14 再会、そして
「よそ見してんじゃねー!」
赤井の大振りな攻撃が黒木にヒットする。
「へっ! どうだ! 俺もやればできるんだ!」
赤井は、ようやく黒木に一撃食らわせられた事に嬉しげだ。
「紬……」
「大丈夫よ、アライ。少し過去の事を思い出してただけだから」
アライは、黒木を心配そうに見つめる。親のように。
「私は──」
黒木が話そうとした時、禍々しい空気を感じ取り三人とアライは顔を見合わせる。
「行くぞ!」
赤井が禍々しい空気の方へ走り出し、緑も続く。
「紬」
アライが黒木の様子を伺う。
「心配しないで、アライ。私も行くわ」
砂場市の高架下。五十代の男性が俯いたまま、左手には斧を持ち引きずりながら歩いている。斧からは、ドス黒いオーラが溢れている。
その様子を楽しそうに眺めるソバージュヘアーの女性。SOGIESCの空気を察知し、瞬時に消える。
「見つけた! おい! そこのおっさん!」
赤井が声をかける。斧の形をした悪夢んは、主を操り赤井に襲いかかる。
「よっと!」
軽々と躱す赤井。
「アナタ、動きが単調過ぎ」
赤井は黒木の声色を真似てドヤる。
駆けつけた緑が「大ちゃん、その言葉、根に持ってるね」と苦笑いした。緑も既に変身し臨戦態勢だ。
「龍二郎、一気に畳みかけるぞ!」
「オッケー、大ちゃん。じゃあ全開で行くね」
龍二郎は眼鏡のブリッジ部分を中指で押し上げる。
「竜門」
凄烈な緑色のオーラが緑を包む。
「火樹銀花」
炎を纏った大剣をリボンのように華やかに扱い、斧の形をした悪夢んに不規則に攻撃する。赤井の筋肉があればこそ扱える技である。火花が散り地面に落ちる瞬間、フワッと炎の花が咲く。赤井の連続した攻撃に、五十代の男性は体勢を崩す。その瞬間を緑は見逃さなかった。
「二河白道」
二丁同時に放たれた弾丸は緑色のオーラを纏い、斧の悪夢んを貫く。刹那、塵に消える悪夢ん。
二人は目を合わせハイタッチした。緑が纏っていたオーラが消える。安堵も束の間、再び悪夢んの気配を感じ取る二人。斧の悪夢んを持った男性が斬りかかって来た。二人は咄嗟に後退し距離を取る。
「嘘だろ? 龍二郎がやっつけたはずじゃあ……」
赤井は動揺する。
「最初から悪夢んの気配は二つあったわ。一人の人間から産まれる悪夢んは一つだから、もう一人悪夢んを産み出している人が居るって事ね」
黒木の右肩に乗った黒色のアライが、赤井達の後ろから現れる。
「そして、その二つの気配はまだ消えていない。油断すべきではないわ。そこの彼みたいに怪我をしてしまうわ」
赤井がハッとし、緑を見ると左腕から血を流していた。
「龍二郎、お前……」
「ははっ。大ちゃん大丈夫だよ。避けきれたと思ってたけど、掠っちゃった」
「下がってて。戦いにくいから」
黒木の日本刀に纏っているオーラが激しさを増す。
「流石ね、紬。竜門"鷹"の持続可能時間も残り少ないから一気に片付けるつもりね」
「行くよアライ」
黒木は無駄の無い動きで悪夢んと距離を詰める。
「円頂黒衣」
軽やかに舞い、黒木の動線はまるで黒い満月のようだ。五十代の男性と斧の悪夢んを引き剥がす事に成功した。
「暗黒沈静」
すぐさま男性を十字架で磔にする。
「見事ね紬」
アライは感嘆した。黒木は日本刀をギュッと握り直す。
(あの時のようにはさせない。同じ過ちは繰り返さない……。あの時よりも私は強くなったから、今回はきちんと仕留める……)
黒木は少し緊張していた。後は斧の悪夢んを倒すだけ。早く終わらせてしまいたいが、躊躇していた。赤井達は、そんな黒木の心の動きを、異変を感じ取っていた。よくない雰囲気に拍車をかけるように五十代の男性がもがき出す。
「えっ」
黒木は動揺した。男性の服の隙間から小さな蛇が次々と現れた。その蛇は磔を壊していき、大きな波となって黒木に襲い掛かる。
「危ねー! 火牛之計!」
赤井は大剣を突き出し猛突進し、黒木達を助ける為に小さな蛇に迫る。しかし、その間に男性は斧を手にしていた。
黒木達の死角から現れる男性。赤井は男性を傷付けてはいけないと迷ったが、その隙を斧の悪夢んは逃さなかった。カウンターを食らい、壁に激突する赤井。
黒木は蛇の波に飲まれる直前に、日本刀に纏っていた黒いオーラをアライに移動させた。アライを守る為に。
「紬──!」
アライの叫び声も虚しく、黒木もアライも蛇の波に飲み込まれた。
黒木は小さな蛇に全身を噛まれ、次第に意識が遠のく。アライは黒色のオーラに守られているが、今にも消えそうな程オーラが薄くなっている。
黒木は薄れゆく意識の中、自分の人生を振り返っていた。
(私……死ぬのかな……。あの二人に顔向け出来るような人生になったかな……。もっと多くの悪夢んを倒してから死ぬつもりだったけど、私って弱かったのね。杏里……雛菊……。もしあの世で会えたら、きちんと謝らせてね。私と付き合わなかったら、二人は生きてただろうから)
白い虚無の世界に黒木が一人佇む。これが死後の世界なのかと妙に落ち着いている黒木は、ゆっくりと歩を進める。
どのくらい歩いただろうか。黒木は視界の先にぼんやりと霞んで見える何かを捉えると、それに近づいていく。次第にそれは形を成す。それが何なのか分かった瞬間、黒木は顔をくしゃくしゃにして泣いた。
小堀杏里と増矢雛菊だった。二人は笑っていた。それぞれが死んだ後、黒木の生き様を見守っていたのだ。
「紬先輩、お久しぶりです」
「紬が泣いちゃうと、私まで泣いちゃいそう」
二人は優しく声をかける。黒木は嗚咽を交えながら、謝罪の言葉を心から伝えた。
「分かってますよ。紬先輩は、実は不器用な優しさがたっぷりなの」
「ドライなようで臆病で、クールに見えても実は寂しがり屋で、でも紬はそれを表現するのが苦手で。死んでからじゃないと気付けない事ばっかりだったよ。私、元カノ失格だね」
「ごめんね、二人共……。私と付き合わなかったら、こんな事に……」
「紬先輩のせいじゃないです! 私が弱かったんです」
「死ぬ前にも言ったけど、私、紬と付き合えて幸せだったよ。自分を責めないで。あと、私達がこっちに来たのはこんな事を話す為に来たんじゃなくて」
二人は、そっと黒木の後ろに周った。
「紬先輩は、もっと自分の為に生きてください」
「紬はおばあちゃんになるまでこっちに来ちゃダメだよ。ホラ戻って!」
二人が黒木の背中を押す。黒木の意識が飛ぶ。




