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4 大切なのは

「課長就任、おめでとう!」


「「おめでとうございます」」


 方々から祝いの声が上がる。


「ありがとうございます。これも、森田先輩が根気強く俺のことを育ててくれたおかげです」


 身長は百八十センチを超え、センター分けにした黒髪にキリッとした二重。幅が細めの眼鏡にシュッとした綺麗な鼻。透明感のある白い肌。絵に描いたようなイケメン(みどり)龍二郎(りゅうじろう)は、隣に立つ小柄でビール(ばら)の森田に視線を向ける。


「何だよ! 照れるじゃねぇか!」


 森田は(おど)けてみせた。和やかな雰囲気の中、「ま、俺もその内課長になるから、よろしくな龍二郎!」と更に笑いを誘う。


「もちろんです」


 爽やかな笑顔を向ける緑。



 緑は、相棒(あいぼう)市の大手商社に勤めるエリートサラリーマン。緑の上司として、森田は二人三脚でお互いを高め合っていた。緑はルックスもいいが、仕事もでき周囲の人望も厚く、見る見る昇進していき、いつの間にか森田のポジションを抜かしていった。森田は三枚目キャラで周りから愛され、森田の事を嫌う人はいなかったが、仕事の成果は今ひとつだった。周囲からは凸凹コンビと呼ばれ、緑は森田の事を慕っていた。

 まだ緑が入社して間もない頃、森田は得意げな顔で緑にアドバイスをする。


「いいか。龍二郎。営業の仕事で大切なのはお客様の話を聞いて聞いて聞くことだ。ホラこうやって耳を傾けて聞いてみるんだ。そー。良い角度だ!」


 緑は森田に耳に手を当てさせられ、最敬礼のような格好にさせられた。


「これ、笑わせにきてますよね? 先輩」


「いや、俺は至って大真面目だぞ」


 茶化す森田。緑は、森田の笑いのセンスがツボで、しょっちゅう笑っていた。



 緑が課長になり、森田は部下になった。表面的な立場は逆転したが、それでも緑は森田を尊敬し慕い続けていた。しかし、森田は緑が課長になってから卑屈めいた発言が増えるようになった。

 森田が仕事でミスをしても、緑が上手くカバーし丸く収める。周囲は、緑を褒め称える。そんな緑の事を、森田は憎しみを込めて睨んでいた。誰からも悟られないように。



「あれ、森田先輩、皆もう帰っちゃいましたよ? 何か仕事残ってるんだったら、俺も一緒にやりましょうか?」


「いや……あのさ……。龍二郎を待ってたんだよ……」


 俯いたままの森田に、異変を感じる緑。


「どうしたんですか、先輩? 何か、相談事ですか?」


「……どうしてだ……。何でお前ばっかり褒められるんだ……」


 森田から黒いモヤが勢いよく溢れ出し、渦巻く。


「……鬱陶しいんだよ……善意でやってます感、出してくるんじゃねーよ……」


「先輩……」


「……っふ。お前、俺がこんな風に思ってるなんて、ちっとも思わなかっただろ? ……うぜぇんだよ! お前が居なけりゃ、俺はもっと輝いていたんだ! お前さえ居なけりゃ」


 渦巻いていた黒いモヤは、次第に無数の蜂のように形を作る。


「消えろよ!!」


 森田が叫ぶと、蜂が次々と緑に襲いかかる。緑は、尊敬していた森田の心情を聞き、呆然とその場から動けない。


「ビンゴじゃ! 大、祐よ!」


「あぁ」


「うん」


 赤井の肩に乗ったアライが自慢げに翼を広げる。即座に赤井は緑をお姫様抱っこし、蜂の悪夢んと距離を取る。


「水滴石穿!」


 青戸が勢いよくシャボン玉を打ち付け悪夢んを倒していくが、どんどん数を増やしていく蜂の悪夢ん。

 緑は、全身真っ赤なタイツのガタイの良い男にお姫様抱っこされ、その肩にはしゃべる鳥、中学生くらいの真っ青な全身タイツの子がシャボン玉を吹き、蜂をやっつけている現状に頭がついて行かない。


「アライ、その人に付いててくれ」


 柱の陰に緑を隠し、アライが緑の肩に乗る。


「祐、今行くぞ! 烽火天連(ほうかてんれん)!」


 大剣が炎に包まれ、赤井が回転しながら大剣を振り回すと炎の渦が生まれた。炎の渦は大量の蜂の悪夢んを絡めとりやっつけるが、その分、新たに悪夢んは生成されていく。


「これじゃ、キリがねぇな」


「どうしましょう、赤井さん……」


 途方に暮れる二人。


「あなたたちは、一体……?」


 緑が、肩に乗ったアライに問う。


「ワシはアライ。あの子らはSOGIESC(ソジエスク)といって、悪夢んと戦うヒーローじゃ」


SOGIESC(ソジエスク)……ヒーロー……?」


「数日前に、この建物の近くを通ってな、悪夢んの匂いが微かに漂っておったんじゃ。大と祐と一緒に毎日パトロールしておったんじゃが、今日ワシ等が来んかったらお主はあの悪夢んにやられておったぞ」


「数日前から……。俺は森田先輩の事、何も気付いてあげられなかったのか……。クソッ! 何が課長だ……。長年連れ添った大切な先輩の気持ちも分からないなんて……」


「龍二郎──! どこ行きやがった──? 出て来ーい!」


 森田の目は殺気に満ち溢れ、黒いモヤに包まれている。


「龍二郎さんは、隠れててくれ! 俺達が悪夢んをやっつけるから!」


 赤井が森田に負けない声で叫ぶ。


「あれ……?」


 青戸が何かに気付いた。森田の側には、ずっと同じ場所に留まり、他の蜂の悪夢んとは少し雰囲気が違う大型の女王蜂のような悪夢んがいる事に。


「赤井さん……」


「祐、でかしたな!」


 二人はアイコンタクトを取り、赤井が悪夢んの群れに突っ込んで行く。


積水成淵(せきすいせいえん)


 青戸が作るシャボン玉が、赤井を包み込みベールと化す。蜂の悪夢んが赤井を襲うが、ベールに守られている。


「はあああ火牛之計(かぎゅうのけい)!」


 赤井は大剣を突き出し、女王蜂の悪夢んに目掛けて突進する。かなりのスピードで、切先からは火花が散る。刹那、悪夢んを守る為、森田が飛び出て来た。


「マズイッ!!」


 間一髪の所を、軌道を逸らして壁に激突する赤井。そこへ無数の悪夢んが襲いかかる。青戸が作ったベールも破れかかっている。


「赤井さんっ!」


 青戸が赤井の元へ駆け寄ろうとした、その時。


「森田先輩──!! 俺はここです! 森田先輩の話、聞いて聞いて聞かせてくださ──い!」


 緑は泣きながら、耳に手を当て、最敬礼の格好になり森田の前に姿を現した。


「龍……二郎……」


 森田の瞳に輝きが戻る。しかし、悪夢んは緑目掛けて猛スピードで迫る。


「ワワワ、ワシはまだ死にたくないぞ! お主、手の甲を出せ!」


 緑の肩に乗るアライは、迫り来る悪夢んに慌てふためいている。緑は言われるまま左手をアライに差し出す。虹色の嘴が触れる。


「式典完了じゃ」


 突如、爆風が辺りを包み、煙で何も見えなくなった。迫っていた悪夢んにより、緑とアライは倒されてしまったのか。青戸と森田、壁に激突したままの赤井が見守る。

 徐々に煙が晴れ、姿を現したのは全身緑のタイツに、二丁拳銃を持った緑。そして、その肩にドヤ顔で乗ったアライ。緑達に迫っていた悪夢んは爆風により倒されていた。


「何だ、コレ……?」


「お主の先輩を想う気持ち、しかと受け取ったぞ。これでお主もSOGIESC(ソジエスク)じゃ」


「龍二郎……俺……」


 正気に戻った森田は、現状を理解出来ないでいるようだ。しかし、森田の側をずっと離れない女王蜂の悪夢んが遂に動き出した。次々と仲間を増やし、緑に再び襲いかかろうとする。


「うぉおおお! 風林火山!!!」


 勢いよく起き上がった赤井は、そのまま地面を蹴り、高くジャンプする。大剣から火の粉が迸り、燃え盛る大剣を振りかぶって次々と生まれる悪夢んを粉砕する。そして、女王蜂の悪夢んのみとなった。


「今だ! 龍二郎さん!」


 緑は眼鏡をクイっと上げ、二丁拳銃を構え呟く。


二河白道(にがびゃくどう)


 二丁同時に放たれた弾丸は女王蜂の悪夢んを貫く。刹那、塵に消える悪夢ん。


「すごい……」


青戸は感嘆の声を漏らす。



 森田は、その後意識を失い、念の為病院へ運ばれた。しかし、森田の顔は、何か面白い事でも思い付いたような茶目っ気たっぷりの笑顔だった。

 赤井、青戸、緑の三人は顔を見合わせ、笑った。激闘の末芽生えた友情か、やり遂げた凛々しい顔付きだ。緑の肩に乗るアライも、またドヤ顔だ。


「改めて、俺は緑龍二郎です」


「俺は赤井大」


「青戸……祐です」


 赤井が握手の為、手を差し出す。緑も手を出したが、その手は赤井のケツを揉んだ。


「ナッ! 何だよ!!? いきなり?!」


 飛び上がる赤井。


「あれ? 俺はバイなんだけど、大ちゃんもお仲間かと思ってたんだけどなー。お姫様抱っこもしてくれたし」


「いや、俺はゲイだけど、お姫様抱っこもしたけど、そうじゃねー! 俺は尻軽なんかじゃねーからな!」


 くすっと笑う青戸。


「ざんねーん。俺、モテるから期待しちゃったっ」


 ウィンクする緑。


「何なんだ〜も──!」


 赤井の声が夜の街に響く。

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