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暗闇の中で。(8)

閉じていた目を開いて暗い防空壕の天井を見上げてため息をつく。

いつの間に寝ていたんだろう。

水の精霊と話をして、暇だったから寝てしまったのだろう。


ちょっとだけ、頭が痛い。

今日は朝から雪が降っているし、防空壕の中とはいえ、

こんなところで寝ていれば、風邪を引いても当然か。


ーー水の精霊は病気とかも治せるのか?


「病気の種類によるよ」


ーーおっ、返事が返ってきた。返事ありがとう。


「どういたしまして」


お腹の虫が声をあげる。

できれば、別世界に行く前にスカキヤのラーメンを食べておきたい。

ああ、心残りが1つ思い浮かんでしまった。

あの特製ラーメンを、もう一度食べたい。


賢者の方を見つめていると、賢者と目が合う。

「今、君の脳に保存されている記憶を、

 私たちの世界で利用する身体に転送する魔法陣も書いているから、

 もう少しまっててねぇ」


「私たち世界で利用する身体?

 俺このまま別世界に行くんじゃないの?」


賢者は「クスッ」と笑う。


「みんな同じ事を言うから、この世界の人達って面白いよねぇ

 精神と物質を別世界に転送するって結構大変なんだよぉ」


「いや、そんな事をあたり前のように言われても、この世界は魔法とか一切ないからわからないって、だいたいアニメや漫画なんかの誰かが考えた空想の物語のやり方が一般的っていうか、なんだ?普通?みたいな感じ?」


「なんでそんな疑問系なのぉ?

 もちろん知ってるんだけどねぇ」


賢者はこちらをちらっと見て、笑みを浮かべる。


「他の世界の住人は、精神体に記憶も含まれるからぁ

 精神を転送すれば記憶もついてくるんだけどねぇ

 この世界の人たち、人間は特別なのぉ


 脳っていう物質に記憶を保存するように作られててぇ

 精神だけだと記憶がついてこないのぉ


 だから、こうやって魔方陣を作って

 君の脳に入っている記憶を私たちの世界の身体に転送する訳なんだなぁ


 ちなみにこれは、魔法じゃなくて、魔術の類いだからぁ、

 覚えると君にもきっと使えるよぉ」


分かるような、分からないような...

頭の中で整理を試みる。

肉体と精神、肉体ってのは賢者がいう物質なんだよな。

人間の身体ってのは、ほとんどのタンパク質でできるているから物質と言って正解なのか。

それで、記憶は脳に保存されるんだから、その肉体に保存される。

で、今、こうやってあれやこれや考えているのは、精神?

これは脳じゃないのか?

脳でこうやっていろいろな事を考えているんじゃないのか?

精神ってのは、別の存在?何それ?えっ。。。


「また頭の中で会議を始めちゃってるみたいだから

 詳しい事は、向こうについてから説明してあげるね


 私たちの世界に行けば、自然とそれもわかるようになるわよぉ


 さて、それでは私達の世界に移動する手順を説明するねぇ

 まずは、君の脳に入っている記憶を

 私達の世界で用意してある身体に転送しまぁす

 

 次に君の身体と繋がっている精神を

 身体とのつながりを外してぇ

 私達の世界で用意してある身体とつなぎます。

 

 最後に、この世界に残してある君の身体に、

 私達の用意した精神をつなぎ合わせます」


賢者は、指を1本2本3本と立てて、

これからやることを説明してくれる。


なんとなくこれからの手順は理解できた。


賢者たちの世界にある身体に自分が入り、

この身体に、別の精神が入る。

この世界で自分の身代わりとなって生活するって事ね。


「理解が早くて助かります」


賢者は、俺が心の中で整理した内容を読んでいたようで、

こちらを見て笑顔をむける。


ただ、ちょっと疑問が浮かんだ。


ーー別の肉体に入るなら、俺の病気治すの関係なくね?


「病気の状態のまま、この世界に残しておくのぉ」


うっ・・・


それは危険だ。

ものすごく危険だ。

でも、病気が治っていきなり、

自分らしくない行動とられると、周りを混乱させるのでは?


「君の記憶はこの身体に残るからねぇ

 新しく入った精神は、君の記憶を引き継ぐし、

 君がこの身体に戻った時は、君がいない時の記憶も見ることができるよぉ」


なるほど、記憶は身体に残るっての結構便利だ。

・・・それって、もしかして恥ずかしい記憶も・・・


頭の中に、人にはとても見せられない記憶がよみがえる。


「できれば、そういう事は考えないでくれるぅ」


ーー心読むのだけは、マジでなしにしてください。


「まずは訓練あるのみかなぁ?」


ーーこの意地悪賢者っ。


「てへっ」


ーーもう、それ可愛いからやめてくれ。


「良いこと教えてあげよっかぁ?」


賢者は魔方陣を書く手を止めて、笑顔でこちらによってくる。


「携帯電話のライトで私の顔を照らしてくれるぅ」


賢者に言われるままに携帯のライトで賢者の顔をてらす。

なんだろう。もの凄く嬉しそうな笑顔だ。

賢者の笑顔を見ているとこっちはまで嬉しくなってくる。


「さてぇ、ここでもう1つ教えてあげるねぇ。

 今、私はしゃべっているでしょうかぁ?」


「はぁっ?!」


賢者の表情は笑みを浮かべたまま。

なのに賢者の声が聞こえてくる。

腹話術?賢者の口元は一切動いていない。


「君はさっきから本当に声を聞いているのかなぁ?」


目の前にいる賢者は笑顔のままで、表情は一切変わっていない。

頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだ。

賢者は両手で、自分の耳をふさぐ。


「もしもぉし。聞こえますかぁ?

 君は私の声を耳で聞いているのかなぁ?」


・・・全身に悪寒が走る。

賢者の口元は一切動いていないし、耳は塞がれ音は聞こえないはずなのに、

賢者の声は確かに聞こえてくる。


水の精霊・・・そういえば水の精霊の声はどうやって聞こえていた。

物理的には存在しない水の精霊。

でも、確かに声は聞こえていた。


賢者には、自分の心の声が聞こえている。

なら、その逆の賢者の心の声も自分に聞こえている?


「せ、い、か、い!

 君は表情豊かで面白いねぇ。」


賢者は両手で、俺の肩をつかみ、満面の笑みを浮かべる。


完全にやられた。


今まで聞こえていた賢者の声は、

物理的な空気の振動による声ではなく、心の声。


音ではなく、心の声。テレパシーという奴だ。


ーーもしかして、これって伝える相手を選択したり、これは伝えてこれは伝えないとかもできるの?


「もちろん、できるよぉ

 できないと君のように困っちゃうでしょ」


賢者は、満面の笑みを浮かべて魔方陣の作成に戻っていく。


ーー練習、努力しだいですか?


「ピンポーン」


賢者から、心の声で返事が返ってくる。


自分の中の常識が、どんどん崩れ去っていく。


「2つの声をうまく使い分けできるようにぃ

 私の世界についたら勉強しようねぇ」


この賢者、美人なくせに小悪魔系かよ。


「君はこういう女の子が嫌いじゃないでしょ?」


もうやだ。やっぱりおまえは賢者じゃなくて、魔女だ。




異世界に行ったら、まず心の声が読まれないように勉強?練習しよう。

この環境は身体に悪い。


・・・


「魔方陣できたから、こっちにおいでぇ」


賢者の立っている方向をみると、足下が目がくらむような明るさの緑色の光を放っている。


魔方陣の完成を意味する明かりなのだろうか?

結構綺麗な明かりで、リアルにすごい。

LEDの明かりより、粒が小さく暖かな明かりだ。

多分、自分たちの世界の技術では、このサイズの発光体を作る事は不可能だろう。


賢者の指さす所をみると、魔方陣の中心だ。

当然と言えば、当然か、自分の記憶を転送するんだから、

自分がこの魔方陣に入るんだよな。


魔方陣の中心にたつと、緑の光の粒が全身を覆う。

ーー綺麗だ。ちょっと踊ってみたりしてもいいかな?


「緑の光をまとっている時はやめておいた方がいいかなぁ。

 緑の魔方陣は命の精霊だからねぇ。

 命の精霊で遊ぶのがどういう事か、君にもわかるよねぇ」


ーー了解です。じっとしてます。


「それじゃぁ、君の脳に入っている記憶を、

 私の世界に用意してある身体に転送するねぇ。

 古い記憶から順番に転送するんだけど、

 記憶を読み取ってる間、君自身もその記憶を見る事になるんだけど、

 どうする?」


えっ?

ここにきて、いきなりの質問。

どうするって聞かれても、何をどうするの?


「ごめんねぇ。

 質問をした私がいけなかったみたい。

 それじゃ、転送を開始するねぇ」


了解。了解。

・・・

・・・

・・・

ふっと訪れる暗闇。

手足の感覚が遠くなるのを感じる。

光ひとつない暗闇の世界がおとづれる。


・・・


・・・


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