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異世界初日(1)

頭が重い。上下のまぶたがくっついてしまったように重い。

手足が遠く、重い。

指先の感覚が遙か遠くに感じる。


ーーううっ、これは血圧が上がるまで動けないか。


このまま意識を覚醒させないままだと、1日が過ぎてしまう。

起き上がれないにしても、目を開いて意識を覚醒させないと血圧も上がらない。


目をかすかに開き光を感じて、深く何回も深呼吸を繰り返す。

視界は半分以上なく、視点も合わない。

低血圧症状を持っている人間の朝はそうやって数分を過ごす。


血圧が上がるのを待たずに起き上がろうものなら、

手足は言うことを聞かずに、転んでしまう。


まぶたをしっかり開きたいが、抵抗があって開けない。

まぶたが重い。


鼻で深く息をする。息苦しい。

何かが胸の上にのしかかっているか、胸の動きを阻害している。


ーー苦しい。。。


最悪の朝を迎えた感じだ。

これは学校は午後からかと考える。

午前中は、身体を起こす事に専念しよう。


このままもう一度寝てしまうと、お休み決定だ。

身体が動かなくても、目があかなくても、寝てはいけない。


寝れば血圧が下がってしまう。


暗闇の中で考える。

なんかものすごい変な夢を見た気がする。

防空壕の中で、変な女性とあって、

いきなり異世界とかに連れて行かれる変な夢だ。

夢を思い出すと笑ってしまう。


今のこの身体の状態。

手も足も、身体はすべて血圧が低くて動かない。

身体はどこも治っていない。


いつもと同じ、低血圧症状の身体の重さ。

重く、そしてすべてが遠い。まるで身体がはるか彼方にあるかのようだ。

自分の身体のはずなのに、まるで遠くにいる誰かの身体を動かすように、ものすごく遠くに感じる指先や足。こればかりは、分かる人にしか理解できないだろう。

カチャッ カチャカチャッ


なんの音だろう。何か硬い物が擦れ合う音がしている。


ーー部屋にネズミか?ネズミが動き回っているのか?

  ネズミ対策って何買ってくればいいんだっけ?


まぶたを開いて、音の出所を確認したいのだが、

どうにも重くてまぶたが開かない。


内出血覚悟で、片手で屈伸して強制的に血圧をあげるか...

それはそれで。。。やだなぁ。。。


音の原因を確認の為には、まぶたをあけないといけない。

身体を動かすには、血圧を上げるしかない。

急いで血圧を上げる方法は、手足を上に上げて関節の曲げ伸ばしが一番だ。


「賢者様、意識はあると思うのですが、

 身体と精神との結びつきに、もう少し時間が必要なようです。」


ーーん??


男の子っぽい声が左から聞こえてくる。


「ありがとうぉ。」


ーーん???


今度はどこかで聞いた事がある女の声。

自分の左に少なくとも2人いるようだ。


自分の家に誰かがやってくる事はない。

もしかしたら、どこかで倒れたか何かあって、病院にいるのだろうか?

もし、病院にいるのだとしたら、現在の状態も納得できる。

相当やばい状態で倒れて、病院へ。

そして意識を取り戻したというのが今の状態なのだろう。


ーーまた色々な人に迷惑をかけちゃったか。


「さっきから、心の声がまる聞こえだよぉ。


 身体と精神が結びつくまでもう少し時間がかかるみたいだから、

 おとなしく寝ててねぇ」


ーーえっ???


聞き覚えたのある女の声。

そして、夢の中で出て生きた「心の声」という単語。


ーーああ、まだ夢の中なのか。防空壕での夢の続きをまだ見ているのだ。

  早く起きないと、凍死してしまうなぁ


「夢でもないしぃ。凍死なんか絶対しないよぉ


 でもまだまだ時間がかかると思うから寝てていいよぉ」


ーー・・・


「うわぁぁぁぁぁ。」


息を深く吸い込み、声を上げて一気に息を吐ききる。

普段や絶対にやらない強制覚醒。

急激に血圧が上がる為に、一歩間違うと脳内出血をしてしまう危険な方法だ。


上半身を起こして、目を開ける。

すぐに声がしていた左側を向く。

黒い髪、透き通るような白い肌。

笑みを浮かべて女性がこちら側を見ている。


「おはようぉ

 ここは私が用意した君の部屋だよぉ


 君は、寝てていいよぉっていうと、起きるんだねぇ」


女性は笑みを浮かべて、台の上にあったカップを持ち上げる。


天井に目をやり、部屋の中の見渡す。

部屋の広さは、自分の家のリビングより広い。

ベッド、机、椅子、洋服タンス。

そして、女性と台がある。

台の上には、キャンドルライトとポットとカップ。

部屋の造りは、歴史のある西洋の作りっぽい。

自分のほっぺたをつねってみると、痛みがはしる。

これは夢ではない。

あの暗闇で見た女性がとなりに座っていて、見た事もない部屋のベッドで自分は寝ていた。

どうやら、本当に今までのことは夢ではなかったらしい。


「ねぇ、賢者様ぁ。

 まだちょっと早いと思うんだけどぉ

 どうするぅ?」


男の子の声がする方に目をやるが、誰もいない。

もしかして、近くに精霊がいるのか?

台があり、銀のポットと陶器のカップがあるだけだ。


「ねぇ、君はぁ。

 コーヒーと紅茶、どっちにするぅ?」


ーー・・・姿がみえないけど、声が聞こえるってのは事は水の精霊さま?


「君は私の事よりぃ。水の精霊の方が気になるのかしらぁ」


頭の中で、記憶をたどる。

このパターンはものすごくやばい。

痛い思いをした記憶しかない。


「いやっ、そんな事はないですよ。

 ただ姿が見えないから気になっただけで」


ーー水の精霊様、フォローお願いします。


・・・


・・・


「水の精霊なら、君の元の身体についたままよぉ

 あの子はむこうの世界に慣れてるからぁ、

 怪我をしても、ばれないように直してくれるわぁ。

 安心していいわよぉ


 君の暮らしていた岐府は、

 精霊たちにとっても暮らしやすいみたいだからねぇ

 向こうで羽を伸ばしてるかもねぇ」


ふぅん。水の精霊は自分の身体に。

自分の地元の岐府は確かに自然豊かで水が綺麗な場所だけど、

やっぱり精霊とかにとってはその方が過ごしやすいのか。

でも、それなら声の主は一体誰なんだ?


「それでコーヒーと紅茶、どっちにするぅ?」


「ああ、コーヒー、砂糖とミルクありで」


「コーヒーねぇ

 しっかり目が覚めるように

 苦いコーヒーを炒れてあげてぇ」


賢者は笑みを浮かべて台にむかって話す。


台の上の銀のポットが宙に浮き、空のカップにコーヒーが注がれる。


「うわっ」


その光景を目にして思わず驚きの声をあげてしまった。

ポットが宙に浮いている。

そしてカップにコーヒーが注がれている。

改めて、ここが元の世界ではない事、魔法のある世界だとわかった。


すげぇ。


ーーマジ?いきなりポットが空飛んだよ。


賢者を見るが、何か特別な動作をしている訳でもない。

それに賢者は「炒れてあげてぇ」と言っていただけ。

もしかして、その言葉が魔法の発動だったのか?


「なぁに?」



賢者は楽しそうな笑顔で聞いてくる。


ーー俺がなんで見ていたか、知ってるくせにっ!


賢女の口元が揺るむ。


「お砂糖は何杯入れればいいかなぁ?」


台の方から男の子の声がする。


ーー多分、何かがそこにいる。精霊?


誰もいないはずの場所からのいきなりの質問。


・・・あれ?


声の聞こえてくる方向がわかる?

何かおかしい。違和感がある。

水の精霊と話をしていた時、あいつの声って。


心の声と、物理的な声。

声には2つあるって事は、ここに来る前に賢者に教えてもらった。

今聞こえてきたのは、あきらかに物理的な声。


台の上をよく見ても、ポットとカップがあるだけ。


ーーこれはもしかして・・・


銀のポットとカップをジィっと見つめる。

もし、これが自分の知っている物語の中だとしたら、

どちらかが、しゃべっているはずだ。

だけど、どちらにも目や口はついてない。

ごく普通のポットとカップだ。


しかし、


ーーあやしい。


絶対にこの辺りから声がした。

何かがある?いる?はずだ。


ポットとカップでなければ、このキャンドルライト。

それ以外だとしたら、透明人間。


この世界で、自分の知ってる世界の常識で考えるのは危険だ。

魔法とか精霊とか、心が読めるとか、ありえない事ばかりだ。


「君、本当に心の中はおしゃべりだよねぇ」


賢者がこちらを見て、手で口元を隠しながら笑っている。


自分の考えている事が聞かれてる事はもうわかってる。


「このチート魔女。美魔女っ。」


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[一言] ネズミ対策って何買ってこればいいんだっけ? ↓ ネズミ対策って何買ってくればいいんだっけ?
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