12 レズビアン
「何だか知らねーけど、竜門マスターしたくらいで図に乗ってんじゃねーぞ!」
赤井は黒木に真っ直ぐに斬りかかる。
「それ……僻み?」
赤井の大剣を日本刀で去なす。本来ならパワーは赤井の方が上だが、竜門"鷹"によって強化された日本刀は、赤井の大剣より頑丈でパワーも数段優っている。
「ふふ。知らないようだから教えてあげるけど、竜門には九つの型"九似説"というのがあって、SOGIESCが持つ武器と技の強化を可能にするの」
自慢気に語り出す黒色のアライ。
「竜門は、攻守両方の能力を向上させるけど、ベテランのSOGIESCでも五分が限界。しかも一度発動したら、次に発動する為に二十四時間以上休まなければならない。戦闘向きじゃないわ。その点、"九似説"なら武器と技の強化のみだから、紬だと一日三十分は保てる。武器の種類によって九つの型があるけど、紬の型は"鷹"。クールでしょう?」
「ベラベラと喋るアライだな。蘊蓄言いてぇオッサンか!」
赤井が大剣を軽快に振り回し複数回斬りかかるが、その全てを黒木は汗一つかかずに去なしていく。
「あら。親切心で教えて差し上げてるのに。そちらのアライがSOGIESCにどこまで修行を付けてるか知らないけど、紬は"吉書の奏"も"左義長"も終えてるわ」
「ふん! 俺だって"吉書の奏"はやってらー!」
「大ちゃん……それマウント取れてないよ……」
「あらあら。"吉書の奏"をやっていて竜門をマスターできてないようじゃ、紬には到底勝てないわよ」
「あなた、動きが単調過ぎ」
紬は、一瞬止まったかと思うと回し蹴りを赤井の懐に命中させる。
「グハァッっ……!」
視界が眩む赤井。しかし、グッと目を見開き、「痛くねぇ」と強がる赤井。
「大ちゃん、SOGIESC同士で戦うなんて不毛だよ! もう止めようよ!」
「仲間を侮辱されて何もしないのは、俺も仲間を侮辱してんのと同じなんだよ! 止めんじゃねえー龍二郎!」
地面を蹴り、高くジャンプする。大剣から火の粉が迸る。
「はあああああ! 風林火山!」
燃え盛る大剣を振りかぶり、黒木に斬りかかる。黒木は腰を落とし、脚を大きく広げ目を閉じる。
「白黒分明」
黒く輝く日本刀が赤井の大剣を両断する。
「嘘だろ……」
赤井は両手を地面につけ、呆然としている。ありありと力の差を実感したのだ。
黒木が変身を解き、ジャージ姿に戻る。赤井達に背を向け歩き出す。
「待てよ」
ゆっくり立ち上がる赤井。
「創」
赤井が右手を突き出し唱えると、新しい大剣が具現化する。強く握りしめ、黒木に矛先を向ける。
「まだ終わってねー」
赤井の真っ直ぐな瞳。真っ直ぐな声。
「バカみたい」
どこか寂し気で、吐き捨てるように呟く黒木。赤井に対して、過去の自分に対しての言葉だった。
黒木は再び変身し、容赦なく赤井を戦闘不能にする。緑が仲裁に入ろうとするが制止する赤井。倒されても何度も何度も立ち上がる。
黒木はうんざりしていた。赤井に、そして自分に。
黒木がレズビアンだと自覚したのは小学五年生の頃。三つ編みにクリッとした二重で、眼鏡をかけた転校生に一目惚れをした。気持ちを伝える事は無く小学校を卒業し、中学校は違う学校だった。
中学でも、バレー部の先輩に恋をしたが、気持ちを伝える事はなかった。自分の周囲にレズビアンは居ないと思っていたし、打ち明ける事で虐められたり陰口を言われるのが怖かった。同級生の男子から告白されたが、「あなたのこと、よく知らないし好きじゃない」と言って振った。自分が男性と付き合うところを想像し、気持ち悪いと思った。
バレー部の先輩にも告白はしないまま、先輩は卒業し、黒木の恋愛は静かに終わりを迎えた。
高校生になり、変化が訪れる。同級生の別のクラスの女子、坂東咲がレズビアンであると噂を聞いた。驚いた。自分以外にもレズビアンがいると聞いて嬉しかった。しかし周りは「私、坂東さんの前で制服着替えるの怖いんだけど」「一緒にトイレに行くのも怖くない? 盗聴されるかも」と笑っていた。ムカついたが、何も行動せず大人しくした。やはりレズビアンであると打ち明けるのはリスクしかないと思った。坂東は男子と一緒にいる事が多かった。楽し気に遊んでいる様子を見て黒木は安心した。しかし、坂東は女子に対しては明らかに気を遣っていた。そんな事になるなら、レズビアンであると打ち明けなければよかったのに……と黒木は苛つき、蔑んだ。
放課後、黒木は坂東に呼ばれて屋上に来た。何か嫌な予感がして気が進まなかったが、行かないでいるのも気持ち悪かった。坂東からは「黒木さんってビアンでしょ? 私もなの。私達、付き合わない? 相性もいいと思うんだよね〜」と軽く告白された。焦った。ひたむきにレズビアンであると隠していたのに、坂東に気付かれていた。何故レズビアンだと分かったのか聞きたくなったが聞かなかった。
「あの……私……」
「あ〜、やっぱりダメ? 私カミングアウトしてるから、付き合ったら黒木さんもビアンだってカミングアウトするようなもんだもんね。ごめんごめん! 忘れて!」
坂東はあっけらかんとした顔付きで、両手に手を合わせ謝罪した。
「あ! あと私、黒木さんがビアンだってこと、誰にも言わないから安心して。レズビアンが生きにくいの、めちゃくちゃ理解してるから」
肩に手をポンと置かれて、屋上から去る坂東。坂東の目尻が光っていた気がしたが、黒木は坂東の事を想い、気にしないようにした。
黒木が高校二年生の時、バレー部の後輩の女子、小堀杏里から告白された。小学五年生の頃に好きだった三つ編みに眼鏡の子に似ていたので、付き合うことにした。
順風満帆だと思っていた。小堀は、バレー部の人数人だけにカミングアウトしていると言っていたが、黒木達の事を避けたり陰口も言ってこなかった。しかし付き合って三ヶ月で小堀は自殺した。黒木の知らない所で虐められていたのだ。黒木は、学校を、虐めた生徒を恨んだが、何か行動に移す事はしなかった。程なくして黒木は高校を中退した。何もかもが、どうでもよくなったのだ。
しばらくして、黒木は家から少し離れた居酒屋でアルバイトを始めた。高校の知り合いが来なそうな隠れ家的な居酒屋だ。両親は働く事に賛成はしてくれたが、自転車で片道一時間もかかる事を心配していた。黒木は体力には自信があると言い、両親を説得した。
黒木は居酒屋の女性社員、増矢雛菊に恋をした。ふんわりと緩いウェーブのかかった茶髪の、守りたくなるような女性だった。
増矢からも好意を感じていた黒木は、生まれて初めて告白をした。心臓が口から飛び出そうなほど緊張したし、もし振られたら……という不安、レズビアンであると打ち明ける恐怖、色んな思いが入り混じり前日は眠れなかった。
増矢は黒木からの告白に「嬉しい」と言って泣いた。黒木は増矢を緊く抱擁しキスをした。
黒木は幸せ過ぎる毎日に少し怯えていた。その不安はやがて形となり、音を立てて崩れていった。




