5 アフロディーテ
赤井、青戸、緑、アライ達は、赤井の家に集合していた。赤井はL字型の大きなソファに寝そべりながら、ポテトチップスをポリポリ食べている。その隣で、アライもちょびちょびポテチを摘んでいる。青戸は、定位置のL字型ソファの端にちょこんと座り、緑は、赤井の家の大きさに驚き、辺りをきょろきょろと見回している。
「大ちゃんって、お金持ちだったんだねぇ」
緑がリビングに置かれた高そうな花瓶をまじまじと見つめながら呟く。
「俺の親父、政治家なんだよ」
赤井の後ろ姿を見て、何故だか緑は悲しくなった。
「そっか。一人で暮らしてるの?」
「あぁ。こんな大きな家もらったって、使いきれねーっての。金持ちの考える事って分かんねーよな」
「でも、そのおかげで、ぼくは今赤井さんの家にお世話になってます……」
赤井からこの家で一緒に過ごさないかと提案され、青戸は喜んで受け入れ、青戸の母親も了承している。了承、というより、無関心に近いのかも知れない。
「祐くん、そういえば中学校には通ってるの?」
「はい……。たまに、ですけど……。赤井さんの家から中学もそんなに遠くないので」
「良かったね。一人暮らしは寂しいもんなぁ……。俺も住んじゃおっかな?」
緑は、赤井にウィンクをする。すぐさま危険を察知した赤井は「龍二郎はダメだ! またいつケツ触られるか分かったもんじゃねー!」と、ソファから飛び起き、臨戦態勢に入っている。クスクスと笑う青戸。
「そんなことよりさー」
赤井が、棚から何かを出そうとしている。
「これ、一緒に行かね??」
取り出したのは、複数のCD。三人組のアイドルのようだ。
「アフロディーテってグループで、今日、十四時から宿願村でライブするんだよ? このセンターの桃野薫こと、カオルンルンはライブ中、目線が合うとウィンクしてくれたり、運が良いと投げキッスしてくれるんだよ? 超ファンサービスいいだろ? もう! 一度ライブに行ったら絶対虜になる事間違いなしなんだって! な! 行かね?」
熱心にアフロディーテの説明をする赤井とは対照的に、アイドルにあまり興味が無い青戸や緑は冷静だった。
「ワシはライトの早見奈々美ちゃん推しじゃ」
「ライト……? なんか、野球みたいですね」
アライに突っ込む緑。
「レフトの方は何ていう方なんですか……?」
「祐! よく聞いてくれた! レフトは神宮寺天音ちゃんだ! 桃野薫は、金髪ツインテールに少し吊り目の二重。ちょっとツンデレな所が可愛い、メンバーカラーはピンク。早見奈々美は茶髪のショートヘアーで、元気なボケ担当、メンバーカラーはイエロー。神宮寺天音は、黒髪ストレートの清楚、和風美人、メンバーカラーはライトブルー」
淡々とメンバーの説明をする赤井。
「祐、龍二郎、驚くなよ! なんと、実はこの三人、元男性のトランスジェンダーなんだ!」
「えっ? ……そうなんですか?」
「驚いた。みんな、可愛いねぇ」
赤井は自慢げに頷いた。
宿願村の地下ライブハウス。三人とアライは、アフロディーテの登場を待ち侘びている。周囲には、チェック柄のシャツにリュックを背負い、ケミカルライトを装備した人達が目立つ。照明が消え、会場の熱気は最高潮に達した時、「「みんな〜お待たせ〜!!!」」と、キラキラのふわふわな衣装を見に纏ったアフロディーテが登場した。
「む! 匂うぞ」
赤井の肩に乗ったアライが囁く。赤井は、せっかく楽しみにしていたライブが、アライの発言のせいで一気にテンションが下がったようだ。
「嘘だろ……」
「森田の時のように、完成した悪夢んではないが、この中の誰かが近いうちに悪夢んを産むじゃろう……」
「アライさん、誰が悪夢んに関係するか、分からないですか?」
緑が、怪しまれない程度に辺りの様子をうかがう。
「こんだけ密集した状態じゃし、微かに匂う程度じゃ分からんのぅ……」
「もしかして……アフロディーテの中の誰かが……?」
青戸がポツリと呟くと、赤井は「それは絶対ねぇ!!」と声を張り上げてしまった。
「ちょっとぉ、アタシ達に会えたのが嬉しいのは分かるけど、そこのマッチョさん。ちゃんとアタシ達の歌、聞いてくれるわよね?」
「カオルンルン!! ごめんなさい! ちゃんと耳の穴かっぽじって聞かせていただきます!」
赤井は瞬時に気をつけの姿勢になり、桃野に声をかけてもらえて嬉しそうだ。
「よろしい。それじゃあアンタ達ちゃんと聞きなさいよ! アタシ達のデビュー曲『トップアイドルを目指して』」
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無事ライブが終わり、アフロディーテの控え室では、桃野、早見、神宮寺が赤井について語っていた。
「あのマッチョさん、何だったのかしら。全く。アタシがフォローしなきゃスタッフに摘み出されてたわよ」
「でも、私達のライブに毎回来てくださる方よね?いつもは、お行儀いいんですけどねぇ」
桃野は若干ピリピリしているが、神宮寺は小首を傾げ、早見に至っては控え室に置いてある饅頭を食べている。
「あ! この饅頭美味しいよ? カオルンルンも、天音っちも食べなよ!」
「ちょっと奈々美ん、人の話聞いてた? よくも呑気に饅頭食ってられるわね」
「えへへぇ〜。ライブの後って、お腹空くじゃん?」
「じゃあ私もいただこうかしら」
「何、天音っちも便乗してんじゃないわよ!」
「まーまー、そんなピリピリしてるとお肌にも良くないよ。でも、アタシはマッチョさんより、そのちょっと後ろにいた、カオルンルンの名前を書いた鉢巻に、カオルンルンのTシャツに、カオルンルンのうちわをリュックに挿してる淀んだ雰囲気のおじさんの方が気になったなー」
「ああアイツ、最近アタシも気になってんのよ。前はキラキラした目でアタシの事見てくれてたんだけど、最近目が怖いのよ」
「何も無いといいのですが……」
「ヤダ! 天音っち、不吉な事言わないでよ!」
「アハハ! きっと何も起こんないから安心しなよ〜カオルンルン」
次のライブも、そのまた次のライブも問題無く終了した。
だが、アフロディーテの三人が帰宅途中にそれは起こった。
「ちょっとぉ、出待ちしてんの超怖いんですけど!」
物陰に隠れていた人物が出てくる。
「カオルンルン……危機感薄すぎるんだよ……」




