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基礎から始める魔法研修(3)『小人の弟子』

昔々、地球が生まれるよりももっと以前、この世界は15の種族によって戦争が繰り広げられていた。陸の覇権、空の覇権、山の覇権、海の覇権をめぐり、沢山の犠牲者を出して戦争は続いた。


7人の賢者と6人の大精霊は、世界に対して不干渉を貫いており、種族間の争いへの関与も一切せずにいた。


時が流れ、15の種族は13に減り、11に減り、種族はどんどん絶命していく。


創造主が別の世界を作り終え、この世界に戻ってきた時には、世界は光の世界と闇の世界の2つに分かれてしまっていた。

それを見た創造主は、この世界に新たな区切りと新たな種族を作り、7人の賢者と盟約を結び世界に関与するように伝えた。


その時に生まれた種族『人間』


この世界で、最も弱くか弱き存在であり、罪を犯した者たちに与えられた贖罪の機会。


7人の賢者と結んだ盟約は『人間が絶滅した場合、この世界を無に返す』という物だった。


7人の賢者は話し合いをおこない、世界の区切りを利用して大きく7つに分けて、それぞれが管理をする事にした。


こうして、この世界に平穏な日々がおとずれた。


創造主が人間の賢者を作るその日まで...






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






妹のお見舞いに来た病院の廊下。

私はそこでかわいい小さな男の子と出会った。


男の子は笑みを浮かべて近づいてきて、


「君は妹さんの病気を治したいかな?」


といきなり聞いてきた。


もの凄く気味が悪く、小さな子供の幽霊か、死に神だと思った。

男の子の言葉を聞かなかったフリをして、私は妹の病室へ急いだ。


妹の入院している病室に入るとすぐに異変に気づいた。妹がベッドから起き、立ち上がって窓から外を見ていた。

私は言葉を失った。


病室に入った私に気づいた妹は振り返って笑みをこぼす。

私は妹の笑みを見て涙した。


もう何年も見ていなかった妹の笑み。


その笑みが私にはとても嬉しくて...


「お姉ちゃん、大丈夫?」


泣き崩れた私のもとへ妹が心配そうな表情を浮かべて駆け寄ってきた。


「大丈夫。大丈夫よ。ちょっと嬉しく」


私は妹を抱きしめた。

ずっと、ずっと寝たきり状態だった妹が、

自分の足で立って、歩いて、話をしている。


「でも、なんで?なんで?病気は大丈夫なの?」


妹の両頬に手を当てて、妹に聞く。


「ちっちゃくて可愛い男の子がきてね。

 知り合いの男の子の

 数少ない友達だからって

 動けるようにしてくれたの」


「えっ?・・なに?男の子?」


私はひどく動揺した。

知り合いの男の子の事も、

ちっちゃくて可愛い男の子の事も私は知らない。


妹が私の知らない所で私の知らない人と会うなんて事はあるはずがない。


「その子を動けるようにしたのは、

 僕からのサービスかな?」


声のする方を見ると、廊下にいた男の子が立っている。妹は、その男の子に気づくと笑みをこぼして軽く会釈する。


「なぜ、そんな事?どうやって?」


私はすぐに男の子に質問を返した。


「ある男の子の記憶の中を覗いたんだ。

 その男の子の記憶の中にその女の子がいたんだ。


 男の子の記憶に残っていた

 数少ない一緒の時間を過ごした女の子。

 だから、僕はその子の力になった。

 ただそれだけだよ」


男の子の言葉の意味がわからない。

この男の子はいったい何を話しているんだろう。

ただ、妹はすぐそばで立っている。

自分の力で立って、今目の前にいる。

この事実は変わらない。


妹が男の子のそばに駆け寄って、男の子の頭をなでる。


「この男の子が私を動けるようにしてくれたんだよ」


妹が嘘なんか言うはずがない。

嘘を言う必要なんてないし、嘘をつく知識もない。


「君は、この男の子の事を

 知ってるんじゃないかな?」


男の子の足下から、綺麗な緑の光の粒がどんどん広がっていく。

その緑色の光の粒は、宙を舞い、空中で色々な形を作り出していく。

そして光の粒は、集まり人のかたちをつくる。


私は、光の粒で作られた男の子を知っていた。

小さな頃から妹と一緒に入院をしていた男の子だ。

いつも下を向き、誰とも目を合わせようとしない男の子。


私が大嫌いだった男の子だ。


「本当は、君の妹に頼むつもりだったんだけど、

 僕の魔法では君の妹を完全に治すのは無理なんだ」


男の子は妹に向かって苦笑いを浮かべて話をする。


「まほう?治せない?」


「君の妹の病気はウィルスが原因だから、

 治癒魔法では治せない。

 治癒魔法ってのは壊れた物は治せるけど、

 命を奪う事はできないんだよ。


 たとえ人間にとって悪な存在であっても、

 生きている者は治癒魔法では殺せない」


「・・・この光の粒も魔法なの?」


男の子は笑みを浮かべてうなづく。


この世界に魔法があるなんて信じられない。

でも、目の前にある光の粒で作られた人間は初めてみるし、

こんな事ができるなんて聞いた事も見た事もない。


「お姉ちゃん。お姉ちゃんにお願いがあるの」


妹は、男の子の前に一歩出て話をした。


「私の事を助けてくれた男の子に

 力を貸してあげてほしいの。

 

 本当は私が行きたいんだけど、

 私の身体の中にはウイルスがあるから、

 無理をさせられないって」


妹の目が潤んでいる。

妹は苦しいんだ。

助けてもらったのに、

自分は何もしてあげられない事が。


「今、その男の子は僕たちの世界にいるんだ。

 自分の力に気づけなくて、

 必死にあがいている所かな。

 もしよかったら、君に手伝ってほしんだけど」


男の子いう『僕たちの世界』、

それは、この世界の事じゃなくて、

異世界という物だろうか。


「その世界に行ったら、

 妹の病気を完全に治す事もできるの?」


「お姉ちゃん」


妹の制止を無視して、私は話を続けた。


「妹の病気が治せるのなら、

 私はどこにだって行く。

 

 私は、自分のやりたい事、

 妹の病気を私の手で治す。

 

 だから、お礼を言うなら自分で言いなさい。

 私じゃなくて、自分で口で」


私は、妹の目を見てはっきりと言った。


「僕たちの世界は、

 この世界より科学も医療もずっと進んでいるから、

 きっと治す事もできると思うよ」






私は、異世界に行く事を決めた。

妹に頼まれたからじゃない。

自分の意思で、自分のやりたい事をする為に。




小さな男の子につれられて異世界についた私は、研修をおこなうからと研修会場につれていかれた。この世界に来た人間に、この世界の事を教える為の研修だと説明されて。


研修会場で待っていたら、突然大きな音がしてみんなが窓に集まる。

私もつられて窓によって外を見ると、空に浮かぶ可愛い女の子と、泥まみれの1人の人間が立っていた。


「異世界にまで来て、

 こんなバラエティ番組の

 お笑い芸人やるとは思ってなかったわ!」


私は、この時初めて男の子の声を聞いた。

元の世界では一度も聞いた事がない男の子の声。


研修会場に入ってきた男の子は、私の事を気づかなかった。

妹とそっくりな私に気づかない男の子にちょっと腹がたった。

でも理由はそれだけじゃなくて、この男の子のおかげで妹の病気が治った事が悔しかった。

妹が笑顔を取り戻すきっかけとなった男の子。

それが私じゃない事がとても悔しい。


男の子は私の前の席に座ったが、落ち着きがなくて、すぐに後ろに立っているエルフの賢者様の方をむく。

私は男の子が振り向く度に視線に入らないように、身体をずらした。


男の子は、横目でチラチラとみんなを見ている。

そして、振り返った時に私と目があった。


男の子は目を大きくして驚きの表情を浮かべて前に顔を向けた。

その表情から、私の事に気がついたのがわかった。

私じゃなくて、妹に。


私は、この男の子を助ける為に、この世界にきたんじゃない。

もし助けたとしたら、それは偶然で私の目的達成の為のついでだ。

この男の子を助けるのは、私じゃない。

私は必ず妹の病気を治す。

妹の涙する顔は見たくない。

だから、必ず妹の病気を治して、この世界に妹をつれてくる。


私の夢は、妹の夢を叶える事だから。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






賢者の弟子たちが研修に参加し、同じ世界から来た人との出会いをはたしていた頃、人間世界でも賢者の弟子はある出会いをはたしていた。



県立総合病院の屋上。


いつも防空壕で時間を過ごしていた男は、今日は天気も良いという事で、通っている病院の屋上で過ごしていた。


病院の屋上は出入りが自由となっており、入院患者の洗濯物なども干されていた。


男は、風が当たらなくて、日があたる場所を探す。

時間はお昼過ぎ、あと半日程度休めばいいだけだ。


「元気そうですね?」


男は背後から声をかけられ少し肩をびくつかせた。

男はゆっくりと振り返り、頭を少し下げて挨拶をした。


小さい頃、小児科病棟で一緒に入院していた女の子だ。

この女の子は「慢性脳炎まんせいのうえん進行性多巣性白質脳症しんこうせいたそうせいはくしつのうしょう」を煩い、記憶障害という後遺症を持っていた。

なので、男はこの女の子から声がかけられた事に対してかなり動揺していた。


小さい頃、人の名前も文字も覚える事もできなかった女の子。

そんな女の子が自分の姿を見て「元気そうですね?」などと言えるだろうか。


「君も元気そうだね?」


この言葉はこの場を取り繕うためだけの嘘でもあり、本音でもあった。


「はい」


女の子は笑みを浮かべて答える。


今の医学では絶対に完治不可能な難病で、有効な治療薬もないはずだ。自分の持っている医学の知識を思い出してみても、こんな風に話したり1人で動き回ったりできるはずがない。


「私、治ったんですよ」


「えっ・・・」


女の子の言葉に、思わず驚いて声が出る。

そんな事があるのだろうか。


・・・いや、ある。自分がそうであるように・・・


「魔法の世界って信じますか?」


「えっ?魔法の世界?」


「はい。この世界とは違う魔法の世界。

 今お姉ちゃんが

 ちっちゃくて可愛い男の子と行ってるんです」


「お姉さんが?」


緊張の糸が切れ、大きく息を吐く。


「お姉ちゃんが魔法使いの男の子と約束して、

 私の病気を治してくれたんです。

 

 私の場合はウィルスが

 まだ身体の中に残ってるから、

 もしかしたら再発するかもしれないって」


女の子は少し寂しそうな表情を浮かべた。


「あなたも、今お姉ちゃんと同じ状態なんですよね?」


「えっ?」


「雰囲気がお姉ちゃんと同じなんですよ。

 どんなに記憶を引き継いでいても、

 やっぱり別人なんです。

 あなたは私が知ってる人とは別人。


 それに病気の方も治ってるみたいだし」


男はこの子が異世界の事を知っている事は確実だと思った。

そして今ここで自分が嘘をついたとしても、それがいずれバレる事も。

この女の子はおそらく、自分が自分でない事を知っている。

ちっちゃい男の子に聞いたのか、それとも本当に勘で気づいたのかはわからないけど、異世界の事を知っている人間相手に、嘘をついても意味がない。


「そっかー。わかっちゃうかぁ」


「はい」


女の子は、満面の笑みをこぼす。


「今の自分、って言いかたもおかしいんだけど、

 本当の自分は今異世界に行ってるかなぁ。


 なんとなくなんだけど、

 自分は、自分が自分でないような気がするんだ」


「私から見ても、なんとなくだけど違いますよ」


「なんとなくか...

 例えばだけど、どんな所が違うの?」


「まず、あの人はそんな風に笑いませんし、

 私が話しかけても、私の顔を見ようとしたり、

 話をしようとはしませんよ」


男は女の子に言われて苦笑いを浮かべる。


「記憶って言っても、

 すべての記憶がある訳ではないから。

 どうしても記憶に残ってない部分とかで、

 本人との違いがでちゃうんだろうね」


男が観念したように話すと女の子はにっこりと笑う。


「それに君は色々と聞いてるみたいだね。

 君のお姉さんも本の翻訳に行ったの?」


女の子を首を振って答える。


「自分の夢を叶える為って言ってました」


「なにそれ?」


女の子の答えに思わず笑って答える。

その笑みを見て、女の子も笑みをこぼす。


男と女の子は日が暮れるまで異世界の事。

異世界に行くことになった経緯について話をする。


男はこの世界で初めて、異世界の事を話す事ができる相手と出会った。

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