナンスを担当する技術者の一人だった。


「……ゲームが加速する」


 ゼロは小さく呟いた。誰にも聞こえない声で。


 彼は懐から小型端末を取り出した。画面には、暗号化されたメッセージが表示されている。


『第一の計画発動。No.09追跡開始』


 ゼロは静かに返信した。


『了解。吉報を待つ』


 メッセージを送信し、端末を隠す。


「……もう少しだけ、待ってくれ」


 彼は画面に映る参加者たちを見つめた。


「君たちを、必ず――」


---

*管制室 - メインセクション


「禁止エリア、まもなく告知」


 オペレーター03の声が響く。


 画面には、カウントダウンが表示されていた。


 05:00


 04:59


 04:58


「さあ、動き出せ」


 プロデューサー01は、冷酷に笑った。


「生き残りたければ――殺せ」


---

*島・各地点への通知


【13:10】


 全参加者の首輪から、一斉に電子音が鳴り響いた。


 ピピピピピッ――


---

*廃村ホープタウン


「……何?」


 リリィは首輪を押さえた。


 首輪から、機械音声が流れる。


『通告。これより5分後、以下のエリアを禁止エリアに指定します』


『中央森林地帯・西側セクター』


『南部廃村全域』


「――っ!」


 リリィの顔色が変わった。


「ここ、ダメになるの?」ヒナタが首を傾げる。


「移動しろということだ……!」


 リリィは即座に地図を呼び出し、禁止エリアの範囲を確認する。


 廃村全域が真っ赤に染まっていた。カウントダウンも表示されている。残り4分30秒ほど。


 現在位置は村の中心に近い。すぐに動き出さなければ範囲外まで間に合わない。


 リリィは勢いよく立ち上がり、階段に向かった。


「え、もう行くの?」


「行く! 5分しかない!」


「わわっ、ちょっと待ってー!」


 ヒナタは缶詰の袋を掴み、リリィの後を追い階段を駆け降りて行った。


---

*中央森林地帯


「禁止エリア……」


 アリサは立ち止まった。


『中央森林地帯・西側セクター』


「……私たち、そこにいる?」


 アオが地図を呼び出した。現在位置は――


「西側だ……!」


 アリサは叫んだ。


「走れ! 北へ!」


 二人は走り出した。


---

*北部洞窟群


「……我々の場所は、含まれていないようだ」


 楔は安堵の息を吐いた。


 蒼も同様に、胸を撫で下ろす。


「よかった……」


 しかし――


「だが、他の者たちが動く」楔は洞窟の入口を見た。「この島全体が、混乱する」


---

*中央火山観測所


「禁止エリア指定……想定より早い」


 シオンは冷静に分析した。


「主催者側の介入。これは――」


 彼女の瞳が鋭くなる。


「同盟か、籠城戦術を取った者が多い。――よし」


 シオンは階段に向かった。外に出て下山するべき。


 禁止エリアは南部の方が広い――ならば、南部から人が来る可能性が高い。反対の北側に向かうとしよう。もう観測所に用は無い。


 北部にも人がいるだろうが、こちらは同盟を組んでいる可能性が高い。合流を試みるべき。

 主催者は恐らく――負傷者すら出ない展開に退屈している。


---

*西部資材倉庫群


「中央森林と廃村……」


 ユリアは安堵した。自分の場所は含まれていない。


 しかし――


「これで、人が動く。誰かが、ここに来るかもしれない」


 ユリアはロープを握りしめた。


---

*北西部平野


「禁止エリアだと……?」


 スカーレットは憤りを露わにした。


「人を動かして、戦わせる気か……!」


 しかし、彼女の場所は指定されていない。


「くそっ……どうする? ……誰かが避難してくるかもしれない。境界線まで様子を見に行くか」


---

*北東部岩礁地帯


「禁止エリア……でございますか」


 冬姫は範囲外。となれば目的地は決まった。このまま北部洞窟群を目指す。


「参加者を移動させ、遭遇を促す。策としては単純だが、効果的。禁止エリアの範囲から見て北部に人を集めるのが目的……ならば、乗って差し上げましょう」


 洞窟群なら身を隠しやすい。同じことを考えた者が既に潜んでいるかもしれない。


 何をするにしても、人を見つけなければ始まらない。


---

*東部廃採掘場(森林近く)


「禁止エリア……」


 リリスは立ち止まった。


 自分の場所は含まれていない。しかし――


「追われている。移動を続ける」


 リリスは再び走り出した。


---


【13:15】


 カウントダウンが、ゼロになった。


 ピーーーーッ!


---

*南部廃村ホープタウン


 リリィとヒナタは、民家を飛び出していた。


 広場を横切り、廃村の境界線を目指す。


「間に合うか……!」


 リリィは全力で走った。ヒナタは軽々と跳躍しながら、余裕でついてくる。


 境界線――廃村の入口の看板――を越える。


 そして――


 ピーーーーッ!


 背後で、廃村全体が立入禁止区域へと変わった。


「はあ……はあ……」


 リリィは息を切らしながら、しゃがみ込んだ。なんとか禁止エリアから抜けられた。


 しかし――


 ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


 規則的な電子音。恐らく禁止エリア滞在の警告。リリィは目を見開いて首輪を掴む。だが、よく聞くとその音は背後からのものだった。


「……っ」


 振り返ると、ヒナタが数歩後ろにいた。不思議そうに音が鳴る首輪を撫でている。


「――来て! 早く!」


 リリィは禁止エリアに踏み込んでヒナタの手を取った。ヒナタは大人しく手を引かれ、リリィの隣に並んだ。


 二人共禁止エリアを抜け、首輪の音は止まった。


「ふぅ……」


 リリィはすっかり疲れ切ってしまい、地面に倒れ込んだ。


「あー、疲れた」ヒナタはそう言いつつ平然としている。「次、どこ行く?」


「……わからない」


 リリィは初めて、不安を露わにした。廃村は、もう使えない。


 拠点を失った。体力も脱出するために使い果たした。今襲われたら――


(……ヒナタ)


 合理的に考えて、今は彼女に頼るしかない。


---

*中央森林地帯・北側


 アリサとアオの二人は北へ走り、禁止エリアを脱出した。


「はあ……間に合った」


 アリサは溜息を一つついて木に寄りかかった。アオは息を切らしている。


「うへぇ……疲れた。ねえ、これって――」


「主催者が、私たちを動かしてる」アリサは苦々しく言った。「じっとしていることを許さない。殺し合わせるために」


「そっか」アオは空を見上げた。「じゃあ、この先に人がいるかもね」


「……何?」


「私たちを狙って禁止エリアを指定したなら、そういうことでしょ?」


「お前……ホント妙に鋭いな」


 今の推測もそうだが、そもそも北に向かったのはアオの直感。


 アリサは感心半分、薄気味悪さ半分に言った。


「別に。殺し合わせるためって言ったのはアリサでしょ?」


「そりゃそうだけどさ」


「それで、北の人に会ったらどうする?」


「……分からん」


 アリサは迷っていた。果たしてこの島に信頼できる人間はいるのか。


---

*管制室 - メインセクション


「全員、禁止エリアから脱出しました」


 オペレーター03が報告した。


「そうか」プロデューサー01は満足げに頷いた。「では、次の段階だ」


「次……ですか?」


「ああ」


 プロデューサー01は、画面を見つめた。


「彼らに、希望を与えよう」


「希望……?」


「そう。脱出の希望を」


 ディレクター・マスターが、僅かに視線を向けた。


「何をする気だ」


「簡単なことだ。島のどこかに――偽の首輪解除装置を設置する」


「なに?」ディレクター・マスターは驚きの声を上げた。「もうあれを使うのか」


「遅いくらいだ。そろそろ新展開が欲しい。禁止エリアの設定で緊張感を蘇らせたところに、脱出の気配を匂わせる。参加者たちは確実に縋るだろう。そして――その装置を奪い合う」


「……なるほど」


 ディレクター・マスターは、静かに呟いた。


「希望を餌にして、殺し合わせる」


「その通り」


 プロデューサー01は、まるで芸術作品を鑑賞するかのように画面を見つめた。


「人間は――いや、全ての生命は――希望がある限り、どこまでも残酷になれる」


---

*管制室 - 別セクション


 その会話を、ゼロは聞いていた。


「……偽の希望、か」


 彼は拳を握りしめた。


「それなら――俺が、本物の希望を用意する」


 ゼロは端末を操作した。


 システムへの不正アクセス。暗号化されたバックドア。彼は何ヶ月も前から、この瞬間のために準備してきた。


「もう少しだけ……待ってくれ」


 ---


【初日 13:15】

【生存者: 11名】


---


【状態表】


【アリサ・ストームハート(辺境の双剣)】

 健康状態:良好

 所持品:戦術ナイフ

 現在位置:中央森林地帯・北西側(アオと共に)

 第一行動方針:アオと一時休憩

 第二行動方針:信頼できる参加者と組む

 最終行動方針:ゲームそのものを破壊する方法を探す

 備考:


【楔(封じられし刃)】

 健康状態:良好

 所持品:鎖(5m)

 現在位置:北部洞窟群(蒼と共に)

 第一行動方針:蒼との一時休戦

 第二行動方針:夜になったら単独行動を再開

 最終行動方針:生き残りたいが、どうすればいいか分からない

 備考:同居人との約束が行動を制限している


【夜凪アオ(夜に溶ける観測者)】

 健康状態:良好、軽度の疲労

 所持品:コンパス

 現在位置:中央森林地帯・北西側(アリサと共に)

 第一行動方針:アリサの観測継続

 第二行動方針:他の参加者を探す

 最終行動方針:誰かさんなら選ぶであろう道を辿る

 備考:管制室から警戒されている


【遮音リリィ(孤独な管理者)】

 健康状態:良好、重度の疲労と不安

 所持品:マルチツール

 現在位置:南部廃村外、森林地帯寄り(ヒナタと共に)

 第一行動方針:ヒナタと共に新たな拠点を探す

 第二行動方針:新たな拠点の選定

 最終行動方針:生き残って管理を続ける

 備考:拠点を失った。ヒナタへの依存度が高まる


【シオン・アルヴェリオ(論理の完全者)】

 健康状態:良好

 所持品:懐中電灯

 現在位置:中央火山観測所外

 第一行動方針:北に向かって下山、他の参加者と交渉を試みる

 第二行動方針:主催者の行動パターン分析

 最終行動方針:最適な生存戦略の立案・実行

 備考:主催者の介入と戦闘が行われていないことを察知


【ユリア・フェルナ(帰る場所の番人)】

 健康状態:良好、緊張状態

 所持品:ロープ(5m)

 現在位置:西部資材倉庫群A棟2階

 第一行動方針:罠による防御態勢の維持

 第二行動方針:移動してくる参加者への警戒

 最終行動方針:非戦闘での生存

 備考:


【スカーレット・レッドフィールド(紅の炎)】

 健康状態:良好、強い怒り

 所持品:プラズマブレード「紅蓮」(レプリカ版)

 現在位置:北西部平野

 第一行動方針:森林地帯・北西側に移動

 第二行動方針:ゲーム破壊の方法を模索

 最終行動方針:全員生還を目指す

 備考:


【雪乃院冬姫(雪の姫君)】

 健康状態:良好

 所持品:短刀

 現在位置:北東部岩礁地帯

 第一行動方針:北部洞窟群を目指す

 第二行動方針:強者を供にする

 最終行動方針:策略による生存

 備考:情報が足りず策略に自信を持てない


【リリス・ゼロワン(廃棄された光)】

 健康状態:良好、バッテリー58%

 所持品:小型工具セット

 現在位置:東部廃採掘場(森林近く)

 第一行動方針:追跡者(正体不明)からの逃走

 第二行動方針:充電できる場所を探しつつ安全な場所の確保

 最終行動方針:生存

 備考:バッテリー持続は極力消費を抑え残り4時間程度


【水無瀬蒼(深海の花)】

 健康状態:良好

 所持品:応急医療キット

 現在位置:北部洞窟群(楔と共に)

 第一行動方針:楔との対話

 第二行動方針:傷ついた人の治療

 最終行動方針:戦いを止めたい

 備考:医療知識あり。あまり自分が帰れるとは思っていない


【結城ヒナタ(恐れなき笑顔)】

 健康状態:良好、腹四分目くらい

 所持品:缶詰(残り2日分)

 現在位置:廃村外、森林地帯寄り(リリィと共に)

 第一行動方針:リリィについていく

 第二行動方針:楽しい事を探す

 最終行動方針:最後の一人を目指す

 備考:なんかリリィが助けてくれたみたい、と思っている


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